五本指の野獣

五本指の野獣

50年にイタリアのサン・ステファノで実際に起きたと思われる出来事・・と、思わせぶりな感じで始まる。コンラッドはアメリカ人旅行者を相手に、怪しげなカメオを売りつけて小遣い稼ぎ。オヴィディオ署長からジュリアが村を去ると聞くと、イングラム邸へ。イングラムは右半身がマヒして車椅子ピアニスト。コンラッドは彼のために以前一曲書いたが、それ以降は全然書けない。観光客にニセモノ売ったり、イングラムの相手をしたりの日々。でも少し前からはたぶんジュリア・・ジュリー目当てでイングラム邸に出入り。そのジュリーは看護師だが、最近やめたいと思い始めている。イングラムは生きる喜びを与えてくれたとひとときも彼女を手放ず、看護以上のもの願っているようで。気重いし疲れるし。コンラッド役はロバート・アルダ。息子のアラン・アルダが出ていた「悪魔のワルツ」を思い出す。あっちは老齢の著名なピアニストが実の娘に異常な愛情を抱き・・だったけど、こっちは看護師に執着。話を戻して、イングラムの秘書をもう20年もやってるのがヒラリー(ピーター・ローレ)。1946年というとローレは40を過ぎた。後年の太ってコミカルな役の彼もいいけど、やっぱり若い頃の異常なキャラを見たい。ヒラリーは占星術の研究に没頭している。イングラムの蔵書は彼にとって宝の山。したがってジュリーがここを去るのは何としても阻止したい。イングラムにつきっきりになったら自分の研究の時間がなくなってしまう。何とも自分勝手な考えだが、イングラムのことはたとえ体が不自由でも誰もかわいそうなんて思わない。尊大で口うるさいクソジジイ。ジュリー、ジュリーとせわしなく呼びつけるし。さて、彼はジュリーやヒラリー、コンラッドの他に弁護士のデュプレックスも呼びつける。自分が正気であることを確認させ、コンラッドとヒラリーに書類にサインさせる。要するに遺言作ったわけ。その後イングラムがジュリーを呼んだ時、ヒラリーが来てジュリーとコンラッドが駆け落ちしようとしていると話したため、怒った彼はヒラリーの首を絞め、クビを言い渡す。彼は指輪をしているため、ヒラリーの首には傷が残る。この指輪は何度もうつる。その夜、イングラムは幻覚を見て車椅子ごと階段を落ち、死んでしまう。この後起きる様々な怪現象の多くは人為的なものだが、この時点では・・。幻覚がなぜ起きたのかははっきりしない。

五本指の野獣2

ところでイングラムの寝室が二階にあるのは考えてみりゃおかしいんだよな。車椅子ごと朝晩階段を上げ下ろしするのか。それとも誰かが抱っこして運ぶのか。体が不自由なら、すべてが一階ですむよう寝室も移すはずだが。リフトらしきものもないし。要するに彼が階段から落ちて死ぬ・・それだけのために寝室を二階にしたのだろう。ただ、この車椅子ごと落っこちるアクションはなかなかのもの。イングラムの葬式ではコンラッドが喪主を務める。親族として義理の弟アーリントンとその息子ドンが来る。アーリントンの妹の夫がイングラム?だったらアーリントンは義理の兄では?それはともかく、イングラムは結婚したことがあるんだ。父子の関心は遺産のことだけ。家具とか本とか金になりそうなものはみんなイギリスへ持っていくつもり。ヒラリーは本は自分のものと主張するけどムダ。その後遺言書の公開となるが、もちろんジュリーがすべてを相続する。彼女はこんなこと想像もしてなかったけど、たぶんアーリントン父子の態度のせいもあって、受け取ると宣言する。おさまらない父子にデュプレックスがまたかき回すようなことを言う。変更前はドンが相続人だったのに書き換えただの、ドンが受け取れるようにするから成功したら手数料として三分の一くれだの、なかなか腹黒い。たぶんイングラムにはさんざんいやな思いさせられていたんだろうなあ。その頃遺体を安置した霊廟にポツンと明かりがついて、メイドが悲鳴をあげたりする。行ってみても何ともない。ただ、後でこの時イングラムの手首が切られ、持ち出されたことがわかる。夜、判事に手紙書いていたデュプレックスが襲われる。ピアノの音でジュリーやアーリントンが起き出す。デュプレックスの死体が見つかる。警察が来る。霊廟を詳しく調べると、遺体の左手がない。窓が内側から一部割れているけど、人間が通れる大きさではない。外の地面には手のひらのあと。手が這っていったような。前にもどこかで書いたが、レ・ファニュの短編に「白い手の怪」がある。手って気持ち悪いんだよな。指が長いから表情も豊か。これが足だと間抜けに見えるけど。後で、二階にあるジュリーの部屋の窓ガラスにも手のあとがあったとわかるけど、想像しただけで気持ち悪いよな。手が中に入ろうとしてガラスをウニョウニョ這い回る・・ウゲゲ。ここらへんは怖くてなかなかよろし。

五本指の野獣3

そのうち村にもうわさが広まって、呪われているということになり、村人はジュリーやコンラッドを避け始める。ここから離れたくても、署長に止められるし。一方書斎で研究に没頭するヒラリー。そこへドンが来て、本棚に隠し金庫があるのがわかる。古い方の遺言書はここに入ってるに違いない。しかし彼は暗証番号が思い出せない。その後、気になって眠れないのか書斎に忍び込むドン。途中でピアノの音が聞こえてくる。後ろから何者かに襲われる。屋敷に泊まり込んでいた署長はドンの首を絞める”手”を目撃。こうなると彼も信じざるをえない。ドンは助かったものの、使用人三人は夜逃げ。このあたりから、ピーター・ローレ劇場となってくる。当然のことながら、愛し合っているコンラッドとジュリーは二人でいることが多くなる。ヒラリーが手のことで騒いでも本気にしない。彼は手を机の引き出しに閉じ込めるが、二人を連れてくると・・ない。二人がいなくなった後、本棚の後ろにいるのを見つけ、ハンマーで机に釘けにする。一方番号を思い出したドンは朝まで待てず、書斎へ。金庫を開けると中には手。ちゃんと甲には釘のあと。ショックでドンは森の中へ。追うコンラッド。この後署長、コンラッド、アーリントンは出てこない。よっぽどドン世話を焼かせたのだろう。その間に屋敷の中ではジュリーとヒラリーとの対決。ジュリーはヒラリーが犯人と見抜く。彼は精神を病み、幻覚を見、自分がやったのに手がやったと思い込んでいるのだ。一緒に暮らしていて彼のことが好きだから、何とかしてあげたい。あれこれあって・・ヒラリーは自分で自分の首を絞めたのかな?暖炉に手を投げ込むので、当然・・お約束のクライマックスでの屋敷の炎上となるかと思ったけど、燃えなかったな。署長によってピアノの音の仕かけが明かされるが、いつの間に?結局イングラムの幻覚のことは不明のまま。ジュリーとコンラッドはここを離れる。相続は放棄したのかな。見ている時は、実はコンラッドが犯人なのでは・・と思ったりした。彼は頭がいいから遺産がジュリーに行くのは予想できたし、仕かけなどもできたと思う。でもみんなヒラリーのせいにされてたな。ラストの署長のシーンはくどいし余計。ジュリー役アンドレア・キングは美人。てなわけで、ローレファンにはうれしい映画でした。