シャーロック・ホームズの冒険(ジェレミー・ブレット版)

シャーロック・ホームズの冒険(ジェレミー・ブレット版)

1 ボヘミアの醜聞

2 踊る人形

3 海軍条約事件

4 美しき自転車乗り

このシリーズには時々うれしい人がゲストで出てくれる。今回はジョン・キャッスル。他の事件で忙しいホームズのところへ、ヴァイオレットという女性が訪ねてくる。ホームズは気が乗らないが、相手が美しいレディとあっては断るわけにもいかない。彼女は父を亡くし、母親と二人暮らし。音楽を教えて何とか生計を立てている。だから新聞に消息を尋ねる広告が載った時には、誰かの財産でも入ったのかと期待した。しかし引き合わされたのは、叔父ラルフの友人だったというカラザース(キャッスル)とウッドリー。15年前アフリカへ行ったきりの叔父は、財産もなく没したらしい。カラザースは自分の娘セアラに音楽を教えてくれと雇ってくれる。破格の報酬なのでヴァイオレットも承諾。屋敷は田舎にあるので、週末はロンドンの母のところへ帰る。礼儀正しいカラザースと、かわいいセアラとの生活は楽しいが、言い寄ってくるウッドリーが悩みの種。そのうちカラザースも求婚して来る。彼女には婚約者がすでにいるので、二人の申し出は問題外。ところでホームズのところへ来たのは、自分が尾行されているからである。屋敷と駅の間は自転車で往復しているが、やはり自転車に乗った男がつけてくる。まあ誰が見たってカラザースの変装なのだが。ウッドリーが彼女を襲いかねないので、見張っているのだ。二人に求婚され、苦しい立場のヴァイオレットは仕事をやめることにする。ところが、駅に馬車で向かう途中誘拐されてしまう。ウッドリーが牧師くずれのウィリアムソンを仲間に引き入れ、無理やり結婚式を挙げてしまおうとする。実はラルフには莫大な財産があり、しかも死が迫っていた。今のうちに相続人のヴァイオレットと結婚して、財産をいただこうというわけ。見ていて、なぜヴァイオレットは自分には婚約者がいるとはっきり言わないのだろうとか、ウッドリーなら婚約者始末しそうなものだがとか思ってみたり。どちらが結婚するかはカードで決めたらしい。勝ったのがウッドリー。でもカラザースは彼女に本気で恋してしまったようで、気の毒に。どうせならウッドリーはカラザースもウィリアムソンも始末して財産を一人じめするつもりだったとか。それくらい脚色してもよかったのでは?あと、原作ではカラザースの娘のことには触れてないが、父親の服役中はヴァイオレットが面倒を見たとフォローされていて、そこはよかった。

5 曲がった男

NHKBSで「シャーロック・ホームズの冒険」が始まった。何度目の放映か知らんが、見るのは初めて。吹き替えなのが残念だが、露口茂氏や長門裕之氏とか懐かしいからいいか。この作品はいかにも短編という感じ。会話が多く、あまり大きな動きはない。殺人に見えたけど実は病死だったという結末は、本来なら物足りなく思えるところだが、そうならなかったのは人間ドラマとして厚みがあるからだろう。連隊のバークレー大佐が死に、そばには妻のナンシーが失神。夫妻が口論しているのをメイド達が聞いており、三人目がいた形跡もあるので夫人が疑われる。彼女には愛人がいたのか?副司令官マーフィはスキャンダルを避けたい。30年前ナンシーはまわりの男を虜にする魅力的な存在だった。そんな彼女と結婚し、出世も順調なバークレーは言うことなしのはずなのに、なぜか時々放心し、ふさぎ込む。ホームズは事件直前、貧民街へボランティアに行ったナンシーに何かあったのだと確信。友人のミス・モリソンに話を聞く。そこからヘンリーという男に行き着く。あの時居間にいたのはヘンリーだった。しかし彼もナンシーもバークレーを殺してはいない。じゃあさらに裏があるのか、マーフィの仕業か・・となるかと思ったらそうならない。ワトソンはバークレーの死因は卒中だろうと推測する。30年前ナンシーとヘンリーは結婚するつもりでいた。しかしバークレーは汚い手を使ってヘンリーを陥れる。そのせいで彼は過酷な運命をたどり、体も変形し、不具になってしまった。バークレーに復讐したいが、ナンシーには英雄として死んだと思われたい。今の醜い姿は見られたくない。でも偶然貧民街で出会ってしまった。思わずバークレーにだまされたことをしゃべってしまった。ここらへんの・・ちょっとしたことから運命が変わってしまったという悲劇。一方バークレーの方も決して幸福ではなかった。自分にやましさがあるせいで、ナンシーのことが信じられない。今後ヘンリーとナンシーがどうなるのか不明だが、ホームズには興味ないだろう。ナンシーがうわごとで口走った「デヴィッド」という言葉。ヘンリーでも夫の名前でもないのになぜ?でもホームズにはすぐわかった。だからすごく気分がいいのだ。モリソン役の人は見たことがある。フィオナ・ショウ・・「ハリポタ」シリーズに出ているらしい。

6 まだらの紐

7 青い紅玉

8 ぶなの木屋敷の怪

ホームズがワトソンの記録をあれこれ言うシーンは、以前の放映ではカットされていたのか。補ってくれるのはいいとして、そこだけ全然別の声というのは妙な感じだ。最近持ち込まれるのはつまらない依頼ばかり・・と不機嫌なホームズ。若い女性が相談に訪れた時も、あんまり気乗りしなかった。手紙を放り投げるなどかなり失礼な態度。でも、話を聞いていくうちに・・。ミス・ハンター(ナターシャ・リチャードソン)は家庭教師の口を捜している。ルーキャッスル(ジョス・アックランド)という男が、6歳の息子を見て欲しい、年100ポンド出す・・と、破格の待遇を提示。ただ、条件として風変わりなことを要求される。中でも髪を短くしてくれというのはハンターには承知できない。一度は断ったものの、生活に困っているし、120ポンド出すという手紙も来た。とうとう申し出を受けることにしたが、その前に誰かに相談したい。それでホームズに助言を求めにきたのだが、彼女もホームズも相談料のことは何も言わないな。はっきりとした取り決めはないのかな(ホームズ初心者なので、何も知らんのよ)。リチャードソンはリーアム・ニーソンの奥さんだった人だ。数年前スキー事故で亡くなった。体も目鼻立ちもゴツゴツと大きい母親(ヴァネッサ・レッドグレーブ)とは違い、何もかもちんまりとまとまっている。まだ若いから肌はすべすべ、キム・キャトラルによく似ている。ホームズは何度かハンターの髪に触れていて、これは彼としては珍しい行為なのでは?ルーキャッスルの屋敷の一角はカギがかかっていて、どうも誰かが閉じ込められているようだ。また、屋敷をうかがっている青年がおり、髪を短くしたり青い服を着させられたりするのは、その青年に見せるためらしい。展開はわりとゆっくりだが、最後の方はどたどたした感じ。結局先妻の財産を継いだ娘アリスに恋人ができ、このままでは財産が娘夫婦に行ってしまい、今までのように勝手に使えなくなると危惧したルーキャッスルが、アリスを閉じ込め、証書にサインするよう迫っていたと・・。ハンターはアリスの身代わり。青年に結婚する気はないと思わせるため、雇われた・・そういうことらしい。それにしても財産も身寄りもなく、一人で食べていくことの難しさよ。貧しくとも品位を保ち、真面目に働いて生きようと奮闘するハンターの姿が心に残る。

9 ギリシャ語通訳

今回は本当に何が何だかさっぱりわからない。誰が誰やら、何が何やら。幸い原作を読んだら、ちゃんと説明されていたけど。ギリシャ語通訳のメラス(ウィリアム・ハート似)は、ある晩ラティマーという男の訪問を受ける。連れて行かれた屋敷では、憔悴した男が何やら強要されているようで。後でわかるが、彼はギリシャから来たばかりのクラティデスで、英語はわからない。一方ラティマーと相棒ケンプ(ピーター・ローレ似)はギリシャ語がわからない。それでメラスが連れてこられたのだ。原作によるとクラティデスの妹ソフィーはイギリスにいて、ラティマーと結婚したいらしい。彼女の財産は兄が管理しているので、彼女が(と言うことはラティマーが・・と言うことだが)自由にできるよう証書にサインさせたい。しかしクラティデスはラティマー達が信頼できず、拒み続けている。そのせいで食事も与えられず、監禁されている。メラスは彼が気の毒で、何とか助け出してあげたい。ホームズ達が屋敷に駆けつけた時には、ラティマー達三人はいなくなってる。クラティデスはすでに死亡、メラスは毒ガスで危ういところだったが、何とか間に合った。ホームズ達は三人の乗った列車に追いつくが、ここから先は原作とは違う。こちらではソフィーは何を考えているのかよくわからない。彼女は兄が殺されたことに驚くが、ラティマーを憎みつつも、愛しているので、行動を共にするつもり。血を分けた兄より、悪党でも恋人の方を取るのだ。これじゃあクラティデスは浮かばれない。ソフィー役の人には何の魅力もないし、ラティマーとケンプが頭悪すぎるのもバツ。クラティデスはラティマーと妹が愛し合ってると納得できれば結婚許すはず。それまで芝居するという頭もないらしい。ラティマーにも魅力がない。彼とケンプとでは明らかにケンプの方が個性的。彼が主犯でラティマーは手下に見えてしまう。今回の目玉はホームズの兄マイクロフトの登場。演じているのは「将軍たちの夜」などのチャールズ・グレイ。ディオゲネス・クラブというのもおもしろい。人付き合いが苦手、変人の集まるクラブ。話しかけても目を合わせてもいけない。いかにもイギリスならありそう。

10 ノーウッドの建築業者

これはわりと原作通り。いくつか変更はあるが、それなりの理由があってのことだろう。まず火事が起きる。焼け跡から死体が見つかる。翌朝ホームズを頼ってマクファレンという青年が来る。殺人の容疑をかけられているので助けて欲しい。レストレードが逮捕に現われるが、ホームズは少し待ってもらって、マクファレンから事情を聞く。彼は事務弁護士だが、きのうオールデカという老人が遺言書を作りたいと訪ねてきた。自分は独身で身寄りもほとんどいない。今は引退したが、元建築業者で、財産もある。ついてはこれを君に譲りたい。それと言うのも、自分は昔マクファレンの母親と婚約していた。結局彼女は他の男と結婚してしまったが、そうでなければ君は私の息子だったかもしれないのだ。とか何とかもっともらしいことを言われ、初対面なのに何で・・と驚いていたマクファレンもいつの間にか納得し・・。それにオールデカが両親の古い知り合いだということは聞いて知っていたし、それじゃあこういうこともアリかな・・と。言われた通り夜、オールデカ宅を訪問し、書類を作成。遅くなってしまって自宅へは戻れず、近くのホテルに宿泊。翌朝の新聞を見るまで何も知らなかったと。オールデカ宅を辞する時、ステッキがないのに気づいたが、後で捜しとくからと言われて疑いもせず・・。そのステッキのせいで自分が犯人とされ・・。ホームズから見れば、いくら財産を譲られたからってその日に殺すのはおかしいじゃないかとなる。家政婦のレキシントンに顔を見られているし、凶器のステッキを置いていくのもおかしい。しかしレストレードは無視する。やれやれこの時代ってこんな見え透いた罠も見抜けず、無実の者が絞首台送りになるのか・・怖いなあ。変更の一つは、マクファレンの父親が三ヶ月前に亡くなっていること。原作では生きているが、登場はしない。新聞で死亡記事を読んで今度のことを思いついたと。筋が通っているのでマクファレンも納得するわけ。また原作では(ちゃんとした)焼死体が見つかるわけではない。

10 ノーウッドの建築業者2

焼けた肉、オールデカのズボンのボタン・・それだけでもう彼だということに。しかし昔の読者ならまだしも、今の時代それじゃあ見る者は納得しない。だから焼死体。と言うことは誰かが身代わりとして殺されたってことだ。最初に見た時は、途中で雰囲気が変わるので妙な気がした。夜・・焚き火・・二人の浮浪者が何やらぶつぶつと会話している。この二人は誰?何を話しているの?そう、私はこのうちの一人が変装したホームズだとは気づかなくて。オールバックから前髪を垂らした・・それだけのことで別人。今回見直してみると、このあたりに詳しい警官に声をかけているし、きっと浮浪者のねぐらとか調べてもらったんだわ。付近を調べている時、浮浪者が残す合図(この家はほどこしをしてくれる)に気がついた。で、変装してそれとなく話を持っていく。すると年寄りの船員あがりが急に姿を消したことがわかる。ここらへんは原作にはない設定だが、作りがていねいな感じでよかった。また、ワトソンが通帳などを調べ、オールデカにはろくな財産がないこともわかる。コーネリアスという人物に、何回か高額の小切手を振り出している。そういった収穫があるのに、ホームズが行き詰まった・・今回ばかりはレストレードが正しいのかも・・なんてしょんぼりしているのはおかしいのだ。壁にマクファレンの血染めの指紋が付いていた、これは決定的な証拠だとレストレードが言ってきて、それで流れが変わることを印象づけたいのか。なぜならホームズが調べた時はそんなものはなかった。余計なことをした誰かがいたのだ。ホームズは家の作りから、隠し部屋があるのに気づく。で、わざと火事騒ぎを起こし、オールデカが飛び出すよう仕向ける。彼はサディストで突然人が変わる。不安を感じた相手に婚約を破棄される。それを執念深く恨み続け、ついには復讐に乗り出す。母親はナイフで傷つけられた自分の写真をホームズに見せる。彼の異常さを示すものだが、そんなもの取っておく彼女もねえ。原作だと焼けた肉は犬か、たぶんウサギ。

10 ノーウッドの建築業者3

警察をだましたとか、債権者から逃げたとかはあるにしても、数年の罪。でもこちらは浮浪者を殺しているから、罪は重い。ホームズに、復讐してやる・・と毒づくんだけど、それは無理でしょうよ。何で金を持ってさっさと逃げなかったんだろうと思うが、マクファレンや母親が苦しむのを見たかったのか。まあ姿を現わしてからのオールデカの描写は今いちだったな。ホームズが謎解きするのを聞いているだけで。と言って大暴れさせるわけにもいかないしね。オールデカの家は三階建てで、二、三階はほとんど使われていないようだ。彼と家政婦の二人暮らし・・何でこんな広い家に?それと最初の方で出てくる遺言状の原稿。ちゃんとした字の部分と、乱れたところと、まるで読めないところがある。ホームズは、これを書いたのは列車の中で、ちゃんとしているのは止まっている時、乱れているのは走っている時、まるで読めないのはポイントを通過した時・・と分析する。普通こんなことをわざわざ描写するとしたら、その列車はどこからどこまでを走っていたのかとか、そういうのが問題にされる。でも、そうならない。遺言書のような重要なものを、列車の中で書くのはおかしい。だからオールデカは本気じゃなかった、財産を譲る気なんてはなからなかったのさ・・となる。あの~でもそれって文字を分析するまでもなく、ちぎった紙に無造作に書かれてるって時点でわかるんですけどぉ・・。マクファレン役の人はどこかで見たような。調べてみたらマシュー・ソロンとか言う人で、「ミス・マープル」の「予告殺人」に出ていた。ひ弱なマザコンタイプだが、レストレードに連れていかれる時の訴えかけるような目とか印象に残る。それだけにラスト、釈放されて母親と今まで通り静かな暮らしを・・というシーンにホッとさせられた。この部分も原作にはないけどね。言うことをよく聞く従順な息子と、しっかり者の母親。息子はもう27歳くらいで、恋人とか結婚とか次のステップに踏み出してもいい年頃なのに、母子二人で完結してしまっていて・・いいのかしらねえなどと妄想がふくらむ。レキシントン役の人は「たたり」に出ていたらしい。あの無愛想な管理人の妻かな。

11 入院患者

ホームズ達のところへ医師のトレヴェリアンが相談に来る。彼は先立つものがないせいで開業できないでいたが、ある日ブレッシントンという見知らぬ男が現われ、援助を申し出る。開業資金の用意や手配はみんなやってやる、その代わり収入の4分の3をもらう。トレヴェリアンは承知し、腕がいいこともあって、二年たつ頃にはブレッシントンも金持ちに。彼は心臓が悪いので医院の二階に住み、トレヴェリアンに見てもらっていた。いわば入院患者である。何もかも順調だったが、ある日を境にブレッシントンの様子がおかしくなる。泥棒を警戒しているようだが、命を狙われているようにも見える。ある日ロシア貴族を名乗る父子が診察に来るが、ちょっと目を離したスキにいなくなる。ブレッシントンは自分の部屋が荒らされたと騒ぐが、何も取られたものはない。ホームズが会ってみると、なるほどおびえていたが、「真実を言っていない」と帰ってしまう。真実を言ってくれない限り、助けることはできない・・ここらへんホームズは譲らない。翌朝ブレッシントンが首を吊っているのが発見される。自殺に見えたが、ホームズは殺人と断言。そのうちこれには銀行強盗が関わっているとわかってくる。原作だとホームズを訪れたトレヴェリアンはひどくやつれて顔色も悪く、いかにも働きすぎという感じになっている。しかしこちらではそういうところはなく、普通。取り立ててハンサムというわけでもなく、地味で平凡だが、真面目で粘り強いタイプ。一つ一つ着実に片づけていく感じで、非常に好感が持てる。演じているニコラス・クレイは、「地中海殺人事件」に出ていたようだ。それにしても医者として開業するのって大変なのだなあ。待合室に診察室、手術室に薬品置き場。メイドの他に取りつぎなどをするボーイも必要。高価な医療器具を揃えなければならないし、往診のための馬車もいる。ブレッシントンのおかげで開業できたが、彼がいなくてもトレヴェリアンは貧乏に耐え、やがては目的を果たしたことだろう。また、今回ブレッシントンが死んでスポンサーを失ったわけだが、彼のことだからきっと今のまま繁盛し続けることだろう。今回他に目についたのは、ドアの横にある小さなテーブル。朝食やお茶のお盆をいったん置くのに使われる。用意されるお菓子のおいしそうなこと・・。「ミス・マープル」などでもそうだが、こういう時のお菓子ってお皿の底が見えないほどたっぷり乗っている。これが日本だとお皿の底がまる見えのスカスカ状態。吹けば飛ぶようなお菓子・・と言うよりかけらが乗っていて・・。これで本格的英国ティータイムでございますなんてちゃんちゃらおかしい!

12 赤髪連盟

これは普通に作れば30分くらいで終わってしまうような内容なので、ちょっと水増ししてある。黒幕がモリアーティというのは原作にはなし。冒頭のシーンのせいで、その後の展開が読めてしまうのは残念。ウィルソンという赤毛の質屋が相談に来る。新聞に載った「赤髪連盟」の欠員に応募したところ、首尾よく採用された。大英百科事典を筆写するという簡単な仕事をするだけで週4ポンドもらえる。8週間は楽しく過ぎたが、ある日突然事務所は閉鎖。仕事をくれたロスという男の行方もわからない。自分はだまされたのか?なぜこんないたずらを?お金も惜しいが事実を知りたい。・・今回は見ていていろいろ考えさせられた。多少の変更はあるが、そつなくまとめられていて出来はいい。サラサーテのヴァイオリン演奏など挟まれる描写も上品。で、ウィルソンだが、少し前ヴィンセントという男を雇った。採用したのは給料は半分でいいと言われたからだ。仕事もちゃんとやる。写真気違いで、よく地下室にこもるがそれくらいは大目に見ている。これって安いから、お得だからとつい買ってしまう心理と同じだ。少しくらいの欠点はがまんする。「赤髪連盟」にしても、最初は面接に行く気はなかった。どうせ他にも大勢赤毛の男が来るだろうし。でもヴィンセントにしつこく言われ、ついその気になってしまった。ロスの話はうますぎる気がしたが、独身じゃだめと断られかけたり、インクや紙は自前でなどと言われたせいで、かえって信用してしまった。一度だめになりかけると、人間ってかえって執着するものだ。また、ただ金だけやると言われたのなら警戒するが、この部分は負担してくれなどと言われるとかえって安心する。週4ポンドもらい始めると、もうそれがずっと続くと信じて疑わない。ある日突然仕事がなくなったとしても、32ポンド・・紙やらインクやらで少しはかかったとしても・・収入はあったわけで、それでいいじゃないかとなるところだが、ならない。もっと・・となる。質屋をやってるから生活に困るわけじゃない。でも惜しいのだ。一番嫌なのは誰か他の人間がこの仕事を受け継いで金をもらうこと。もらうのは自分だと思ってる。事実を知りたいと言うのは表向きで、本心はこんなところだろう。ホームズやワトソンはおかしくて噴き出してしまう。100年以上たった今も、まわりはこんな言葉でいっぱいだ。今だけ、あなただけ、安い、お得、ただで、安心、安全、確実、絶対。どちら様も気をつけてネ。

13 最後の事件

14 空き家の怪事件

いくつか小さな変更はあるけど、ほぼ原作通り。若いアデア卿が殺される。彼はカード好きで、その晩もクラブにいた。几帳面な性格なので、帰宅するといつもその日の勝負を記録する。殺されたのも計算している時。ドアには内側から鍵がかかり、窓は開いていたけどここから侵入するのは無理。お金は取られていないし、アデア卿は人から恨まれるような性格でもない。レストレードは、ホームズがいたら・・とワトソンに話す。何から手をつけていいのか、彼にはさっぱりわからないのだ。一方ワトソンの前に、死んだはずのホームズが突然現われる。驚きのあまり、彼は気が遠くなる。で、なぜ死ななかったのか、なぜワトソンに知らせなかったのか、この三年間どこで何をしていたのかなどが説明される。兄のマイクロフトだけには真実を打ち明けていたが、これは金銭的な援助が必要だからだ。この時ばかりはワトソンはちょいとおもしろくなさそうな顔つき。それ以外は素直に驚き、喜び、好奇心でいっぱいなのが微笑ましい。「シャーロック」とはえらい違いだ。あっちのワトソンは少しばかり根に持ちすぎ。さて、モリアーティは倒したけれど、あの滝の近くでホームズは狙撃され、手下が残っていることを確信。彼がベイカー街に戻ったことは、向こうも知ってる。早晩命を狙ってくるだろう。で、ホームズは向かいの家が空き家なのを利用し、ワトソンと共に潜む。自分が家にいるように見せかけるため、窓辺にロウ人形も置いてある。今回はハドソンさんも活躍する。15分ごとに人形を動かし、いかにもホームズ本人のように見せる。まあ・・人間ってあんなふうにまっすぐ前を向いた状態でいることは少ない。考えにふけるにせよ、本を読むにしろ、ややうつむきかげんのはずだ。そこがちょっと残念だった。とにかく二人が待っていると、一人の男がやってくる。彼はモランという軍人で、空気銃を使って窓越しに撃ち、命中させるほどの腕前。滝でホームズを狙撃したのも彼。アデア殺しも彼の仕業だが、こっちの方は突然のホームズ生還のせいで、途中からどこかに行ってしまう。モランはカードのイカサマで稼いでいるが、それをアデア卿に気づかれてしまう。アデアは紳士なので人前で暴き立てたりせず、裏で警告。モランと組んで勝った時の金をカード仲間に返そうと計算していたのだ。つまり彼はとても潔癖な若者だったのだ。そこらへんちゃんと描かれておらず、物足りない。

15 修道院屋敷

16 マスグレーブ家の儀式書

今回の話は、原作だとホームズがワトソンと知り合う以前の事件だが、映像化するとなれば、やっぱりそばにワトソンがいなくちゃね。ホームズの大学の同級生レジナルドは、古い名門マスグレーブ家の一員。二人は彼の屋敷に招かれる。レジナルド役マイケル・カルヴァーは見覚えがある。ヒクソン版「ミス・マープル」あたりで見かけたような・・。調べてみたら「動く指」のシミントンだった。気品のある端正な顔立ち。レジナルドが独身と知ってホームズが喜ぶのが意味深。名門の末裔で、領地の管理と、あと名士だから議員もやってる。でも仕事に追われているわけではなく、散歩したり友人と狩りをしたり、それで毎日が過ぎていく。身のまわりの世話は使用人がやってくれるので、何の不自由も感じない。恋をしたいとか、血筋を絶やさないよう結婚しなくちゃとあせることもない。女性に興味が起こらない、要するに草食系。ホームズにとっては同類が減らずにいてくれるのがうれしい。対照的なのが執事のブラントン。博学だが女たらし。小間使いのレイチェルと婚約したが、捨て、今はジャネットといい仲だ。ある日ブラントンが失踪、レイチェルの様子がおかしくなる。レジナルドによれば、深夜マスグレーブ家の古文書をブライトンがこっそり盗み見してるのを見つけ、即座にクビを言い渡したとのこと。ブラントンは一ヶ月の猶予を懇願したが、一週間だけやると突っぱねる。ホームズはすぐその古文書がカギだと気づく。文面からして宝のありかを示しているようだが、今まで誰も解読に成功した者はいない。もちろんホームズは謎を解くが、見つかったのはブラントンの死体だった。一方レイチェルは夜中に抜け出し、池に落ちたらしいが、池さらいで見つかったのは袋に入ったガラクタだけ。たぶんこれが宝なのだろうと予想がつくが、ホームズ達はなかなか気づかない。泥だらけのままにしておくからだ。何ですぐ水できれいに洗わないのだろう。太陽に照らされたカゲが・・とか、西へ何歩とか、まあよくある展開。印象的だったのは、ブラントンへのレジナルドの態度。古文書の謎を解こうと庭に突っ立って考えてるブラントンを、「私専用の芝生だぞ」と、とがめる。身分の差、階級の差が深く根付いていると言うか・・。ラスト、池に浮かび上がるレイチェルの死体。原作だと行方知れずのままだけど、こっちはけじめをつけたかったらしい。このシーンはまるでオフィーリアのようでロマンチックだが、(生きてる時の)レイチェルは眉毛が太く、いかつい顔立ちで、ロマンチックにはほど遠いのが残念。

17 第二の血痕

ある日ホームズ達のところへ二人の高名な人物が訪ねてくる。一人は総理のべリンガー(ハリー・アンドリュース)、もう一人はヨーロッパ担当大臣トレローニ。ヨーロッパに大混乱を引き起こすような文書を紛失したとのこと。例によってホームズは、その文書の内容をちゃんと話してくれるまではその依頼を受けようとしない。二人が渋々明らかにしたところによると、内容は外国の君主の、イギリスの植民地政策に対する非難らしい。これが公表されれば、イギリス国内で反発が起きるのは必定。今はその君主も軽率な行為だったと思っているようで。・・たぶん当時の読者は、外国の君主っていったいどこの誰だんべ・・と、あれこれ想像したことだろう。トレローニはこの文書を自宅のカギのかかる文箱へ保管しておいたのになくなってしまった。夫人には仕事のことは話さない主義だし、使用人は長く勤めていて信頼できる者ばかり、どうしてこんなことになったのか。ホームズが、こんなことをするのは三人しかいない・・と、すぐ候補者をあげるのは都合がよすぎる。いったいどんな情報網持ってるねん。そのうちの一人、ルーカスが殺されたと知って、彼の家に駆けつけてみると・・。死体のあったところにはじゅうたんに血のしみができている。ところがじゅうたんをめくってみると、床にはしみがない。何という吸水・・いや、吸血力!ソフィかロリエか・・って何のこっちゃ。床の血のしみは別の場所にあった。誰かが何らかの理由でじゅうたんを動かしたのだ。ルーカスのような悪党なら、床に細工してゆすりのタネを隠しておくこともありそう。果たして隠し場所はあったものの、中はカラ。文書は持ち去られた後。しかしなぜか公表される気配なし。まああれこれあるけど、要するに昔の恋文には気をつけよう・・ということです。トレローニ夫人は結婚前ルーカスにのぼせて恋文を送った。で、最近になって例の文書を持ってこい、さもなくば恋文をばらすぞ・・と脅され・・。で、文書を盗んでルーカスに渡し、恋文を取り返したまではよかったが、そこへ現われたのがルーカスの嫉妬深い妻マリアンヌ。夫人を愛人と勘違いし、逆上して夫を刺し殺す。ホームズは文書が最初からちゃんと文箱にあった、トレローニの思い違い・・というふうに持っていく。おかげで夫人の名誉は守られた。さすがに総理は裏に何かあると感づいたようだが、ホームズは何も明かさない。

18 もう一つの顔

この話はあんまり大した内容ではないし、映像化も難しい。「もう一つの顔」という題名からしてネタばれしている。冒頭・・ロンドン、シティのありふれた光景。行きかう人々、物乞いの男。中に一人、何やら落ち着きのない紳士がいる。一回目に見た時は、これが誰なのかわからなくて。後から起きる出来事に、彼が関係していたわけでもないのに、なぜうつす?そのうち気がついた。彼はホイットニーだ。様子がおかしかったのは、これからアヘン窟へ行くからだ。知り合いに見られたくないのだ。夜・・仕事から解放され、これからくつろごうかという時、ワトソンはまたまた出かけるはめになる。ホイットニー夫人が助けを求めてきたからだ。夫にはアヘン吸引という悪癖があるが、今まではちゃんと帰宅していた。なのに今回は二日も帰ってこない。夫人をアヘン窟へやるわけにはいかないので、ワトソンが代わって行くことになる。で、びっくりしたことに、そのアヘン窟にホームズがいて。で、これ以後はホイットニーは関係ないのだ。いかにも重要そうに出てくるのに。メインの事件よりある意味こっちの方が深刻なのに。ワトソンは医者だけど、アヘンにしろホームズのコカインにしろ絶対だめという態度ではない。今とは麻薬に対する考えが違うのかもしれないが、医者でさえ止めてくれないのでは、夫人の苦悩は解決されそうにない。さて、ホームズが依頼されていたのは、セントクレアという男の失踪。これに例のアヘン窟の経営者が関係しているとにらんでの潜入捜査。セントクレアは殺されたのではないか。その容疑者として、唇のねじれた物乞いブーンがつかまるが、彼がセントクレア自身だというのは見え見えだから、見ていてもあんまりおもしろ味はない。それ以外のことに考えが飛ぶ。ホイットニー夫人とセントクレア夫人、「第二の血痕」のトレローニ夫人、「曲がった男」のバークレー夫人、「ノーウッドの建築業者」のマクファレン夫人・・まあみんな四角い感じでよく似ているんですわ。見終わるともう思い出せない。あと、物乞いが意外なほど収入がいいこと。元々セントクレアは新聞記者で、記事を書くため、物乞いをやってみたのだ。そしたら紳士並みの収入が簡単に手に入った。結婚できたし子供も生まれたし家も買えた。妻にも隣り近所にもいい顔ができるからやめられない。今回よかったのはブラッドストリート警部。ラスト、セントクレアを釈放するものの、”ブーン”は廃業するようクギをさす。あまり鋭い方ではないが、冷静で威厳があり、好感が持てた。それにしても・・ホームズがカバンから取り出すスポンジの巨大なこと!!

19 プライオリ・スクール

名門のプライオリ・スクールの校長ハクスタブルが相談に来る。9歳のアーサーという少年がいなくなった。ドイツ人教師ハイデッガーもいなくなった。誘拐に思えるが、身代金の要求は来ない。アーサーの父ホールダネス公爵はスキャンダルを恐れ、ことを公にしたがらない。困り果ててホームズを頼ったわけ。人里離れた場所に立つ修道院学校・・教師の数から見てあまり大規模な学校ではない。自室で時々泣いていたというアーサー。両親は別居中。何やら複雑な事情がありそうで。今回はお膳立てが揃っているけど、登場キャラ・・特に公爵に魅力がないせいで今いち盛り上がらない。あまり感情を表に出さず、何を考えているのかよくわからない。身分や育ちのせいで軽々しく感情を出さないのはわかるが、名誉と息子の命どっちを取るか・・普通なら即息子だが、なかなかそうならない。ストーリーが停滞し、もどかしい。彼の苦悩は普通ならもっと見ている者の共感を呼ぶはずだが。彼のそばには秘書のワイルダーがいて、何かと世話をしているようでもあり、主人を操っているようでもあり。ホームズは屋敷へ着いた早々、飾られた肖像画を見てワイルダーが公爵の息子だと気づく。公爵はごく若い頃情熱的な恋をしたが、身分の差などもあって結婚できなかった。相手の女性は亡くなり、残されたワイルダーを秘書としてそばに置き、できるだけのことはしてきた。しかしワイルダーは性悪で、不始末をしでかしては公爵に尻ぬぐいをさせる。弱味につけ込む。アーサーに嫉妬し、いじめるので学校へ入れた。今回のことだって自分の方が優位にいる、力を誇示するためにやったのだろう。でももう終わりだ。彼はやっと目が覚め、アーサーの救出に向かう。原作はまだ読んでいないが、ワイルダーはヨーロッパへ追放されるらしい。こちらでは洞窟へ逃げ込んだ末、墜落死する。ワイルダー役ニコラス・ゲックスがハンサムなせいもあって(←?)、悪感情をいだきにくい。公爵も長年苦しんできて気の毒だけど、ワイルダーも気の毒に思えるのだ。隠したりせず、ちゃんと表に出し、アーサーと公平に扱っていればこんな悲劇は起こらなかったのでは?ホールダネス役アラン・ハワードは「ポアロ」の「夢」に出ていたらしい。

20 六つのナポレオン

冒頭のドタバタは意味がよくわからない。事件の背景を補う意味で見せたのだろうが、それにしても・・。冒頭の出来事から、ホームズ達が捜査に乗り出すまでには一年ほど間があいているのだが、それも後になるまでわからない。さて、今レストレードの頭を悩ませているのは、ナポレオンの胸像が盗まれ、破壊されるという珍事件。いずれも同じ工房で作られ、同じ店・・ハドソン商会で売られたもの。次の事件は新聞記者ハーカーの家で起きるが、今までと違うのは玄関先で男が殺されていたこと。像は少し離れたところで、やはり壊されているのが見つかる。これで四つ目。ホームズでなくたって、こりゃあこの像の中に何か隠されているんだぜい・・と予想つく。殺されたのはピエトロという男で、持っていた写真からベッポというイタリア男が浮かび上がる。一年ほど前、工房の近くで傷害事件を起こしたし、ハドソン商会にも一時勤めていた。ところで工房の支配人マンデルスタム役の人は、頭ははげているが、目のあたりなどサイモン・ベイカーにそっくりだ。どことなく見覚えがあるが、ヴァン・ダムの「ファイナル・レジェンド」に出ていたヴァーノン・ドブチェフだった。像は六つハドソン商会に卸されたから、残りは二つだ。ホームズは買い手の一人ジョサイアの家で、ワトソンやレストレードと待ち伏せし、首尾よくベッポをつかまえる。ジョサイアの像にも何も入っていなかったので、最後の買い主サンドフォードを呼び寄せ、(事情は話さず)10ポンド払って買い戻す。像を壊すと中から現われたのは南天のど飴・・じゃない、「ボルジア家の黒真珠」だった!レストレードは、ピエトロが秘密結社の一員ということで、マフィア絡みと思い込み、見当違いの捜査をしている。ホームズはさんざんじらし、芝居っけたっぷり、意味もなくテーブルクロスの引き抜きを見せたりする。ジャジャーンとばかりに真珠を出し、今回の事件だけでなく一年前の盗難事件まで解決。ワトソンやレストレードを驚嘆させる。どうもピエトロを含むヴェヌッチ一家とベッポが共謀して宝石を盗んだが、ベッポが宝石を一人じめし、ナポレオン像に隠していた・・そういう流れらしい。ラスト・・得意満面のホームズに対し、レストレードは心からの賛辞を捧げる。ホームズが目をうるませるのは、感動もあるだろうが、いい気になってたのを恥じているようにも見える。それにしてもなぜすぐ真珠をレストレードに渡さないのかな。懸賞金でもついてるとか?

21 悪魔の足

冒頭、男がガラスを割って侵入し、薬品を盗む。あちゃ~何でこんなシーン入れる?最初にネタばらししてどうするんだよッ!さて、ホームズは過労のため、医者に静養を命じられたらしい。ワトソンも医者だが、見てもらうのは別の医者?やってきたのはコーンウォール。最初のうちはコカイン打ったりしてワトソンの顔を曇らせるが、途中でなぜか薬を捨て、注射器を砂に埋める。砂に書いたラブレターならぬ砂に埋めた中毒セット。近くに住む牧師ラウンドヘイが早速あいさつに来る。牧師館にはモーティマーという男が間借りしている。彼には兄二人と妹ブレンダがいるが、財産をめぐり、一時険悪な仲だったようで。今はもう和解して、夕べも兄妹を訪問。帰る時には何も変わったことはなかったのに、朝になったらブレンダは死に、兄二人は気が狂っていた。まるで悪魔の仕業としか思えない。近くには探検家スターンデールも住んでいて、そぶりが怪しい。そのうちモーティマーも死んでしまう。ホームズには地元警察の邪魔をする気はないが、彼らには何も見つけられまい。彼の考えでは、いくら不思議な事件でも悪魔の仕業なんてありえない。やったのは人間に決まってる。悪魔のせいにしようとしている者がいたら、そいつこそ怪しい。まあ牧師は違うけど。何やら怪しいものを見たと言ってるモーティマーが怪しい。兄も見たと言ってるが、気が狂ってしまっているから確かめようがない。今回の特徴は、駆けつけた医師、死体を発見した家政婦、メイドなどいずれも気分が悪くなっていること。年のせい、ショックのせい・・と、普通の人は考え、それで片づけて終わりだが、ホームズは有毒ガスを疑う。使われたのは「悪魔の足」という毒。ほとんど知られておらず、検出されるおそれもない。モーティマーがスターンデールのところから盗み、兄や妹を殺そうとしたのだ。それに気づいたスターンデールは同じ毒でモーティマーを殺す。彼はブレンダと深く愛し合っていたのだ。ホームズが毒のききめを試そうとするのは軽率な行為。危うく命を落とすところだった。この時の幻覚も興味深いが、もっと興味深いのは、「僕は女性を愛したことは一度もない」というセリフだろう。じゃあ男性は?

22 銀星号事件

23 ウィステリア荘

これはあんまりおもしろくないが、原作もそうである。意味がよくわからないし、すぐ内容忘れてしまう。今回テレビで見て、それからまた読んで、これで三度目。やっと理解できましたとさ。少し内容を変えてある。つまり、ホームズとワトソンの出番を多くしてある。全体的には原作通りだが、何でちゃんと説明しないのかと思うところはある。おもしろい事件もなく、退屈しきっているホームズだが、奇妙な出来事を聞き、俄然興味を持つ。依頼してきたのはエクルズという紳士。ガルシアという男と親しくなり、家に招待される。喜んで出かけたものの、家・・ウィステリア荘は暗く陰気だし、料理はまずいし、人を招いておきながらガルシアも使用人も何かに気を取られて気もそぞろ。こんなことなら来るんじゃなかった。やっとベッドに入ったものの、ガルシアが部屋へ入ってきたせいで目が覚めてしまう。午前1時くらいのことだ。朝起きてみると家の中には誰もいない。誰かの悪ふざけか?頭にきたので不動産屋に聞いてみたら、ちゃんと家賃を払って借りているとのこと。どうにも解せないのでホームズに調べてもらおうと・・。そのうちガルシアが撲殺死体で見つかり・・。まあおもしろいのはここまでで・・「赤髪連盟」みたいで期待させるが、あとはあんまり。エクルズが招待されたのは、アリバイ作りのためなのはわかる。だから夜中に起こしてわざわざ時間を言う。エクルズが選ばれたのは、誰からも疑われない・・証言を信じてもらえるタイプだからだ。ここらへんのことは原作ではちゃんと書かれるが、テレビではスルー。捜査に当たるべインズ警部は、実は非常に有能なのだが、テレビではおっそろしく感じが悪い。もったいぶってるし、芝居がかってるし、表情もしゃべり方もいちいち気にさわる。ホームズ自身もったいぶってるから、見ている方はうんざりしてしまう。どっちか一方にしておけ。そのうちウィステリア荘の近くにあるハイ・ゲイブル荘の住人ヘンダースンが、サン・ペドロという国の独裁者ムリリョだとわかる。彼の手にかかって殺された者の家族や友人達が結社を作り、失脚し亡命した彼の命を狙っていたのだ。ガルシアもその一人だが、返り討ちにあってしまったのだ。ムリリョと側近のルーカス、大男のコックの三人の見分けがつかん。ヴードゥー教関係も出てこない。

24 ブルース・パーティントン設計書

列車の屋根に乗せられた死体が、ポイントやカーブのあるところで滑り落ちるというのは、「シャーロック」の2話目でも使われていたな。深い霧が続くロンドン。ホームズはすっかり退屈し、食欲もない。せっかくハドソンさんが作ってくれた朝食にも手をつけない。やや小さめ(半分に切ったのか)のトースト、スクランブルエッグにベーコン、紅茶(コーヒー?)・・あ~もったいない、おいしそうなのに!珍しく兄のマイクロフトが訪ねてくる。原作だとレストレード警部が一緒だが、こちらはブラッドストリート警部。「もう一つの顔」に続き二回目の登場か?私は彼が好きなので、出てくれてうれしい。新型潜水艦の設計図10枚が盗まれた。地下鉄の線路脇で見つかった死体・・ウェストという若者だが、彼のポケットからそのうち七枚が出てきた。しかし残りの三枚は見つかっていない。設計図を入れてあった金庫のカギを持っているのは主任技師のジョンソンと、管理責任者のサー・ジェームズ。このうちサー・ジェームズの方は心労で急死(自殺かも)。設計図はスパイに売れば大金になる。ウェストは結婚を控え、金が欲しかったのか。渡す時にトラブルになり、殺されたのか。婚約者は、彼はそんな人じゃないと断言しているが。いずれにせよ、金庫が開けられたのなら二つのカギのどちらかが使われたのだ。あるいは合鍵で・・。合鍵だとしたら、作れるのは二人の周辺にいる者に限られる。さて、売り手がいるなら買い手もいる。マイクロフトに頼んでめぼしいスパイをリストアップしてもらう。その中の一人オーバーシュタインは線路脇に住んでいる。で、ホームズはワトソンと一緒に家宅侵入。手がかりを見つけ、売り手(サー・ジェームズの弟で、金に困っているヴァレンタイン)と買い手(オーバーシュタイン)両方をおびき出す。ヴァレンタインの方はどさくさにまぎれて逃亡するが、ここは原作と違う。ホームズは得意満面、マイクロフトは大喜びだが、ブラッドストリートは「やりすぎると厄介なことになりますぞ」とクギをさす。国のためとは言え、ホームズの行動は(ブラッドストリートから見れば)一線を越えている。警察がおくれを取るのは、法を破るわけにはいかないからである。警察までが法を無視したのではこの世はどうなる?この作品は大しておもしろくないが、ブラッドストリートの自覚、真面目さ、自制心はとても印象に残った。演じているデニス・リルは、「ポアロ」の「負け犬」にルーベン役で出ていたらしい。

25 四人の署名

あっちのシャーロックは原作の面影ほぼゼロである。あっちの後でこっちを見ると、原作に忠実に作ってあるなあ・・と感心する。あっちが見ている人を喜ばそうというサービス精神でいっぱいなのはわかる。でもこっちはこの先どうなるのだろうとわくわくさせてくれる。たとえ原作を読んでいたとしてもだ。この事件がきっかけでワトソンはメアリーと出会い、ホームズとの同居を解消することになった。だからメアリー役の人は重要だ。アイリーン役と同じくらいに。そしてジェニー・シーグレーヴはこれ以上ないくらいぴったりのはまり役だ。なぜこのシリーズではワトソンを結婚させずにおいたのか。ちなみに彼女は「死海殺人事件」や「新米刑事モース」の「犯罪相関図」に出ている。メアリーは身寄りがなく、世間との交渉があまりない。家庭教師として、雇い主には信頼されている。豊かではないが、困窮しているわけでもない。身じまいはきちんとし、化粧っ気はないが素の美しさがある。知性と品位が感じられ、考え深く常識に富んでいる。ショルトー家の老家政婦へのいたわりからもわかるが、温かい気配りのできる人だ。毎年真珠を受け取るが、そのことで生活が変わることはない。ラストで財宝が夢と消えても失望などしない。元々自分のものではないし、そのことで殺人が起き、人々の運命は狂った。こんなすばらしい女性を、ワトソンはなぜみすみす行かせるのか。お互い好意を持ってるのは明らかなのに。ホームズは知らん顔しているが、内心では心配し、ワトソンが動かないのを知ってホッとしているはずだ。彼は最初にメアリーが来た時も、いかにも気が乗らない・・無礼とも見える応対。その後話の奇怪さに興味を持つが、解決してしまうともうメアリーは過去の人だ。義足の男スモール役はジョン・ソウ。クライマックスはテムズ川での蒸気船による追跡。しかし映像化するとやはり船ではスピード感は今いち。ベイカー街へ戻ってのスモールの回想も、内容よりもあんな泥だらけで・・部屋が汚れる・・と、そっちの方が気になる。この作品で印象的なのは、たいていの人に少しは人間味が残っていること。例えば財宝を一人じめしたショルトーの息子サディアスは、メアリーへ毎年一粒ずつ真珠を送る。財宝の隠し場所を言わないままショルトーは死ぬが、それがなくてもサディアスは大金持ちなのだ。それでも彼の双子の兄弟バーソロミューはメアリーなんか援助したくない。サディアスのようなタイプは珍しい。スモールも悪人だが、仲間との絆は大切にしていたし。

26 バスカビル家の犬

27 レディ・フランシスの失踪

このシリーズはどのエピソードもそれなりの品質を保っているのだが、今回はいじりすぎて品質が低下している。一番まずいのは、ヒロインに魅力がないこと。身寄りがなく孤独だが、金と暇はあり、中年だがまだまだ美しいレディ・フランシス。あちこち旅して回っているが、善良で世間知らずだから、危険なことに足を突っ込むことも。スイスのローザンヌでシュレジンジャー夫妻と知り合い、博士の活動にほれ込むが、その後なぜか消息を絶つ。彼女の身を案じた知り合いからの依頼で、忙しいホームズの代理でワトソンがローザンヌへ。つまり原作ではフランシスは終わり近くまで登場しないのである。それではまずいとこちらでは最初から登場。舞台は湖水地方、休暇中のワトソンはホテルで一緒のシュレジンジャー夫妻やフランシスのことをあれこれホームズに書き送る。こちらのフランシスは金がなく、兄ラフトンがいるが、仲は悪い。ラフトンは妹に生活費を渡しているが、自分も生活は苦しい。妹は値打ちのある宝石を相続したから、困っているならそれを売ればいいのだ。兄の仕打ちが冷たいとなじるが、ホテル暮らしだし、興味が引かれることがあると慈善家ぶって金を出そうとする。彼女は15年ほど前、グリーンというろくでなしと別れさせられた。その彼は心を入れ替え、今では金も身分も申し分ない紳士となって戻り、彼女に求愛している。しかし彼女は彼を避けてる。じゃあ嫌いになったのかというとそうでもないらしい。何を考えているのかさっぱりわからず、同情も共感もできない。で、こんなアホ女ほっときゃいいのに、ワトソンみたいな騎士道精神発揮したがる勘違い男がいて。結局シュレジンジャーは金持ち女から金品を奪い、殺してしまうという悪党。フランシスに正体見抜かれると、生きたまま埋葬しようとする。特注の棺に、上に死んだ老婆、下にクロロホルムで眠らせたフランシスの二段重ね。でも、あれじゃあ二人は入らない。ちっとも特注じゃない普通サイズ。しかも・・婆さんしっかり息してました。死んでないじゃん!!危機一髪のところでフランシスは助け出されるけど、多量のクロロホルムと生き埋めにされるという恐怖のせいで廃人状態。世話するグリーンが気の毒で。こんな救いのない結末にする必要全くないのに。ラフトン役でマイケル・ジェイストンが出ていた。

28 ソア橋のなぞ

アメリカの金山王ギブスンは、ブラジル人のマリアと結婚するが、今ではすっかり熱はさめている。妻は変わらぬ情熱を向けてくるが、それが嫌でたまらない。冷静に考えてみれば、自分と妻の間には共通点なんか一つもなかったのだ。子供達の家庭教師としてミス・ダンバーがやってくると、たちまち彼女に引きつけられてしまう。何とか妻に別れる気を起こさせようと、冷たく接し、時には暴力もふるったが、妻の気持ちは変わらない。ある日ソア橋でマリアの死体が発見された。手にはダンバーからの手紙を握りしめ、ダンバーのクローゼットからは凶器の銃が。ギブスンは何とか彼女を救いたいとホームズに調査を依頼。冒頭マリアが歩き回るシーンが印象的だ。ギブスンはともかく、二人の子供達でさえ彼女に冷たい視線を浴びせる。すっかりダンバーになついてしまっているのだ。原作には子供の描写はないが、これを入れたことでいっそうマリアの置かれた状況がはっきりする。怒り、絶望、孤独、嫉妬・・。マリア役の人は背が高く、堂々としている。肩幅が広く、胸が大きく、姿勢がいい。情熱的な彼女には、夫とダンバーの間の精神的な愛など全く理解できない。事件を複雑にしているのがダンバーで、彼女は自分の影響力を利用し、ギブスンに善行をやらせようとしている。今までの彼は金儲け第一で、人を踏みつけにしてのし上がってきた。でも自分なら彼を改心させ、財力をもっといいことに利用させられる。マリアの自分への憎しみを考えたら、さっさと辞職すべきだったが、彼女には扶養しなければならない家族がいて、そうもいかなかった。それに彼女にはギブスンを動かせるという自信もあった。結局マリアは自殺で、ギブスンとダンバーの間には障害はなくなり、たぶん二人は結ばれるのだろう。でも、どうも彼らを祝福する気にはなれん。ギブスンはひどいやつだ、奥さんが気の毒だと憤慨し、辞表を出した領地管理人ベイツに共感したりして。ダンバーの弁護士カミングス役の人はすごいハンサム。調べてみたらヒクソン版「バートラム・ホテルにて」のキャンベル警部補だった。水がしたたるような・・後光が差してるような美形どす。

29 ボスコム渓谷の惨劇

ジェームズ役はジェームズ・ピュアホイ。「ザ・フォロイング」ですっかり殺人鬼のイメージが定着したけど、今も昔も変わらぬ美しさ。ボスコム渓谷の沼のほとりでマッカーシーという男が殺され、息子のジェームズが逮捕される。直前に口論していたし、その理由を言おうとしないなど怪しい。マッカーシーは、友人で地主でもあるターナーの娘ルーシーとの結婚を強く勧めていたが、ジェームズは拒む。ターナーは結婚には大反対。ルーシーは彼が好きだが、彼が自分をどう思っているのかはよくわからない。原作だと、小さい頃から一緒に育ち、兄と妹のような感情はあるが、恋人となると・・まだそこまではいかないみたいな。ただ、彼が父親殺しの犯人にされそうなので何とかしなくちゃ・・と。サマーズ警部には無駄だと言われたけど聞かず、ホームズに手紙を出すなど行動派。結局犯人はターナー。オーストラリアにいた頃は追剥強盗。襲った中にマッカーシーがいて。仏心を出して命を助けてやったのが間違いの元。金を手に入れ、イギリスに渡り、妻は死んだが娘を得、これからは真っ当に生きようと心を入れ替えたのに・・。ジェームズを連れたマッカーシーが現われ、昔のことをばらすぞと脅迫。さんざん言うことを聞いてやったが、自分は糖尿病で余命わずか。マッカーシーは息子とルーシーを結婚させ、財産を乗っ取る気だ。ジェームズはいい若者だが、マッカーシーの血がまじるのは耐えられない。思い余って殺したが、ジェームズが犯人にされてしまった。助けたいが自分の過去を娘に知られたくはない・・。まああれこれあるがホームズの活躍でハッピーエンド。原作だとターナーは危篤のはずなのに七ヶ月も生き延び、不自然だが、こちらはほどなく死ぬ。ジェームズが結婚を渋ったのは、すでに年上の酒場女と酒の勢いで結婚してしまっていたから。絞首刑になりそうだと知って向こうから縁を切ってきたのは、不幸中の幸いだった。そういう・・時には道を踏みはずすこともあるというのはマッカーシーの血か。あと、ターナーの死によってホームズは真相を闇に葬ったけど、父親殺しの犯人がわからないままでもジェームズは納得したのかな?

30 高名の依頼人

ホームズのところへデマリー大佐から手紙が来る。グルーナー男爵というのがいて、前妻は事故死したとされているが、彼が殺したのだ。目撃者の羊飼いの少年も殺すなど冷酷。教養があり、好男子で魅力的な彼は、今またヴァイオレットという令嬢に愛され、来月には結婚だ。デマリーは、彼女の父の”友人”から結婚の阻止を依頼されたようだ。名前を明かそうとしないので、隠し事を嫌うホームズは断るが、結局引き受ける。モリアーティ教授並みの犯罪者となれば興味もわく。グルーナーは過去をヴァイオレットに打ち明け、自分はむしろ被害者なのだと思わせている。愛に目のくらんだ彼女は父親の嘆願も聞かず、グルーナーを信じ切っている。原作だと催眠術をかけているようで。ホームズはグルーナーの元情婦キティを捜し出し、会見に連れて行く。自分にもし娘がいたら・・という彼の心からの説得も、キティの暴露も、ヴァイオレットには通じない。もう勝手にしろとホームズが思うほど冷たくて高慢ちき。さてグルーナーは人を雇ってキティやジョンスン(元悪党だが今は改心してホームズに協力している)を襲わせるが失敗。次にホームズを襲い、こちらは重傷を負わせることに成功。新聞を見て知ったワトソンは驚愕。こういう時の手当てってなぜか彼じゃなく別の医者なのね。グルーナーに記事を見せられたヴァイオレットは、「ホームズには同情しない」などとほざく。まあこんな憎たらしい女も珍しいわな。ホームズの狙いはグルーナーの日記。自分の負傷で油断させ、ワトソンが気をそらせている間に忍び込む。日記には今まで関わった女性達のことが細かく書いてある。ちょっと横溝正史の「悪魔の百唇譜」風だが、あちらほどえげつなくないだろう。とにかくこれを見ればヴァイオレットだって・・。しかし事件は意外な展開に。キティがグルーナーに硫酸を浴びせ、復讐。日記を見せるまでもなく婚約破棄でしょうとデマリーは言うが・・ヴァイオレットみたいな女はグルーナーを受難者とみなし、ますます愛を注ぐだけ。見せて思い知らせてやらなきゃならんのだぜい。ラスト、ワトソンはやっと依頼人の正体に気づきびっくり。ガイドブックによると、当時の国王エドワード7世らしい。

31 ショスコム荘

このエピソードはジュード・ロウが出ているってのが最大の売り。サー・ロバートは気性が激しく、危険な男。姉ビアトリス(原作では妹)と同居しているが、屋敷などは全部姉の亡夫のもの。彼自身は借金で首が回らなくなっている。今度のダービーで持ち馬のショスコム・プリンスが優勝してくれないと破滅だ。ホームズを訪れたのは調教師長のメイスン。サー・ロバートの様子がおかしい。あんなに仲が良かったのにビアトリスと急に疎遠に。口をきかないし、彼女の愛犬は他へやられてしまった。夜、出かけるロバートのあとをつけたら、古い礼拝堂で誰かと会ってる。暖房用の炉からは人間の骨が・・。ホームズとワトソンは宿屋にもらわれてきた犬を連れ出し、馬車で通りかかるビアトリス達の前に放し、どう反応するか確かめる。原作だと、ビアトリスらしき人物が男だったので、ワトソンは驚くが、それだと謎が解けてしまうので、描写は変えてある。ロウは最初の方でロバートに仕事をくれと頼んでいて。私はてっきり調教の仕事にありつくのだと思っていたが、その後出てこなくて。原作を知らなくても、病身のビアトリスが死に、誰かが身代わりを務めているのだくらいは予想つく。死んだのがわかると、プリンスも含め、すべてが亡夫の遺族に渡ってしまう。全くの病死で後ろ暗いことは何もない。ダービーまであと少し。姉の死をしばらく隠すだけ。大金が入るチャンスを逃したくはない。で、ロウの役はビアトリスの身代わり。お化粧までしちゃって!原作だと彼に当たるノアレットとビアトリス付きの小間使いエヴァンズは夫婦で、どちらもワトソンから見ると不快なタイプ。でもこちらでは姉弟にしてある。ロウのジョーは、姉の死を悲しむロバートの肩にそっと手を置くなどやさしい性格。このシーンは大変よかった。結局プリンスは優勝し、借金も返済でき、姉の死も何とか取り繕うことができたようで。ホームズは何やら言ってたけど。ワトソンばかりか、ハドソンさんまでプリンスに賭けていたってのが笑える。それにしても今回の依頼人はメイスンなのに、途中からどうでもよくなっちゃっていたな。

32 這う人

このエピソードは映像化が難しいのではないかと思ってた。当然のことながら、いろいろ変更してある。ある晩イーディスは窓に怪しい影を見、ショックで失神。彼女の部屋は三階にあるから、人は登れるはずがない。父親プレスベリー教授も、教授の助手で婚約者のベネットも、夢を見たのだと信じてくれない。私の言葉を疑う人とは結婚できない・・と、イーディスは気が強い。仕方なくベネットはホームズに手紙を書くが、すぐ後悔して取り消そうとする。教授もイーディスも大事な人なので、彼の立場は苦しい。もっとも、好奇心に火がついたホームズはやる気満々。原作ではベネットの方が先に教授の異常な行動を見て動揺し、ホームズに相談する。題名にもあるように、這っているのを見てしまう。原作には教授は61歳とある。やもめだが、娘ほども年下のアリスと婚約中だ。入れ込んでいるのは彼の方で、アリスの方にはためらいがある。一方あちこちで猿が盗まれる。ゴリラも出てくるが、着ぐるみのように見える。全体的には「ジキル&ハイド」や「ドクター・モローの島」風味。原作だと精力増強を望んでプラーグから血清を取り寄せているが、こちらは・・よくわからない。いろんな猿を集めても飼育が大変だと思うが。原作通りでいいのに。婚約を破棄されて怒り狂い、アリスを襲おうとするのは原作にはなし。それにしてもアリス・・「お年寄りすぎる」ってアンタ。断るにしても他の表現思いつかんのかい!薬のせいで猿みたいになってる教授は、ただのオバカにしか見えない。猿というのは原作通りだけど、見ている方はどうしたって・・。「這う人」とあるからには蛇みたいなの想像しちゃって。それがキャッキャキャッキャじゃあねえ・・。奇怪もへったくれもなし。イーディス役サラ・ウッドワードは「ポアロ」の「雲をつかむ死」のヒロインだ。ベネット役エイドリアン・ルーカスは美形でベイ・シティ・ローラーズのメンバーみたいだが、鼻から口にかけてあいまいな感じ。きりっとしたところがない。ヒクソン版「ミス・マープル」の「カリブ海の秘密」のティムだ。教授役チャールズ・ケイは、マクイーワン版「ミス・マープル」の「バートラム・ホテルにて」のぺニウェザー牧師。

33 犯人は二人

1時間45分くらいあるけど、長すぎるな。作り手の意欲はわかるけど、スピード感も大事。ミルバートンは、表向きは美術商だが、裏では恋文などをネタに大金をゆする悪党。昔の人はよく手紙を書く。恋をすりゃなおのこと朝に晩に何通も・・。ミルバートンがそれを入手できるのは、例えば小間使いの裏切りとか金欲しさ、相手の心変わりを恨んだ元恋人が・・とかいろいろ。多くの場合ゆすられた方は対面を守るため泣く泣く大金を払うが、中には敢然と拒絶する者も。払おうにもお金の工面ができない者も。そういう場合手紙は見られては困る相手・・夫や婚約者へ送られる。ショックで病気になる者、婚約を破棄する者、自殺する者。まあこういったことがていねいに描写されるわけです。くれぐれも浮かれて軽はずみな恋文書くのはやめましょう。あるいは関係が終わったら恋文は全部取り返し、焼き捨てましょう。でも、取っておく人もいるんだよな・・青春の思い出にとかさ。事情が事情だけに事件はなかなか表沙汰にはならないが、ホームズはミルバートンみたいなやつにはがまんできないから、鉛管工として屋敷へ入り込む。情報を手に入れるため、メイドのアニーと婚約までする。ここでちょっと苦しいのは、ジェレミー・ブレットが若いアニーをたらし込むには老けすぎということ。それと、あんなふうにわざわざキスシーンを入れる必要もない。ホームズらしくないし、誰も見たくない。あと気になったのはクローズアップの多用。ホームズ、レストレード、レディ・ダイアナなど、これでもかとばかりに顔を大うつし。血走った目やくっきりとしたシワ、でかい鼻の穴・・こんなのうつさんでよろし。ハドソンさんがせっかく作った料理を、ホームズもワトソンもほとんど手をつけないで下げさせるのも気になった。ばちが当たるぞ!この事件ではホームズとワトソンがミルバートンの屋敷に忍び込み、金庫から手紙を盗む。つまり相手が悪党とは言え、彼らの方が犯罪を犯すのである。ところが金庫破りの最中、彼らの目の前でミルバートンがレディ・ダイアナによって殺されてしまう。しかも逃げ出す際、家人に見られてしまい、ワトソンなどは危うくつかまるところだった。題名の「犯人は二人」と言うのは、ホームズとワトソンのことなのである。これが原作のキモなのだが、映画の方はそういう部分はなし。あくまでも卑劣なミルバートンへのホームズの怒りを強調していた。ダイアナ役ノーマ・ウェストは「名探偵ポアロ」や「ミス・マープル」に出ていた。

34 サセックスの吸血鬼

35 未婚の貴族

36 三破風館

冒頭・・金持ち連中のパーティ。美しい、でも年上の女性と恋人らしい若い男。でも女の目は新しく現われた若者に釘付け。すげない女、あきらめきれない男。腕ずくで表に連れ出され、殴られ蹴られ・・。ちゃんと脇腹蹴られるところうつす。ある日突然ホームズを脅しにきた黒人のボクサーみたいなディキシー。ホームズはメアリーという女性から相談の手紙を受け取っていたが、それをやめさせようということらしい。ホームズはメアリーの亡夫を助けたことがあるらしいし、彼女の孫ダグラスのことはワトソンがよく知っている。だから、彼が亡くなったと聞いてびっくりする。原作ではダグラスはメアリーの息子だし、亡くなったのはイタリアである。原因も病死だが、テレビでは脇腹を蹴られ、脾臓が破裂したのが遠因となっている。つまり殺人である。メアリーがホームズに手紙を出したのは、家をなかみごとそっくり買いたいという妙な申し出を受けたからだ。売れるものなら売って、世界一周旅行に行きたいが、家具だけならまだしも身の回りのものまでそっくりというのは・・。原作ではイタリアから送られてきたダグラスの荷物の中に、相手の欲しがるものがあったというわかりやすい設定だが、こちらは違う。ま、要するにふられた腹いせにダグラスは女・・砂糖王の未亡人イザドラとのいきさつを小説にしたと。イザドラは息子ほども年下の公爵と結婚間近なので、これが表沙汰になっては困る。それで原稿を手に入れようと・・。イザドラ役は何とクローディーヌ・オージェ。「007/サンダーボール作戦」のボンドガールとして知られる。また、沢田研二氏と「パリの哀愁」で共演。サラサラの髪とスタイルのよさ・・それしか印象に残らない人。でも50を過ぎて、体つきはボリュームを増し、のっぺりした顔立ちにはメリハリがつき、美しさだけでなく貫禄がついた。女には心を動かされないホームズだが、彼女はなかなかの難敵。他に情報通ラングデール役でピーター・ウィンガード。ラストシーンは意味がよくわからないが(ホームズに情報を与えた報酬として、何の情報を受け取って満足したのだろう?)。

37 瀕死の探偵

38 金縁の鼻眼鏡

39 赤い輪

これを見ると「下宿人」を思い出す。金払いのいい下宿人が現われて喜んだのもつかの間、そのうち何をしているのだろうと気になり出す。向こうは家具付きが多いから、大した荷物もなしに越してくる。金さえ出せば食事を出してくれるし、買い物も頼める。毎日風呂に浸かる習慣もないから、部屋に閉じこもり、姿を見せないでいられる。それにしても名前すら聞かずに部屋を貸してるぞ。ホームズのところへ相談に来たのは下宿のおかみウォレン夫人。今回はハドソン夫人も積極的に参加しているのが微笑ましい。いつも思うのだが、きちんとした髪、世話好きで温かい性格など、ミス・マープルをほうふつとさせる。さて、途中でオペラハウスの照明係エンリコが殺されるとか、ブルックリンでの殺人とか、いろいろ増量してある。下宿人は男性のはずが、いつの間にか女性にすり替わっている。仕事に出かけようとしたウォレンが誘拐されそうになるが、下宿人と間違われたらしい。つまり隠れ場所はばれたものの、女性にすり替わっていることは気づかれてなかったと。原作だとカップルの通信手段としてローソクの火をチカチカさせるというのが出てくるが、テレビではそんな悠長なことはできない。ホームズ達が駆けつけてみると、悪党のボス、ゴルジアーノが殺されていたというのは原作通りだが、クライマックスとしてはちょっと弱い。信号を送っている男・・ジェンナロを殺そうとして、逆に殺されるという、肝腎な部分が描写されないからだ。女の方はエミリアで、二人ともイタリア人。結婚に反対され、駆け落ちしてアメリカへ。仕事も見つかり順調だったが、同郷のゴルジアーノが現われたせいで暗雲が立ち込める。若き日のジェンナロは、世間への不満から”赤い輪”という結社に入る。そのボスがゴルジアーノで、アメリカでも勢力を伸ばそうとやってきたのだ。エミリアに言い寄り、はねつけられると仕返しにジェンナロに雇い主を殺させようとする。それでロンドンへ逃げて、エンリコに頼んでこの下宿に。「ボール箱」同様ホーキンス警部がホームズ達と行動を共にする。レストレードと違い、謙虚で着実なタイプで好感が持てる。ホームズ役ブレットは首が太くなり、顔色は白っぽく、目のふちは赤い。その上黒いコートだから、まるでドラキュラだ。まあ病気のせいなんだろうけど。

40 マザランの宝石

41 ボール箱

「エレメンタリー」でこの設定が使われていたので、ついでに見ることにした。原作も読み返した。ホームズやクリスティー物の感想を書く時は、その分時間がかかる。原作は新聞に記事が載って、レストレードの依頼を受けてという流れだが、こちらは冒頭結婚式。その後の描写はチョコチョコいじくってあって、入り組んでいて、わかりにくい。誰が誰だか見分けがつかない。原作ではつかまったジムが顛末を供述するが、こちらは・・。問題の小包が届くのは始まってから10数分たってから。クリスマスなので、ホームズはワトソンにプレゼントを買ったりする。小包を受け取ったのは、クッシング三姉妹の長女スーザン。中には塩漬けの耳・・男女のが一つずつ入っていた。スーザンは独身で気位の高いタイプ。末の妹メアリが船の客室係ジムと結婚するのには反対していた。酒飲みだし身分違いだし。でも酒はやめたし、何よりも二人が愛し合っているので今では許している。気にかかるのは、そのメアリが所在不明なこと。きっと二番目の妹セアラのせいに違いない。彼女も独身だが、昔から問題を起こしてばかり。メアリのところにいたが、何かあったらしく戻ってきた。でもここでも若い下宿人と変な関係になっているので、両方とも追い出した。スーザンは気づいていないが、小包はセアラ宛てだった。送り主は彼女が追い出されたことを知らないのだ。セアラはジムを愛していたが、はねつけられたのを恨み、メアリが他の男と浮気するよう仕向けた。ジムは酒を飲み始め、そのせいで夫婦仲はいっそう冷える。ジムはセアラのことを妻にはっきり話すべきだったのだ。それをせず酒に逃げてしまった。また、暴力がセアラではなく、妻と相手の男に向かってしまった。ホームズから見れば、なぜそんなドロドロにはまるのか理解できない。犯人がつかまり、事件が解決してもちっともうれしくない。これからも同じような事件は起きるだろう。原作と違い、いちおうセアラの報われない思いを、同情するようなタッチで描いている。ジム役はキアラン・ハインズ。ホームズ物は今作で最後か。全体的に暗いムードで、爽快感はない。