刑事ダルグリッシュシーズン2

刑事ダルグリッシュ

わが職業は死

「刑事ダルグリッシュ」のシーズン2を見られるとは思っていなかった。ひょっとして評判よかったのかしら。原作は読み返したばかりなので、流れはばっちり頭に入っている。もちろん原作にはないものもくっつけてある。ダルグリッシュの詩集は評判がいいらしく、編集者ブランチはアメリカツアーも計画している。ダルグリッシュはそこまでやる気はなさそうだが、仕事を続けるかどうかはまだ迷ってる。いつでもやめられるから続けている・・みたいな。そこへ電話。ホガッツ研究所で起きた殺人事件。ロンドン警視庁がわざわざ出向くのは、ここで多くの事件の証拠が扱われているから。殺されたのは生物部長のロリマーで、凶器は木槌。二日ほど前クランチ採掘場で女性が殺されたが、その時使われたもの。ダルグリッシュと同行したのはマシンガムではなくミスキン。彼女は優等生タイプだが、原作で描かれる(あまり優等生でない)マシンガムも興味深い。小さな男の子の相手などうまいものだし、(自分とはいろんな面で違う)ダルグリッシュへの視線も。死体を発見したのは受付係のブレンダ。所長ハワースは妹のドメニカと暮らしていて、二人とも独身。ハワースの秘書アンジェラはロリマーの親戚で、作家のステラと同居。研究所は侵入された形跡はなく、なくなったものもない。トイレの洗面台には吐いたあとがある。ロリマーは所長になりたかったが、なれなかった。まわりからは嫌われており、彼はいい人だったと弁護するのはブレンダだけ。ロリマーの部屋からはドメニカ宛ての恋文(の下書き)が見つかる。彼女は数週間付き合っただけで彼に興味をなくしたが、ロリマーの方は未練たらたらだったらしい。法医学者のロリンソンにはネル、ウィリアムの二人の子供がいる。妻はロリンソンの同僚と駆け落ちし、子供の親権をめぐって争っている。家には子守りとしてウィラードがいるが、原作だととんでもない女だが、こちらはそれほどでもない。原作通りに描写したらさぞおもしろい絵になったことだろう。他にドイル警部が出てくる。ミドルマスやブレイクロックは省略されている。ミドルマスが中に入っている馬のかぶり物は冒頭ちゃんと出てくるが。

わが職業は死2

アンジェラとステラはお金に困っている。今住んでいる家は売りに出ていて、買い取りたいのだがお金が足りない。ロリマーには老いた父親がいるが、それ以外に血がつながっているのは彼女だけ。だからロリマーが死ねば遺産が入るはず。現に遺言書ではそうなっていた。ところが彼は遺言書を書き換えていた。ステラとの関係が気に食わなかったらしい。原作だとステラはロリマーの元妻で、自分の遺産が彼女に渡るのがいやで書き換えたことになっている。だからいつ実はステラは・・となるのか待っていたけど、結局元妻はなしだったな。ブレンダがステラの首吊り死体を見つけるところで前編終了。原作だと彼女が殺されるのは終わりの方だ。前編でここまで来ちゃったのでちょっとびっくり。金田一物だと1時間過ぎたあたりであらかた原作を使いきってしまい、残りの数十分どうするのかいなと思っていると、話がどんどん横道にそれて行き、ありもしないことがくっつけられる。ヒロイン(女性)がこれでもかと美化される。こちらもそうなるのかと心配したけど、脱線も迷走もなくさすが英国ミステリー。まあこういうのってたいてい中年のしょぼくれオジサンやオバサンが犯人だったりするから、美化しようがないんだけどね。ブレンダはロリマーからのお金を、彼の希望通り進学費用にあてるつもりだ。でも母親は結婚しろとうるさい。二度も死体を見つけるはめになった今の仕事などやめて欲しい。彼女には将来があるとダルグリッシュが言っても、親の気持ちはわからんと切り捨てられてしまう。そのたんびにダルグリッシュの心は深く傷つく。シーズン1ではしっくりこなかったカーヴェルも、慣れたせいか違和感も感じず、適役に思えてきた。ラストシーンは彼の顔のアップだが、アップにも耐えられる演技力の持ち主だからこそ、そういうシーンで終われる。その前の犯人に対する温かい心遣いは原作にはないものだが、感動的だった。一方ミスキンはドメニカにダルグリッシュへの思慕を見抜かれてしまう。彼に異動を持ち出された時にはヒヤッとしたことだろう。ドメニカは洗練された美女で、自分に自信持ってる。次々に男を惑わせるが、長続きしない。彼女はダルグリッシュにも興味持ったようだが、ダルグリッシュの方は明らかに嫌悪を感じているらしいのが興味深かった。

正義

リタという53歳の女性が殺される。同居している甥のガリーが言うには、売春まがいのことをしていたらしい。帰宅したガリーが死体を発見したことになっているが、近所のドロシーがそれよりも前の時刻に彼を目撃しており、ミスキンは彼を殺人容疑者として逮捕。しかし裁判では弁護士オールドリッジがドロシーの目が悪いことを強調。ガリーは無罪になってしまう。彼は退廷するオールドリッジに礼を言うが、なぜか無視される。彼女は有能だが、法律事務所のパートナー、ラングン、アルリック、ドライズデールらには煙たがられている。受付のコールドウェルをやめさせろだの、マシュー(アルリックの息子)は無能だのと言いたい放題。ラングンに代わり、所長になると宣言も。職場では自信たっぷりの彼女だが、家庭では18歳の娘オクタヴィアのことで悩んでいた。婚約した相手が悪すぎる。しかしオクタヴィアは母親の言うことなど聞かない。ある日オールドリッジが死体で見つかる。凶器はペーパーナイフだが、なぜか法廷で使うカツラをかぶせられ、血をかけられていた。血は貧血のマシューのため、アルリックが冷蔵庫で保管していたもの。マシューは見習いで、オールドリッジの助手をしている。カツラにしろ血にしろ、内部のことをよく知っている者の仕業に思える。仕事が終わった後、掃除をして回るのがジャネットという老女。彼女は明かりがついていたので、まだ仕事をしていると思い、オールドリッジの部屋は掃除しなかった。ラングンは認知症が始まっており、時々記憶がはっきりしなくなる。コールドウェルにつきまとう。彼女は迷惑に思っているが、年寄りだからと寛大な気持ちでいる。次の所長は順番から行けばオールドリッジ。ドライズデールも所長になりたがっているが、妻帯者でありながら以前オールドリッジと不倫していたことがあり、そこが弱味。後でわかるが、オールドリッジはその彼に娘の説得を頼んでいた。彼女の夫は出てこないし、オクタヴィアの父親はドライズデールなのでは・・という気もしたが、原作を読んだら違った。別れた夫が出てくる。母親の死を知らせに行ったミスキンは玄関に出てきた婚約者を見てびっくり。何とガリーではないか。

正義2

無罪になった時オールドリッジがガリーを無視したのはそのせい?いやいやあの時点ではまだオクタヴィアとガリーの交際は始まっていないはず。それに彼が婚約者なら彼を弁護するはずがない。彼女にだってガリーが伯母殺しの犯人だくらいはわかる。彼女はそういう評判の悪い被告を好んで弁護する傾向があり、パートナー達から批判されていた。不利な状況を自分の技術で引っくり返すことが快感で、何が正義かとか、それに関わる人間のことなんか興味ない。ダルグリッシュはパートナー達もガリーもどちらも容疑者と考えているが、ミスキンはどうしてもガリーが犯人に思えてしまう。さて、フロガートという中年男がダルグリッシュに面会を求める。ミスキンと共に今回の捜査を担当することになった新任のタラントは、よくいる裁判傍聴マニアと相手にしなかったが、ダルグリッシュは話を聞いてみることにする。フロガートは子供の頃のオールドリッジと親しかったらしい。彼女の才能を磨いたのは彼。疎遠になってからも彼女の弁論を記録し、新聞記事もスクラップ。たぶんダルグリッシュはその記録の厚みにやれやれと思ったことだろうが、意外な手がかりを見つけることができた。ジャネットが過去の事件に関係しているようなのだ。彼女の身元保証人マーガレットなら何か知ってるかもと、話を聞きに行く。ジャネットには娘ドーンと、孫のデイジーがいた。そのデイジーはレイプされ、殺される。犯人ビールは有罪になるが、ドーンは悲しみから立ち直れず自殺。実はビールはデイジーの前にも事件を起こしていて、その時は無罪に。弁護したのはオールドリッジ。つまりビールがこの時無罪にならなければ、デイジーは殺されずにすみ、ドーンも自殺せずにすんだわけ。強い動機が見つかったのでタラントがジャネットの家へ行くと、彼女は殺されていて。ここまでが前編。ジャネットは一見自殺に見える。壁にビールとか1974とか血文字がある。オールドリッジを殺したものの後悔して・・。しかしダルグリッシュは他殺だと思っている。彼女は最近貯金から1万5000ポンド引き出している。彼女は誰かを雇ったのでは?金はその人物への報酬に違いない。

正義3

記録を取りに来たフロガートからは別の話も聞けた。彼が教師をしていた学校の校長はオールドリッジの父親だが、こいつがサディストで生徒を虐待。中には自殺に追い込まれた者も。それが明るみに出て学校は閉校になったのだが、後でわかるが自殺したマーカスはアルリックの弟。オールドリッジが父親の性格を受け継いでいるのは明らかで、ことあるごとにマシューをいじめる。彼女が所長になれば即クビを切られるだろう。見ている者はガリーが犯人と思っていたが、そういうわけでアルリックが犯人。全部息子のため。ジャネットはオールドリッジに復讐しようとガリーを雇ったが、実行する前に死なれてしまった。それで腹いせにカツラをかぶせたり血をかけたり。その後自首しようと思ったけど、そうなるとガリーは困るわけで。ジャネットがガリーに目をつけたのは裁判の時。礼を言ったのに無視されたガリーの表情を見てぴんときた。もう一回見直してみたら、傍聴席に入るジャネットが一瞬だがちゃんとうつっていた。でも他の傍聴人もうつっているし、彼女を記憶にとめる人はいないだろう。ガリーはオールドリッジは殺していないから、いくら疑われたって平気。それにオクタヴィアも彼を信じきっている。ところでこの作品はガリーの背景をほとんど描いていない。伯母のリタが彼を施設から引き取って同居していたわけだが、その伯母をなぜ殺したのか。彼の家族は・・まわりの評判は・・第一何の仕事をしているのか。ジャネットから金を受け取った後は仕事する必要もないだろうが。裁判でもドロシーの証言以外は描写されない。オクタヴィアが彼と知り合ったのはクラブでだが、近づいてきたのはガリーの方からだろう。熱くなってるのはオクタヴィアの方で、ガリーはクール。体の関係もない。彼はオクタヴィアをどう思っているのか。彼女をどうするつもりなのか。金はあるし、足手まといのオクタヴィアなんか連れず、一人で姿くらました方がよっぽど身軽でいいのに。その彼はミスキンによって射殺される。初めてのことなのでショックは大きいオールドリッジ役サラ・スチュワートはどこかで見たような。気が強くて、どこかシャロン・ストーン風味。タラント役アリステア・ブラマーはデヴィッド・ウェストンに似ている。

殺人展示室

原作は読んだことなし。図書館にもないし、古本屋でも見かけない。あれば買ってる。デュペイン博物館で一番人気があるのは”殺人の部屋”。二つの大戦の間に起きた殺人事件の資料を展示してある。長男で歴史学者のマークス、長女でスワズリングズ学園の学園長をしているキャロライン、精神科の研修医で末っ子のネヴィル。この三人が理事長として父が残した博物館を運営。ここはもうすぐ建物の賃貸契約が切れるが、ネヴィルは博物館は閉鎖し、展示品は現金化したいと思っている。自分の診療所を開きたいからだ。存続させるつもりの兄や姉とは意見が合わず、理事会は物別れとなる。このもめ事は受付のミュリアルもツアーガイドのストリックランドもメイドのタリーも庭師のライアンもみんな知ってる。彼らにとっては仕事を失うことであり、住むところがなくなることでもある。その晩車庫でネヴィルの車が焼ける。運転席で見つかった黒焦げの死体。直前に自転車で帰ってきたタリーは走ってきた車と接触し、転倒。ドライバーは彼女が生きてるのを確かめると走り去ってしまう。後で聞かれたが男の顔は思い出せない。カーニバルで使うようなマスクをかぶっていた気がする。声は聞き覚えがあるけど思い出せない。ライアンが何かにおびえ、しきりに怪しい行動を取るが、こういうのの常で事件とは関係ない。彼はアークライト少佐と暮らしていて、タラントは同性愛者と言っていたがはっきりしたことは不明。ネヴィルは秘書のフォックスと関係を持っていたが、彼女には夫がいる。ネヴィルも彼女を愛していたわけではない。そんな中ブランチがまた顔を出してアメリカツアーの件で催促する。ダルグリッシュの詩集ガーネット賞とやらをとったのでチャンスだが、彼の態度は煮えきらない。また、彼はロジャーという男と会うが、彼はMI5か。マークス達の父故フェリックスは戦時中スパイとして活動していて、今もマークスが引き継いでいるらしい。もっとも彼に言わせると現代ではろくに仕事もないようだが。博物館は捜査のため休館中だが、事前予約のプライベートツアー客達は断るわけにはいかないので、ストリックランドが案内する。展示物の中に大きなトランクがあるのだが、何気なく開けてみると中には若い女性の死体。ここまでが前編。

殺人展示室2

女性は20歳くらいで、殺されたのはネヴィルと同じ頃。ライアンは少佐の金を盗んで逃げようとするがつかまる。彼はストリックランドにトランクに閉じ込められたことがあり、彼女を恐れている。彼女とネヴィルが一緒にいるところを覗いているのも見つかった。自分は彼女に殺される。ストリックランドの過去を調べてみると、戦時中特殊部隊にいて、ボスのフェリックスとの仲がうわさされていた。ネヴィルは二人の間にできた子供。養子ということになっているが、実際はフェリックスの実子。このことはマークスもキャロラインも知らない。彼女はネヴィルに出生証明書を渡そうとしたけど拒否された。彼女はガンなので、本当のことをネヴィルに知ってもらいたかった。それにフェリックスの実子と知れば、ネヴィルも博物館を存続する方に考えを変えてくれるかも。一方例の女性は妊娠しており、学園の生徒ヴィクトリアの姉シーリァだとわかる。彼女は博物館や学園長・・キャロラインの秘密を知っていたらしいが、妹には詳しいことは話していない。その頃タリーはラジオを聞いていて、例の男がマートルシャム卿だと気づく。彼は妻子がありながらシーリァと関係を持っていた。その後話は妙な方向へ。98クラブという秘密クラブがある。地位も金もある連中が匿名で合意の上でセックスを楽しむ。ダルグリッシュにロジャーが圧力かけてきたのもそのせい。会員の名が明るみに出たらいろいろ面倒なことになる。使われていたのは以前フェリックスの私室だった部屋。秘密の通路を通じて殺人の部屋とつながっている。あの時マートルシャムとシーリァは逢引きの約束をしていたが、先に来ていたシーリァは、ネヴィルが殺されるところを目撃してしまったのだろう。ここでキャロラインに白状させないと長引くとでも思ったのか、ダルグリッシュは彼女を脅しつける。前タラントには「高圧的な態度は逆効果、品格を」なんて言ってたくせに。もっともそうやってキャロラインを締め上げたおかげで、クラブの創設者はミュリアルと白状させることができた。その頃タリーと茶飲み話をしていたミュリアルは、ちょいと口を滑らせてしまう。このままではまずいとタリーの頭を金槌か何かでたたくが、ダルグリッシュ達が駆けつけたおかげでタリーは一命を取りとめる。

殺人展示室3

逮捕されてもミュリアルは自信たっぷり。彼女は会員をゆすって大金をため込んでいた。ネヴィルを殺したのは博物館が閉鎖されるとゆすりができなくなるからだろうが、足元が明るいうちに大金持って姿消した方がよかったのに、欲張るからこうなる。とは言え自分は大勢の有力者の秘密握っている。圧力がかかってダルグリッシュ達は捜査中止に追い込まれるか、司法取引になるか。ただ、ダルグリッシュの偉いところはそんな圧力や脅しに屈する気はないこと。上も彼を辞職させるわけにはいかない。それどころか警視長に昇進させる。事件の後始末が大変ということもあるが、たぶん何かあった時責任を取らせるために彼をとどまらせておくのだろう。結局ダルグリッシュは仕事やめる気はなさそう。彼の場合精神の安定を保つためにこの仕事が必要なのだ。普通は逆・・精神の安定は詩で保つ・・だと思うけどね。そうそう、ミスキンも警部に昇格。・・てことは自分のチームを持てるから、ダルグリッシュのもとを離れるのか。タラントは続投か。今のところ彼は可もなく不可もなしというところ。今回印象に残ったのはタリー、ストリックランドという対照的な女性二人。タリーは太っていて一人暮らし。息子がオーストラリアにいるが、関係はあまりうまくいっていないよう。ライアンを気遣うなど親切な性格。彼女が家の中を見回すシーンは胸を締めつけられる。こぢんまりしていて愛情を込めて飾りつけられた部屋。この暮らしが博物館の閉鎖によって壊されてしまうのか。閉鎖になってもまた他のところで働くつもりではいるけれど、この年になると心細さがつのる。一方ストリックランドはやせて骨ばっていて目が鋭い。エド・ビショップとロディー・マクドウォールをミックスしたような顔立ち。戦時中は拷問を受けるなど過酷な体験をした。その彼女から見るとライアンあたりはただの怠け者の能なしにしか思えない。自分達の苦労を無駄にしている・・と腹立たしくなる。ライアンにだって母親の恋人に虐待されたという過去があるんだけどね。と言うことでシーズン2は終了。ラストシーンはダルグリッシュの顔の大うつし。回を重ねるごとに(私は少なくとも二回は見るからね)バーティ・カーヴェルのダルグリッシュはいよいよいい味出してきた。噛めば噛むほど・・のスルメ俳優。