美しい星

美しい星

あの日、授業の前に先生は「みんなも知りたいだろうから始める前に話しておく、三島由紀夫が自衛隊に殴り込んで、演説ぶって、その後割腹自殺した」と、話してくれた。まあ何十年も前のことなので、正確な言葉は忘れたが、「演説ぶって」というのだけは覚えている。は~そういう言い方があるのだ。大事件の方はぴんとこなくて、そっちの方が印象に残った。三島の作品はこれしか読んだことがない。文庫を買ったのはSFらしいからだ。いちおう読んだが、あまりおもしろくなかった。今回何十年ぶりかで読み返したが、やはりあまりおもしろくない。発表されたのは昭和37年・・1962年だから、人類を滅ぼす脅威は温暖化ではなく、核のボタンが押されること。主人公重一郎(リリー・フランキー氏)の職業も気象予報士。彼はお天気お姉さん玲奈と浮気しているが、帰り道、運転中光を見る。目覚めると一人で、車は田んぼの中。何が起きたのか全然記憶がない。UFO好きの長谷部は、アブダクションだと言って関連本を貸してくれる。そのうち自分でも買いあさるようになる。火星の映像をモニターで見て、なぜか涙が流れる。自分は火星人なのだ!長男の一雄(亀梨和也氏)はメッセンジャーをしているが、あまりうまくいっていない。プラネタリウムで、自分は水星人なのだと気づく。ふとしたことから政治家鷹森の秘書黒木(佐々木蔵之介氏)の下で働くようになる。エレベーターのエピソードはどういう意味なのだろう。一雄には予知能力が備わった・・と思わせるが、結局は・・。黒木が一雄を試した?彼はある晩鷹森の異常な行動を見てしまう。最初はSM?と思ったが違った。自信たっぷりでやり手というのはうわべだけで、実は鷹森は黒木の助けがないと何もできない操り人形。黒木は一雄が水星人だと見抜く。てことは彼も水星人?原作だと重一郎の妻伊余子(中嶋朋子さん)は木星人だが、こちらでは地球人。夫の浮気にも気づかない鈍い彼女は、”美しい水”の販売にのめり込み、いい成績を上げる。しかしこれは後でインチキだとわかる。娘の暁子(橋本愛さん)は美しいが、人を寄せつけない。彼女は金星人だが、地球では美しくても、金星の基準では美しくないかもしれない・・と思っている。彼女は路上ミュージシャンの竹宮に惹かれる。彼のCD「金星」も入手。ライブを聞きに金沢へ向かう。

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今なら新幹線だが、あの頃は白鳥。今日の午後UFOが現われると言う竹宮に連れられ、海岸へ。そしてUFOを目撃する!原作では最初から彼らは自分は地球人ではないと自覚している。でも映画ではそうもいかないので、それぞれのきっかけを描く。人類の未来を憂えているのは重一郎だけ。一雄は政治家を夢見、暁子は心の通う仲間を求める。重一郎はテレビのニュース番組で天気予報を担当しているが、だんだん言動が逸脱してくる。それが何度も出てくるので、またかよ・・とウンザリする。一回ならともかく、二回、三回と続けばスポンサーから苦情が出て、即刻降ろされるのでは?結局はクビになるが、それまでの時間がかかり過ぎ。金沢から戻った暁子はそのうち妊娠しているのがわかるが、竹宮とは何もしていない、自分は処女受胎だと言い張る。重一郎は金沢へ行き、竹宮を捜すが見つからない。原作では竹宮はすごい美貌で、暁子は金星人なのだから当然だと思う。こちらでは美貌とまではいかず、わりとフツー。ライブハウスで暁子を見た女ミュージシャン、イズミの表情から、竹宮の正体は予想つく。そう思わせないためにUFO出してきて、彼は間違いなく金星人!と思わせるんだけどね。竹宮はイズミや他の人から金を借りまくっている。そのあげくいなくなった。あの「金星」だって、曲を作ったのはイズミ。金沢の料亭で暁子と竹宮が食事をするシーンがある。原作だとここの女将も竹宮と関係持ってる。彼をつなぎとめておくため、彼の浮気を黙認し、話を合わせて暁子を信用させる。とにかく竹宮はたちの悪い女たらしで、クスリか何かを使って、暁子が気づかないうちに乱暴したのだ。しかし重一郎はとても暁子に話す気にはなれず、竹宮は金星へ帰ったとウソをつく。その頃には伊余子もだまされていたことがわかる。おまけに重一郎は末期のガン。これでもかという感じだ。これの前に地球を救う、いや滅びるのは自然のサイクルという激論がある。こちらでは黒木とだが、原作では自称宇宙人三人との大激論。延々と続くので、読むのが大変。一雄もクビになる。病床の重一郎に、暁子は事実を話すよう迫る。竹宮がただの女たらしとわかっても、暁子は受け入れることができる。金星人がどうやって子孫を増やすのかわかった。金星人どうしではなく、地球の男を触媒にして増えるのだ。

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自分もこうやって事実を受け入れられたのだから、重一郎も受け入れられるはず。事実を知りたいか・・と聞く。知りたいと答えた重一郎はしかし、自分がガンで余命わずかと聞いてショックを受ける。暁子が悔やんでも後の祭り。この後家族は重一郎を連れて山を目指す。向こうが指定してきた山だ。重病の重一郎にはきつい山登り。原作では暁子が「来ているわ!」と叫び、着陸している円盤が見えたところで終わり。やっとこれからSFらしくなるのに・・。だから映画もそうなると思っていたら、その後も見せる。気がつくと重一郎は円盤の中。窓から下を見ると、自分も含め、一家四人がこちらを見上げている。これっていったいどういうことなのかな。見上げているのが三人なら、あるいは下の重一郎が倒れて動かないのなら、彼は・・あるいは彼の魂は円盤内にテレポートしたのだ、彼は本当に火星人でこれから故郷へ戻るのだ・・と、ハッピーエンド。でも重一郎がこっちを見上げてるってことは・・火星人の魂だけ抜け出し、入れ物だった地球人重一郎が重病のまま残されるという、ハッピーじゃない結末。あるいは彼がけつまずいて、地面に倒れて死ぬまでの一瞬間に見た幻覚ということも考えられる。さて、最後まで行ってしまったが、本音を言うと私はこの映画にはあまり期待していなかった。超能力も超常現象もほとんどなし。日本映画らしいこぢんまりとした映画に違いない。・・で、実際そうなんだけど、黒木の登場シーンだけは違う。謎めいたムードが漂う。宇宙人と自覚してもウロウロするだけの一家と違い、彼の方は大物政治家を陰で操るという、一上の段階にいる。佐々木氏の冷たいヘビのような目の前では、他の出演者達は何と愚かでお人好しに見えることか。原作でも黒木は本当に宇宙人なのかはっきりせず、それは映画でもそうなんだけど、見てる者にとっては十分にエイリアンでした。ボタンの箱が空っぽだったことから、黒木の正体にはいろんな考え方ができるようだが、私には宇宙人としか思えない。それにしても佐々木氏がクラトゥやる日本版「地球が静止した日」・・見てみたいものだ。きっと説得力あると思うよ!