アガサ・クリスティー(ポアロ)

アガサ・クリスティー(映画・ポアロ)

オリエント急行殺人事件(1974)

原作を読んだのはわりと最近のことだ。WOWOWで映画を見た後もう一度読み直した。原作はアガサ・クリスティーの超有名な推理小説。映画は超(一つじゃ足りん)豪華キャスト。これでヒットしないわけありませんて。今見るとちょっとパンチに欠けるかな・・という気もするが、どぎつくないからこそいつまでも残る作品なのだと思う。十人以上の大スターに対し、ポアロ役のアルバート・フィニーは一人で大奮闘。ポアロと言えばNHKのアニメかBSで三作ほど見たデヴィッド・スーシェ。ピーター・ユスティノフのは見たことなし。個人的にはスーシェが気に入っている。フィニーのポアロはあまりにも作りすぎ。油がしたたり落ちそうな髪、おしろいを塗ったような顔(ドラゴミノフ公爵夫人といい勝負だ)、さわったら指が黒くなりそうな眉、詰め物をしたような体。文庫の解説によればつけ鼻らしい。キーキーとした声、特に謎解きシーンなんて途中で発作起こすんじゃないかと思うくらいいきり立っていましたな。自分の推理に酔いしれて・・。カセッチを始末した後はあのうるさい探偵の番だ・・とその場の誰もが思ったことでしょうよ。でもそれくらい仰々しくやってるから大スター達との釣り合いが取れた。つまり誰かの、あるいはそれぞれの独演会になってしまうところを、ポアロの強烈な個性がうまく打ち消していた。皆控えめに演技しているようにさえ見えた。それでいて個々の持ち味はちゃんと出していたし(爪をかむアンソニー・パーキンスとか)。この作品ではイングリッド・バーグマンがアカデミー助演女優賞をとったが、役としてはローレン・バコールの方が目立っている。バーグマン扮するグレタとポアロのシーンは長いワンカットでとってあるので、バーグマンの持続する演技を見ることができる。最初の汽車に乗り込むシーンがいい。バッグから小さなものが二つこぼれ落ちるところ。よっこらしょとトランクを積むところ。悲劇的でありながらどこかおかしみも漂う。他にはジャクリーヌ・ビセットの美しさが際立つ。盛りを過ぎた女性ばかりではちょっとね。殺人事件を扱っていながら陰惨な感じはせず(連続するわけじゃないしね)、明るい印象さえ受けるのは心浮き立つ軽快な音楽のせいか。列車旅行は過去からの脱出であり、未来への旅立ちでもある。雪に閉じ込められた列車が再び動き出した時、乗客達は新しい人生への一歩を踏み出したのであーる。

オリエント急行殺人事件(2017)

私はこういうのはあまり小難しくしない方がいいと思うんだけど。たいていの人はなかみ知ってる。「善か悪かそれが問題だ(←違うって!)」なんてポアロが悩むの見たいわけじゃない。豪華なキャストや衣装、オリエント急行の内装とか出される料理を見たいんだと思う。そりゃ原因となった幼児誘拐殺人事件は悲惨だし、関係者のいだいている苦悩は深い。犯人ラチェットの殺され方もむごい。でもそういうのをちゃんと描きつつも、それらをいかにすり抜けて観客を後味よく楽しませるか、それがキモだと思うんだよな。テレビシリーズみたいに、あまりにも深刻にやられてしまうと、感動するより引いてしまうんだよな。この映画もそうだったらいやだわん。監督・主演がケネス・ブラナーだから、お客を喜ばすより自分が楽しんじゃうってことも。ラチェット役はジョニー・デップ。彼がポアロやればよかったんじゃないの?意外で。ヒゲ似合うし。ドラゴミロフ公爵夫人がジュディ・デンチ、マスターソンがデレク・ジャコビ、エストラバドスがペネロペ・クロス、ハーデン夫人がミシェル・ファイファー、ハードマンがウィレム・デフォー。知ってる人はこれくらいか。有名な人達には違いないが・・どう言ったらいいか。リチャード・ウィドマークにショーン・コネリー、アンソニー・パーキンス、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、ジャクリーヌ・ビセット、マイケル・ヨーク、ジョン・ギールグッド、ジャン=ピエール・カッセル、ヴァネッサ・レッドグレーブ、アルバート・フィニー、コリン・ブレイクリー、マーティン・バルサム・・どうです、こうやって名前書くだけでもワクワクドキドキするじゃありませんか。顔が浮かぶじゃありませんか。でもこちらは・・この人誰?知らん。あの人誰?知らん。ちっともワクワクもドキドキもしないんですわ。特殊効果で脱線とか追いかけっことかハデにしてあるけど、あんなのいらん。わざわざ外の寒いところでの会話も不自然。そりゃ見せ場なんだろうけど。まあポアロの珍妙なヒゲはいやだったけど、ディケンズを読んでイヒヒウヒヒと笑ってるところはよかった。あと、ラチェットの食べるデザートのケーキが・・あれは何だろうと気になった。

オリエント急行殺人事件 ~死の片道切符~

これをやるとどうしても1974年の「オリエント急行殺人事件」とくらべられてしまう。だからというわけでもないだろうが、設定は現代である。ケータイ、ファクス、ビデオテープ、パソコン・・オヨヨ。ポアロ役はアルフレッド・モリーナで、彼は美しい女泥棒ヴェラ(この人はかなりの美人)との恋に悩んでいるのだった・・オヨヨのヨ。いや~こんなにしてまで作りたいんでしょうかね。フンづまり・・いや、ネタづまりなんでしょうか。でも例えば日本でもテレビで金田一耕助物やってるよな。あたしゃ一作か二作見てあまりのひどさにずっこけてそれ以来見てませんけど。オリエント急行と言えば廃止されちゃったようで。デヴィッド・スーシェで作る時には(いつになるか知らんが)CGかしら。モリーナの演技は悪くないけど、小男じゃないからなあ。見ていて悲しかったのは、列車が舞台なのにすごく手抜きしてること。走行中なのに全然ゆれない。微動だにしない。スピード一定、高低差なし、カーブもなしってか?窓も全然・・暗かったり光がぱっと通り過ぎたり何かしらあるはずだが、完全に閉めきっていて光も何も通さない・・みたいな。ポアロが名探偵ぶるのもよくない。頭でっかちの小男の外国人が名探偵ぶってるから珍妙なのであって、大柄なモリーナがそう言ったのではいやみ。食堂車でもすごく慎重にメニュー選ぶとか、味わって食べなきゃ。普通に選んで普通に食べて終わりじゃポアロじゃないッ!テレビムービーなので出演者は小粒。レスリー・キャロンは独裁者の未亡人・・何だかデヴィ夫人みたい。「私家版」でファリダやってたアミラ・カサール、「ゴッド・クローン」で見たばかりのナターシャ・ワイトマン。あと知ってるのは被害者ラチェット役ピーター・ストラウスくらいか。映画だとリチャード・ウィドマークがやってたけど、ストラウスもなかなかよかった。眉毛がうすく、酷薄そうで・・。若い頃「ソルジャーブルー」とかに出ていて・・見たことないけど雑誌では時々見かけて・・。最近では「トリプルX ネクスト・レベル」で大統領役やってた。私はいつもエリック・ストルツと混同しちゃって・・。まあとにかく目先を変えて、うまくいけばモリーナポアロもっと作るつもりだったんだろうけど・・片道で終わりのようです。

死海殺人事件

原作はアガサ・クリスティーの「死との約束」。ポアロ役はピーター・ユスティノフ。小男でもないし髪も黒くない。何よりトレードマークのヒゲが・・。でもそれにこだわるほどあたしゃポアロには思い入れありません。金持ちの未亡人ボイントン夫人(パイパー・ローリー)は元看守。結婚してからは家族を監視。支配下に置く。弁護士コープ(デヴィッド・ソウル)を脅し、正当な遺言書を破棄させ、夫の財産を全部相続。子供達がお金と自由を手に入れるには彼女が死ぬしかない。暑い中での観光、持病の心臓病。死んでいるのを発見された時には、心臓からくる病死と思われた。しかしポアロは納得しない。レイモンドとキャロルの兄妹が母親を殺す相談をしているのを聞いたし、殺しに使われたのは女医サラの注射器や薬。レイモンドはサラに恋するが母親は許さない。嫁のナディーン(キャリー・フィッシャー)は、母親の支配から抜け出せないでいる夫に失望している。その他いろいろ。でもこれらはただの寄り道、目くらまし。アメリカ人で今は英国貴族と結婚し、議員でもあるウェストホルム卿夫人役でローレン・バコールが出てくると、はは~んとなってしまう。予測がついてしまうのは推理物としてはまずいんだけど、たいていの人は原作知ってるだろうし、今回は誰が出ているのかな、どこを観光させてくれるのかな・・と楽しみながら見てればいい。他の出演はヘイリー・ミルズ、ジョン・ギールグッド。地味な顔ぶれだし、ちゃんと現地へ行ってるだろうにテレビの二時間ドラマみたいな印象。ゴージャスな感じはしない。しかしさくさく進んでいくので見ていてあきない(監督はマイケル・ウィナー)。ローリーとバコールによるいやな女くらべも見もの。残念だったのは、夫を愛しながらもコープによろめくナディーンの描写。結局は本気ではなく、夫を自立させるためのお芝居ってことらしいが、見ていても彼女の本心がうまく伝わってこないように思える。それとレイモンド役の俳優に全然魅力がなく、サラが引かれるとは思えないのもバツ。もっとイケメン出してこい!サラ役ジェニー・シーグローヴは知らない人だが、ラダ・ミッチェルとエマニュエル・ベアールをミックスしたような顔立ち。細くて楚々としていながら芯は強そう。暑い中でも涼しさを感じさせるたたずまいは、なかなかよかった。

地中海殺人事件

ん?クリスティーの小説にこんなのあったっけ?・・と思ったら、「白昼の悪魔」のことだった。な~んだ。・・と言うか、こんなのまで映画化されていたの?ポアロ役はピーター・ユスティノフ。相変わらず気にくわないが、見るのも少し慣れてきたかな。先日NHKBSで「オリエント急行殺人事件」をやって、アルバート・フィニーのポアロを久しぶりに見たが、こんなにうるさかったかしら?とにかく大げさで異常。こちらのポアロの方がまだマシかも。今回の彼は保険会社の調査員みたいで変。ホレス卿が保険をかけようとした宝石がニセモノ。彼の話によればアリーナという女優と結婚の約束をし、プレゼントしたのだが、彼女は別の男性と結婚してしまった。宝石は返してきたが、いつの間にかニセモノにすり替わっていたのだ。ポアロは調査のため地中海へ。後でアリーナが殺されるのも宝石のせいで、ここらへんは原作とだいぶ違う。アリーナのキャラからして違う。高慢でわがままで挑戦的。夫のケネスや義理の娘のリンダに冷たい。演じているのはダイアナ・リグで、美女でも何でもなく、うす汚れたようなパッとしない外見。他の顔ぶれも地味。マギー・スミス、ジェームズ・メイソン、ロディ・マクドウォール、デニス・クィーリー、ニコラス・クレイなど。スミスは原作のダーンリーにあたるダフネ役だが、設定はだいぶ変更されている。マクドウォールは芸能記者役だが、原作には出てこない。見る前はてっきり彼がパトリック役だと思ったが違った。まあ、彼がやると犯人ってバレバレだけど。ケネス役クィーリーは「オリエント急行」にも出ていたらしい。クリスティーン役はジェーン・バーキンで、夫パトリックがアリーナと浮気しているので、メソメソしている。野暮ったくてしめっぽい女。ところがラスト近くで(ポアロに犯人と名指しされても)開き直って、トップモデルのようなりゅうとした身なりで登場する。ポアロ達だけでなく、映画を見ていた人々もさぞ驚いたことだろう。美しい景色と華麗な音楽、女性にはカラフルな衣装も楽しい。明るくくっきりした豪華な映画になるはずだった。でも印象としては地味。唯一バーキンの華麗な変身のおかげで、見てよかったと思える作品。詳しい謎解き説明はわかりやすいが、冒頭のアリス殺しもポアロが保険会社に雇われて調査を担当していたというのは都合よすぎ。

ナイル殺人事件

「ミステリ~ナァイ~ル♪」・・公開当時テレビで何回この歌を聞いたことか。でも見るのは今回初めて。スーシェポアロ版ではサイモン役がJ.J.フェイルドで、これがまああなた・・ため息が出るくらい美しくて・・ホッ。したがって映画の方もサイモンに注目。ストーリーはどうでもいい。でもサイモン・マッコーキンデール(何ちゅう名前だ)は重要な役なのに印象うすくて。見終わると顔忘れちゃうような人。マシュー・モディンにそっくりで(と言うかできそこないみたいで)そこはまあびっくりしたな。ジェフ・ブリッジスにも少し似ている。彼はスーザン・ジョージと結婚しているようだ。ポアロ役ピーター・ユスティノフはいぎたなく居眠りこいたり、他人の朝食食べたり、スーシェポアロなら絶対しないぞ・・と思いながら見ていた。しょぼいヒゲもいや。見ているだけでかゆくなりそう。声はいいと思う。レイス大佐はデヴィッド・ニーヴン。品があって身軽で。ジャッキー役はミア・ファロー。私にはミスキャストに思える。貧弱すぎる。リネット役ロイス・チャイルズはきりっとしていていい。大金持ちでわがままだが、見ている人のほとんどは彼女に同情すると思う。全くの被害者。ジム役ジョン・フィンチは「マクベス」や「フレンジー」で知られる。一時カトリオーナ・マッコールと結婚していた。えッ、誰?・・って「ベルサイユのばら」のオスカルやった人ですがな。ベティ・デービスは「八月の鯨」や「魔術の殺人」では骨と皮で今にも死にそうだったけど、この頃はまだ肉がついてる。他にジョージ・ケネディ、アンジェラ・ランズベリー、オリビア・ハッセー、マギー・スミス、ジェーン・バーキン、ハリー・アンドリュースなど。まあ豪華な顔ぶれと言える。「オリエント急行」を意識しているのかなという気もする。あっちは列車、こっちは船。乗客のほとんどに動機があるという・・。ことの起こりは三角関係。ジャッキーは婚約者で無職のサイモンを雇ってくれるよう親友のリネットに頼み込む。快諾したリネットだが、サイモンに一目ぼれしてしまい結婚。新婚旅行の間ジャッキーは二人をつけ回し、いやがらせ。こんな女いやだねえ。書類をきっちり読まないとサインしないしっかりしたリネットにくらべ、サイモンはボクちゃんそういうの全く興味ないのとのほほんとしている。こんな男いやだなあ。仕事クビになるのもムリはない。