9人の翻訳家 囚われたベストセラー


9人の翻訳家 囚われたベストセラー

これって原作はないのかしら。あったら読みたいな。映画の中には見終わった後で、もう一度見ていろいろ確かめたいとか、あるのなら原作を読んでどういう感じなのか知りたいとか、そういう気を起こさせるものがある。ここで終わりにしてしまいたくなくて、もうちょっと引きずっていたい気分。二回目はもう人間関係がわかっているので(この人が犯人で、この人が協力者で、この人は何も知らない・・など)、視点を変えて見た。世界的なベストセラーとなっているミステリー「デダリュス」は実はあまり関係ない(と私は思う)。最初に見る時は、本の内容が大きく関係してるに違いない・・と思ってしまうが。死んだヒロインの名前がレベッカとか、黒髪とか溺死とか、デュ・モーリアの「レベッカ」をどうしても連想してしまう。まああっちのレベッカはそのうち溺死ではないとわかるけど。この映画は時間があちこちに飛んでいて、でも混乱するほどではない。見終わった後、ではどういう順番で起きたのだろう・・と思ってみたりする。今回はこれで書いてみようか。もちろんこの順番で映画を作ったら、さぞつまんなくなることだろうけど。そもそもはスケボー好きの少年アレックスが、本を万引きしようとして、店主のジョルジュに見つかったのが始まり。母親の再婚相手がフランス人で、普段はイギリスに住んでいるアレックス。店を手伝うようになり、ジョルジュを父とも祖父とも慕うようになる。別れをつらがってジョルジュにしがみつくところは胸キュン。きっと孤独なんだろう。スケボーと本だけが生きがいなのだろう。その後も交流は続き、成長したアレックスは小説を書き始める。別に出版する気はなく、ジョルジュを喜ばせたい・・ただそれだけで書いた。しかしジョルジュはこんな傑作を埋もれさせるわけにはいかないと、大学の教え子でアングストローム出版の社長エリックに連絡を取ろうとする。アレックスは表に出るのをいやがり、ジョルジュを著者とする条件で出版を承諾する。この頃のエリックはまだまともだとジョルジュも思い込んでいた。「デダリュス」はこうして日の目を見ることとなったが、英訳本を読んだアレックスは失望する。

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出版に同意したことを後悔し、ジョルジュに当たり散らしたりする。誰が売ったって傑作は傑作、みんなに読ませてあげることが一番大事とジョルジュは思っているけど、若いアレックスはそこまで悟りきれない。インターネットで1、2巻を公開し、自分の英訳の方が読者に評判がいいのが自信になる。ある晩エリックはジョルジュの店を訪れる。完結編である3巻の原稿を受け取るためだ。しかしジョルジュに次回からは別の出版社にすると言われた彼は、自分のやり方・・金儲け主義、翻訳者達を閉じ込めるなど敬意を払わない・・を反省するどころか、怒ってジョルジュを殺してしまう。店に火をつけて燃やしてしまう。「デダリュス」の著者オスカル・ブラックがジョルジュだということは彼以外誰も知らない。原稿を持ち出した彼は、1、2巻目の時と同様翻訳家達を集める。いちいちシェルターの説明をしていたから、前とは別のメンバーか。その中にアレックスもまぎれ込んでいる。この時点で九人のうち五人はもう一仕事終えている。初対面を装っているが。ドイツ語担当のイングリット、スペイン語のハビエル、ポルトガル語のテルマ、中国語のチェン、この四人にアレックスは原稿を盗み出す仕事を持ちかけた。翻訳家の待遇の悪さとか不満をあおる。ロシア語のカテリーナ、イタリア語のダリオ、ギリシャ語のケドリス、デンマーク語のエレーヌは何も知らない。彼らがはずされたのは・・カテリーナはレベッカのコスプレをするほど原作に入れ込んでおり、翻訳を光栄に思っている。つまり金では動かないタイプ。ダリオは性格的に信用できないところがある。ケドリスは老人だし、エレーヌは小さな子供が二人いるのが足枷。九人の中に日本人が入っていないことに見た人全員不満持つと思う。少なくともギリシャ語よりは売れるぞ・・とか。まあ入れたとしても(男なら)チェンと外見が同じになってしまうからな。その代わり日本製の高性能コピー機が出てくるので、我々の自尊心も満足させられる。最初見た時は、1分間に170枚?と、にわかには信じられなかった。

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一枚の原稿を、1分間に170枚印刷するというのならわかる。でもこの場合は170枚の原稿を、一部ずつコピーし、印刷するのだ。すごいとしか言いようがない。二回目見ていて気がついたが、後ろにうつっているボール・・日本語が印刷されてたな。それ専用用紙とか?ところでハビエルがケガをするはめになったペン。あれは何だったのかしら。ペンがなくなったことにエリックが気づかないのはおかしい・・と、見てる人みんな思ったはず。後で結局すり替えは行なわれていなかったことがわかるけど、そうなると何でトランクにペンが入っていたの?ということになる。とにかくアレックス以外の四人は事前に原稿をコピーできたと思い込み、成果を喜び合う。計画に勧誘された時、アレックスから前金を渡されていたようだけど、この後エリックを脅迫してさらに金を手に入れ、みんなで山分けということになっていたのかな。アレックスは「デダリュス」のインターネット公開でわざと警察につかまり、エリックが呼び出されるよう持っていく。彼に会ったら、英訳担当として売り込む。フランスのヴィレット邸で一堂に会するまでには、こんなにも多くの出来事が起こっていたのだ。シェルター部分に缶詰めになって翻訳作業が始まる。三週間が過ぎた頃、エリックに脅迫メールが来る。金を払わないと冒頭部分を流出させるぞ。五人は芝居を続けるが、残りの四人はわけがわからない。ケータイは取り上げてあるし、仕事で使うパソコンはネットにはつながっていない。しかし何らかの方法で誰かが原稿を流出させたのだ。その誰かは九人の中にいる。各自の部屋が調べられるが、エレーヌの部屋から原稿が見つかる。「デダリュス」とは無関係で、彼女が八年も前から密かに書いている小説。契約違反だが、家にいたのでは夫や子供の世話で集中できない。もう少しで完成する。しかしエリックはエレーヌには才能がないと決めつけ、原稿を暖炉にくべて燃やしてしまう。はいここでエリックは見ている人全員を敵に回しました。何とう傲慢な、冷酷な。さて、金を払えという要求に、実は会社はすぐには応じられない。ベストセラーでうるおっているはずなのに、なぜか会社はうまくいっていないらしいのだ。

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3巻目を出して赤字の穴埋めをしないと、倒産するかも。たぶんエリックのワンマンぶりが原因なのだろう。オスカル・ブラックのことだって自分一人で取り仕切っていて、会社の者は何も知らされていない。もっとも今のエリックには、オスカルの正体を明らかにしろとか、会わせろと言われたって、拒否するしかないのだ。何しろ彼が殺しちゃったのだから。途中アレックスとカテリーナの会話で、アレックスが「耐えがたい喪失の経験をした」と言うんだけど、二回目見てるとこの言葉の意味もわかる。ジョルジュを失ったこと、これがアレックスが行動起こした理由。ジョルジュを殺したのはエリックとしか思えないが、証拠がない。自白させるために遠回りで綿密な計画を立てる。シェルター内では計画成功とまではいかなかった。エレーヌが自殺し、彼女を犯人に仕立て上げれば他の者の疑いは晴れる。しかしエリックはエレーヌがそんな器ではないことを知っている。犯人が見つかるまでは誰も解放する気はない。協力者のうち、ハビエルあたりが崩れそうになるが、結局は黙ってる。自分が何か言っても他の四人が否定すればそれっきりだからだ。悪くすれば自分一人が犯人にされてしまう。あれこれあってエリックはカテリーナを撃つ。どう考えたってお亡くなりになりましたモードだが、昏睡状態ながら生き延びたことが後でわかる。彼女が死んじゃうと、アレックスのせいで・・となって、見ている人の心証が悪くなるからかな。アレックスも胸を撃たれるが、プルーストの本のおかげで命拾いする。こういうのってよく聖書のおかげで・・となるが、分厚くて表紙がしっかりしているからそれもあり得る。こちらは普通の本だったけどな。銃の口径が小さくてさほど威力がないとか?そして二ヶ月後、犯人に面会に来たエリック・・と思わせて、実は収監されているのはエリックの方。みんなの目の前でカテリーナとアレックスを撃ったのだから当然だけど、自分では正当防衛にするつもり。何しろアレックスは原稿をすべて流出させ、自分や会社から8000万ユーロだまし取ったのだから。彼は盗聴マイクをつけているけど、これはきっと自分から言い出したんだろうな。

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アレックスに自白させてみせるとか言って。アレックスはすでに原稿を盗み出した、そのやり方はエリックに教えてある。でも誰が協力者なのかは言わない。言えば彼らに迷惑がかかる。ところでエリックは切れ者ではあるが、想像力というものがない。だからアレックスがみんな説明してやらなければならない。実は原稿のすり替えはなかった。する必要もなかった。なぜなら「デダリュス」を書いたのは自分だから。8000万ユーロは全部エリックの口座に振り込んだ。これをチクってやればエリックは自分を被害者に見せかけようと芝居していたのだとまわりは思う。逆上したエリックは盗聴マイクのことも忘れ、思わずオスカル殺しを白状してしまう。今まで何度もアレックスはオスカル・ブラックに会わせろとエリックに迫ってきたが、その積み重ねがついに成功した。これで復讐は成ったわけだが、アレックスの表情は暗い。ジョルジュを巻き込まず、最初からインターネットで公開していればよかったとでも後悔しているのか。エリック役はランベール・ウィルソン。とにかく鼻がでかかったな。若い頃は、ちょっと腫れぼったい目が涼しくて素敵だった。鼻のことなんか気にならなかったけど。アレックス役はアレックス・ロウザー。どこかで見たような・・と調べてみると、「ゴースト・ストーリーズ~英国幽霊奇~」のサイモンだった。でもあの映画はとにかく画面が暗くてなあ・・。ロウザーはまだ若くて、色がなまっちろくて、肩幅が狭くて不健康そうな感じ。ラストシーンだって徹夜明けみたいなさえない表情している。そういう・・あまり前に出てくるタイプじゃないのがこの場合意外性があっていいんだろう。カテリーナ役はオルガ・キュリレンコ。彼女が出てくると、どうしても何かありそうに見える。何かしゃべると、一人で行動すると重要そうに思える。ミスリード役ですな。関係ないけど九人並ぶと彼女が一番背が高いのが何だか笑えた。ハビエル役エドゥアルド・ノリエガは「バンテージ・ポイント」に出ている。ジョルジュ役パトリック・ボーショーは「パニック・ルーム」でヒロインの元夫やってた人。チェン役はフレデリック・チョー。