アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち
これはほとんど何の予備知識もなく見た。ポーの短編が原作らしいが、読んだことなし。最初1899年のオックスフォード大学での講義のシーンで、ヒステリーの症例として出てくるのがイライザ(ケイト・ベッキンセール)。その後ストーンハースト精神病院へ精神科医の最終実習に来たのがエドワード(ジム・スタージェス)。警備責任者がフィン(デヴィッド・シューリス)で、院長がラム(ベン・キングズレー)。冒頭講義をしていたのがブレンダン・グリーソンで、後でマイケル・ケインも出てくるからなかなか豪華な配役と言える。この病院では変わった方法が取られている。他の病院なら薬漬けにしたり、拘束したり、水や氷を使ったり。治療と言うより拷問に近いこともなされるが、ここではかなり自由にさせている。で、効果も出ている。患者は良家の出身者が多く、当然多額の費用が払われているだろうから、ラムはすぐには退院させないよう故意に入院期間を伸ばしているのかな・・とも思う。何しろキングズレーだから、裏があるはずだ。エドワードはイライザに一目ぼれしたらしく、頭の中は彼女に近づくことでいっぱい。彼女は夫の耳を食いちぎり、目をくり抜いたらしいが、エドワードには全然気にならないようだ。そのうちとんでもないことがわかる。どこやらから聞こえる不審な音の源を探っていた彼は、地下深くに監禁されているのが患者ではなく、院長ソルト(ケイン)や医師、職員なのを知る。ラムやフィンは患者だというのだ。これには見ていてびっくり。もちろんソルトの言うことが真実なのは容易に信じられる(ケインだし)。ただ、ソルト達は従来の治療法の信奉者で、ラムやイライザはひどい扱いを受けていたようだ。こうなるとどちらの味方をすればいいのかわからなくなる。イライザにしても、本当は正常なのか、発作を起こすと何をしでかすかわからない危険人物なのかはっきりしない。ただ、エドワードのことは見てる人誰も疑わないと思う。彼は孤児院育ちで、孤独やいじめのこともよくわかっている。患者を治したいと心から願っているやさしい心の持ち主。だから(本当は患者である)ラムも、エドワードには好感を抱き、助手として扱うことにしたのだ。
アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち2
ただ、ちょっと引っかかるところもある。途中で彼がここへ来たのはイライザを連れ出すためだったとわかる。彼は例のオックスフォードでの講義に出ていて、彼女について言われたことが信じられず・・正常で理性的に見えたと。でもあの時は何もできなくて・・。それはわかるのだが、イライザのことさえうまくいけばあとはどうでもいいみたいなところもあって、そこが医者としての彼の信念と矛盾しているような。いちおうソルト達に食べ物を持ってくるなど、できる範囲で手助けはしているが。途中で二人脱走するけどどちらも死んでしまう。自殺する方は「D-TOX」に出ていたクリストファー・フルフォードだな。もう一人はジェイソン・フレミング?暗いのとヒゲで顔がよくわからない。ソルトは電気ショックを与えられ、記憶をなくす。病院は人里離れたところにあり、冬なので訪問者もいない。だから乗っ取られても気づく者はいない。しかし食料は乏しくなり、薬も不足がち、暖房も不十分。患者だけで維持していくのは無理。エドワードは新年のお祝い用の酒に麻酔薬をまぜてみんなを眠らせようとするが、フィンに邪魔される。今度は彼が電気ショックを受けさせられるはめに。見ていてもどういう結末になるのか想像がつかない。後味の悪いまま終わることもありうる。病院の方がうまく片づいたとしても、最後の最後にイライザが豹変することもありうるわけで。どっちにせよエドワードのことは疑ってないわけ。だから最後のどんでん返しにはびっくりさせられる。彼が自分とイライザのことしか考えていないように見えた理由がわかる。病院を彼が運営していくこともできたはずで、その方が患者にとっても職員にとっても最良の方法。でも彼はここにとどまる気なんか全くなくて、イライザとどこかへ行きたい。あと、彼の正体がわかってみると、ラムに言った殊勝な信念も、患者に対するやさしさも全部演技だったことになる。まわりの者が誰も疑わず、彼を信じていたということは・・彼自身ホントとウソの区別がつかないほど重症だってことで。スタージェスってこういうキャラが合ってると思う。ハンサムだけど平凡で、強烈な個性がない。裏があるような・・複雑なタイプには見えない。だから見ていてだまされる。「鑑定士と顔のない依頼人」もそうだったし。イライザの夫役の人は、姓がキングズレーだからベンの息子さんかな。