刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者
これは確かWOWOWで見たんだと思う。ベンジャミン・ブラットが出ていて、彼ってちょっとニヤケてるけどいい人・・やるでしょ。「キャットウーマン」とか「デンジャラス・ビューティー」。でもここではかなり異常な役で。主演はスコット・グレンで、もしかしたら「ザ・キープ」みたいな雰囲気味わえるかも。どういうわけか録画しなくて、後ですっごく後悔。DVDも出てないし。だから数年後レンタル店でビデオ見つけた時はすっごくうれしくて。でもなかなか感想書けなくて。今回こそは書くぞ!題名は「刑事ジョン・ブック 目撃者」を意識していると思う。でも私はこっちの方が断然好き!冒頭はモロ都会ムード。ロサンゼルス・・騒々しく、すさんだ世界。子供が組んで、老女の手提げかっぱらう。弱い者がより弱い者を狙う世界。うまく逃げて獲物分けてると、女がフラフラ出てきて、子供達の前で頭を銃で吹っ飛ばす。彼女の部屋には何やら怪しげな道具(SM用?)。殺されている男は神父だ。こんなことに毎日関わっていたのでは、誰だっておかしくなる。殺人課の刑事(字幕では警部)ケイン(グレン)は疲れている。果てしなく続く犯罪・・身も心もすり切れ、何もかも空しい。仕事をやめようかとも思っている。上司ジェイクには、捜査ミスで犯人を起訴できなかったと怒られる。しかし、「妻に男ができた」などと聞かされれば、それ以上怒れない。そう・・妻の心はケインを離れ、他の男に。車で妻を見張るやるせなさ。娼婦が声をかけ、雨がそぼ降る。家に帰れば出て行く準備できてるし、男が車で迎えに来てる。「私達の愛は偽りだったの」「もう疲れたわ」・・お決まりのセリフ。たぶんケインは仕事一途で、自分が犯罪撲滅してみせる・・と気負っていたのだ。妻のことはほったらかし。子供も作らなかったし(悪でまみれた世界に新しい命を送り出してどうなる)。気がつけば夫婦仲は冷え、もう修復は無理。未練たらしく「愛してる」なんて言っても、答は返ってこない(あったりまえじゃい!)。物憂げなムード、哀愁漂う中年男、それらしき音楽・・最初の15分はそんな感じ。気晴らしになるかもと、ジェイクに与えられたのが、殺人容疑者の護送。行って連れて戻るだけ。やめるかどうかはその後考えればいい。・・でもほら一人で大丈夫なの?ヨレヨレだし抜け殻だし。
刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者2
着いたのはナバホの保留地。二人殺し、一人は重傷という凶悪犯トゥベア(ブラット)。魔術師、コヨーテ・マン、スキンウォーカーなどと呼ばれ、何やら邪悪な力持ってるらしい。でも殺人課の刑事ケインにとっては、こんなの珍しくない。殺人犯は殺人犯でしかない。呪いも魔術も迷信も信じない。厳重な警戒のもと、連れてこられたトゥベアは、確かに異常な感じだが、手錠かけられてるし、何もできない。そういう思い込みや、不安定な精神状態って、つけ込まれやすいと思うんだけど。全体を通して感じられるのは、人間の精神ってとてももろくて影響受けやすいものだということ。ケインには見るからに負のムードが漂っている。トゥベアじゃなくたって、彼が何やら抱えていることはわかる。トゥベアは、そういう弱い状態の者を見つけると憑依し、全体を乗っ取り、最後は魂を抜き取る。要するに他人をコントロールする。保留地の警官トツォニ(ロバート・ベルトラン)やレイ(アンジェラ・アルヴァラード)にはスキがないが、ケインはスキだらけ。ペラペラしゃべるのもよくないんだよなあ。相手に自分の状態わかってしまう。ケインはおしゃべりではないが、それでも見ていて「あッ、挑発に乗ってしまったぞ」と感じる。思った通り、いくらも行かないうちに幻覚を見、事故を起こし、気がつけば病院。トゥベアは逃亡、銃とバッジを盗まれた。でも現われたトツォニは、さして意外でもなさそう。たぶんロスにいたら彼のようなタイプは務まらないと思う(ペースが違うから)。でもここではたぶん非常に有能。冷静で無口で頼りになりそう。演じているベルトランは、「ミディアム」の「キャンディ」に出ているようなので、今度見直してみよう。ジェイクは代わりの者やるから戻って来いと言うけれど、ケインは断る。そりゃ自分のミスだしぃ。ところで何でアリゾナ(たぶん)で起きた事件なのに、ロスへ連れて行くのかな。トゥベアは食堂の主人夫婦を殺し、ライフルと弾薬を盗む。この夫婦は、九年で壊れてしまったケインと違い、30年以上続いていて、今でもアツアツ。初対面のケインの前でのろけ、キスをし、幸せぶりを見せつける。こういうの嫌だなあ。犠牲になっても気の毒とは思わん(おいおい)。
刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者3
さてケインは、追跡の指揮を取るのが若い女性レイなのに驚く。ここでは自分の経験が何の役にも立たないのも、思い知らされる。車の代わりに馬、時計の代わりに太陽。それにしたって無線機くらいは持って行くのでは?追跡シーンはおもしろくないかも。あれこれあるとは言え、さほど新鮮味はないし、地味。ケインとレイが最初反発気味だったり、興味持ったり、トツォニ達と別れて二人きりになると、夜・・焚き火・・キス・・となるのもお約束。結婚に破れた主人公には、早速次のチャンスが訪れるのだ、ケッ!!レイは人妻だから無理と思わせといて、実は夫はろくでなしとわかるのも都合がいい。障害なんぞ何もありゃしませんでしたとさ。私にはレイとはトツォニの方がお似合いに見える。同じナバホだし、年齢も近い。たぶん彼もレイに引かれてると思うけど、賢明な彼には、彼女は気が強すぎて自分には向かないとわかっているのだ。だから遠くから見守るってふうにしているのだ。人生に疲れた主人公が大自然に触れ、自分を取り戻すというのはよくある。薬より、精神科医より、大自然!さて、あの事故の時、トゥベアはケインの額に何か小さな白いものを埋め込んだが、それは骨片らしい。そのせいか、彼は悪夢ばかり見る。途中川で待ち伏せされ、レイが撃たれた馬の下敷きになって溺れそうになるところはハラハラした。ケインが馬をどけようとしても、重くてなかなか動かせない。また、彼はこの時肩を撃たれ、そのせいで熱も出る。アルヴァラードは「D-TOX」に出ていた。この映画ではまだ若く、きりっとした美しさ。背が高く、姿勢がよい。途中美しいヌード(と言っても髪で隠れているが)を見せるが、朝の澄んだ空気の中、川のほとりで香(薬草?)を自分に振りかけるなど、いかにも・・って感じ。つまり・・白人女性ならそういう奥ゆかしい行為ではなく、もっと開放的な行動・・全裸で水と戯れるとか・・を取ると思うのだ。二人が接近することには、少し嫌悪感を感じる人もいるようだ。うまくいってないとは言え、二人ともまだ既婚者だし、特にケインはあんなに引きずっていたのにコロッと変わって・・いい気なものだ。そのうち二人は、トゥベアの潜んでいる廃墟にたどり着く。
刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者4
さて・・この映画あんまり評価はかんばしくない。グレンが刑事で、異常な殺人犯を追う・・しかも魔術絡み・・となれば、それなりのもの期待する。知的で緻密で鋭く粘り強いキャラ。でも違う。たいていの人が書いてるように、ケインは恐ろしく無能に見える。しかもこれ以上ないってくらいやられっぱなし。いやホント、呆れるくらい情けない。あれでトゥベア倒せるわけないんだけど、映画だから倒す。トゥベアもチャンスだってのにペラペラしゃべって、楽しみは長い方がいいとばかりに引き延ばす。いい気になっていたぶってるうちにスキが出て、そのうち逆転される。そう言えば彼何でつかまったんだろう。皮を剥ぐとか楽しんで、ついぐずぐずしちゃったのかな。狩猟家だったレイの父は、トゥベアの追跡中酔ったところを襲われ、殺されたらしい。何かみんな用心深いようでいて、けっこうオバカ。保留地には酒は置いてないと言っても、抜け道はいくらでもあるのだろう。・・話を戻して、ケインのキャラにあまり魅力がない。私はこういうグレンもありだと思ってるけど(「ザ・キープ」の何が何やらキャラを見てるから、たいていのものはOK)、他の人はそうでもないみたいで。「羊たちの沈黙」のクロフォードのイメージが強いからだろう。私の印象に残るのはブラットの方。ジュリア・ロバーツの横で微笑んでいるやさしそうな人・・というイメージがどうしてもある。それがこんな異常キャラ。ちなみに彼はロバーツと別れた後、タリサ・ソトというきれいな女優さんと結婚し、うまくいってるようだ、よかったね。トゥベアが「おまえの中は空き家みたいだ」と言うシーンは興味深い。自分の中が空っぽ・・と感じてる人はいると思う。何のために生きてるのかわからない。自分がどうしたいのかわからない。将来のことが思い描けない。そういう人達が気力取り戻すきっかけは、風を感じることだったり、静けさを感じることだったり。あるいは、死にそうになった時、本来なら生にしがみつくはずないのに、本能的に生きるための努力していたとか。もう誰も自分の心を動かすなんてありえないと思っていたのに、いつの間にか誰かを目で追っていたり。もちろんラストは生きる気力取り戻したケインと、寄り添うレイだ。
刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者5
レイにはここを離れる気はないが、大丈夫ケインの方がこっちに移る。レイに合わせる。仕事をやめ、離婚し、きれいな体になって(←?)戻ってくる。たぶんロスの家には妻が待ってて、「やっぱりあなたとやり直してみるわ」とか言うんだと思う。二、三日愛人と暮らしてみたけど、思ったほどうまくいかないみたい・・とかさ。彼はまだ私に未練たっぷりだったから、戻れば泣いて感謝するはず。でも・・帰ってきたケインは生き生きしちゃって、心は保留地に飛んでる。早く書類にサインして・・と、せっつく。エッ、ウソッ、あんなにボロボロヨレヨレだったのにぃ~!エッ、新しい女?ウソッ、あんなに私のこと責めておきながら自分も同じことを、キ~ッ!・・とかさ、ああ妄想するだけで楽しいな。いえ、もちろん奥さんいい気味なんて思いませんよ。奥さんが別の男に走った心情は理解できる。話はそれるけど・・ってもう十分それてるけど、この映画を久しぶりに見直した後で、ふと思いついてトニー・ヒラーマンという人の書いた小説「祟り」を読み返してみたのよ。何十年も前に何気なく買った文庫本。たぶんその頃の私はこういうのに興味あって・・呪いとか超能力とか。本屋をうろついていて(今と違ってうろつき回れるほど本屋はいっぱいあった)、単に題名に引かれて買ったのだ。一緒に買った「呪いの館」は、まだ読み終わってない。途中で挫折し、そのまんま数十年。後でホーソンの作品だと知ったけど、正直言って退屈でおもしろくないのよ。それともこれからおもしろくなるのかしら。その点「祟り」はさほど長くないし、現代(と言っても1970年頃)の話。何回か読んで(と言うのも、しばらくすると内容忘れちゃうからだけど)、今回また読んだら・・出てくるのよ、アナサジ遺跡。映画の字幕ではアナサシになってたけど、トゥベアの潜んでいたあの廃墟。そう、「祟り」ってナバホの保留地で起きた殺人事件を書いているの。最初読んだ時は「あら?インディアンの話?」って失望して。だって呪いとか祟りなら、お城か洋館期待するじゃん。それはともかく、映画でのあの廃墟は実際にあるものなのね。観光で訪れて、写真をブログに載せてる人もいるし。映画ではほとんどが夜だからよく見えないし、クライマックスでケインとトゥベアが戦う場所もセットだろうけど。
刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者6
あと、IMDbで見たらトゥベアの名前はナカイで、「祟り」によればメキシコ人という意味らしい。ネズという警官が出てくるけど、「祟り」でもその名字が。それとケインが食堂でビール注文すると、酒は置いてないと言われて。今時そんなことが?と思うけど、実際保留地はそうらしい。何でもアメリカ政府の管理下に入ってから、女性の場合は伝統的な織物で稼ぐとか、そういうふうにやることがあったけど、ヤローの方はトウモロコシ作りくらいで、あんまりすることがなくなってしまった。たぶん今までは白人とか他の部族と戦うとか、やることがあったんだけど、ヒマになっちゃった。で、代わりに増えたのがアルコール依存症。たぶんレイの夫もそうなのでは?たまに帰ってきては金を持ち出し、行方をくらます。とにかくそんなこんなで保留地は今でも・・。ノンアルコールもだめ?トツォニ達が額に何か付けたり、播いたりするシーンがあるが、魔除け用の花粉だろう。「祟り」を読み返すまでは、何なのかわからなかった。さて・・何かまとまりもなく書いてきたけど、改めて見直すと、トゥベアのことがほとんど説明されてないのに気づく。どういう生い立ちで、何がきっかけ?あんなに異常で、今まで犠牲者がレイの父を含め死者が三人、重傷者が一人なわけないと思うが。いや、今回食堂の夫婦が殺されたから、死者は五人か。廃墟にされこうべがあったけど、あれも彼が殺めたのかな。まあ作り手はトゥベアの背景より、都会の生活に疲れた主人公が、大自然と、その中でゆったり暮らす人々に感化されて、人生の再スタート切る・・そっちの方メインに考えているのだろう。まあ説明されてないぶん、私は大いに妄想して楽しみますけど。トゥベアの魔力が威力を発揮したのは、ケインの状態がそれほど悪かったってことだ。私が思ったのは波長。自分がどんな波長を出し、他人はどういうの出してるかなんて、普段考えないし、第一目に見えない。でも一緒にいると気持ちよかったり、反対に居心地悪かったりという経験はある。ケインは人一倍負の波長出し、トゥベアはすぐにそれを感じ取った。「祟り」によれば、魔法使いは狼・コヨーテ・犬に変身できるのだそうな。映画ではコヨーテが手先に使われていたけど、トゥベアは人間だけでなく、動物とも波長を合わせられるのだろう。コヨーテを媒体に、遠く離れていてもケインをコントロールする。額に埋め込んだ骨片も媒体なのでは?
刑事ジョン・ケイン 影なき殺人者7
そうやってケインに悪夢を見させる。あの悪夢では、レイもトツォニもネズも皆殺されていて。そのシーンでケインがトツォニ(の死体)をまたぐのが、なぜか印象に残って。「祟り」によれば、ナバホ族は人をまたがないという習慣を持ってるらしい。たぶんたいていの人は後ろからぬっと現われたトゥベアが、ケインの首をかき切るという、ショッキングさの方が印象に残るんだろうけど。とにかくトゥベアは人々を恐れさせていて、トツォニ達も厳重な警戒怠らない。たぶんケインが一人なのを見て、不安を感じたと思う。トゥベアが逃亡したと聞いても、予想通りだ。見ている我々だってトイレの時どうするんだよ・・と、素朴な疑問持つ。二人来て、片方は殺されるってのが、こういうB級C級刑事物のお約束。追いかける方もトツォニとか部下がやられるとか、犠牲出るのがお約束。でも今回は追跡チームは無傷。作り手はよくがまんしました!(パチパチ)崖を登るシーンも不思議だったな。別に・・次の日トツォニ達が合流してからでもいいじゃん。それでも登り始めたのは、夜の方が見つからないだろうって、そういうことですか?それにしてはアンタ達ペチャクチャペチャクチャ声も潜めんと思いっきりしゃべってるじゃん。レイは懐中電灯で照らすし、おまえら見つかりたいのかよッ!ケインは崖から突き落とされたり、床を踏み抜いて転落したり、サソリのいる穴に手を突っ込んだり・・何で死なないの?やっぱ「ザ・キープ」の主人公の仮の姿なのよ!いやとにかくさんざん痛めつけられていて、こうなるとコメディーなんだもの。カトちゃんやシムラにさんざんひどい目に会わされる、いかりやさんみたいなんだもの。トゥベアがちゃんと死んだかどうか確かめるシーンもなし。たぶんお互いの愛を確かめるのに忙しかったんだろう。あの後行ってみたら、そこにあったのはコヨーテの死骸だったりして。トゥベアの死体は消えてたりして。十分ありうる。でもそうなったら、ケインもこっちに住みつくし、レイと二人で気長に追跡すればいいのよ。・・てな訳で、確かに出来は悪いけど・・私は好きですよ、これ。ちょっと変わってるし、ブラットがこれまた変わってていいし。トツォニもステキだったな。首まで毛布にくるまって、お行儀よく寝てたのが印象的。夜は冷えると思うけど、ああやって顔出していて平気なのかな。DVD出てくれないかな。たぶんカットされたところもあると思うんだよな。