吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)
これは見るの初めて。1838年にヴィスボルグという町で起きた大量死。実は吸血鬼の仕業でしたという話。マックス・シュレックの吸血鬼は、一度見たら忘れられないほどのインパクトがある。1979年のキネ旬のドラキュラ特集号を見ると、代表的なドラキュラスターとしてシュレック、ベラ・ルゴシ、クリストファー・リー、フランク・ランジェラの名があがっている。この1979年という年は「ドラキュラ」、「ドラキュラ都へ行く」「ノスフェラトゥ」と三作も制作されていて。私の推しドラキュラはモチ、ランジェラ。気品と威厳があって美しく、力強い。こちらのシュレックは怖いと言うより気持ち悪い。新婚のフッターは妻エレンを残してトランシルバニアへ。ドラキュラ・・この映画だとオルロック伯爵が屋敷を捜しているというので、契約に行かされる。ブラム・ストーカーの未亡人との間にトラブルがあり、数奇な運命をたどるはめになったこの映画。でも残っていてよかった。100年以上前の作品だけど、スケールが大きく、ちゃんと作ってあるなという印象。演技は大げさで、特にエレンは見ていて何じゃこりゃと思うが、当時はあれが普通だったのだろう。フッターはえらく楽天的な性格だが、もちろんそのうち変わってくる。原作を読んでいて印象に残るのは、ドラキュラは何でも自分でやらなければならないということ。ヴィスボルグに着いたオルロックが棺を抱えて歩き回るシーンがあるが、他に運んでくれる人がいないのだから当然なのである。馬車や人夫を雇えば記録や記憶が残る。それでなくても彼は異様な風体をしている。城から棺を運び出す時や、船で移動する時は他人を頼るしかなかったけど、手続きは面倒だし途中で棺を開けられ、見つかるおそれもある。自分で動いた方がずっと安全なのだ。城でフッターをもてなす時も、召使いがいるフリをして実際は全部彼がやっていた。食事を作り、ベッドを整え、事前にはそこらの掃除もしただろう。途中まで迎えに来た馬車の御者だって実はオルロック自身だった。そう考えると怖さはいっそう薄れ、微笑ましくさえ思えてくる。この作品では三人の女吸血鬼は出てこない。登場人物の名前や場所も変更されている。一番違うのはペストの流行か。オルロックが来て以来の大量死は、血を吸われたからではなく、ネズミが持ち込んだペストのせい。じゃあ彼は何をしていたのかいな。エレンの血を吸うことだけ考え、チャンスが来るのをじっと待っていたということかいな。シュレックは長身だが、鼻の形などは普通で、耳と同じく鼻も特殊メイクだったのかな。エレン役はグレタ・シュレーダー、フッター役はグスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム。がらんとした城はよかったと思う。家具がぎっしりということもなく、掃除がしやすそう。
ノスフェラトゥ(1979)
こちらは1922年のF・W・ムルナウ版とほぼ同じストーリー。ジョナサン役はブルーノ・ガンツ。「ベルリン・天使の詩」の人だな。若い頃はこんな感じだったのね。原作ではジョナサンの妻はミナだけど、こちらではルーシー。まあこの映画の主人公はこのルーシー・・と言うか演じているイザベル・アジャーニですな。ドラキュラ役クラウス・キンスキーも彼女の前ではかすんでしまいます。あの肌の白さ、あの大きな目、あの黒髪・・互角に張り合うにはランジェラみたいな偉丈夫を持ってこなきゃだめです。ルーシーはいやな予感がするのでジョナサンを行かせたくない。でも仕事なので行かせるしかない。ジョナサンは22年版ほど楽天家ではない。船がヴィスマールへ着き、船長の日誌から乗組員が全滅したのはペストのせい・・となって、町は恐怖に包まれる。この後大量のネズミが出てくる。こんなにたくさんのネズミ見たことがない。ドラキュラよりこっちの方がよっぽど怖い。だってこちらのキンスキードラキュラ・・ちっとも怖くない。ヴァン・ヘルシングはいちおう出てくるが、全くのぼんくら。科学的じゃないものは信じないから、ルーシーの力には全くなってくれない。こちらのルーシーはただおびえているだけのか弱い女性ではなく、芯が強く行動的。だからやっと戻ってきたジョナサンが彼女のことを覚えていないのにショックを受けて気絶するところは印象的だ。でもその後の彼女は吸血鬼の本を読み、誰も助けてくれないなら一人でもやるとドラキュラと対決。まあ男達の何とふがいないことよ。この男達の中にはドラキュラも含まれる。ルーシーの命をかけた計略に引っかかり、血を吸うのに夢中になって朝になってしまう。朝日を浴びてチリになるかと思ったら・・床に転がってる。何とまあ情けない、消えることもできないんだ。で、やっとこさ科学じゃ説明のつかないこともあるのだと気づいたヘルシングが杭とか用意し・・。でもそのせいで殺人犯にされちゃった。何だかここらへんから映画がおかしくなってくる。22年版とは違うラスト。ドラキュラが倒されれば血を吸われたことのあるジョナサンも元に戻るはずだが、何と吸血鬼になっちゃった。彼が馬ですっ飛んでいったのはドラキュラ城か。彼のために命を落としたルーシーがこれじゃ浮かばれませんて。と言うかジョナサンがそうなら彼女も吸血鬼になるのでは?でもヘルシングは逮捕されちゃったから・・。と言うわけでせっかくいいムードだったのに何じゃこりゃラストのせいで映画のイメージがダウンしてしまったのは残念。まあ若くて美しいアジャーニを見ることができるからそれでいいけどね。キンスキーはがんばってたけどネズミの親玉くらいにしか見えなかったな、悪いけど。
ノスフェラトゥ(2024)
1838年のドイツ、クノック不動産に勤めるトーマスは新婚ほやほや。クノックはあまり良心的ではなく、廃墟同然の屋敷をオルロック伯爵に売りつけるつもり。契約のためトーマスは旅に出、妻エレンはフリードリヒとアンナのところへ。何で自分の家で留守番しないのかな。夫妻には二人の幼い娘がいて、アンナは三人目を妊娠中。今回は吸血鬼の本もなし、途中の宿屋もなし。伯爵はすぐに書類を見たがるなどいやにテンポが速い。トーマスは早速血を吸われるが、喉ではなく胸から吸われる。今作は2時間以上あり、例によって画面が暗いので見ていて疲れる。ネットでは「暗いけどくっきり見える」なんて書いてあって、映画館で見ればそうなのだろう。何度も暗くて見えんと文句垂れてるけど、テレビがポンコツなんだろう。いや、見ている私もポンコツだけどさ。それにしてもモタモタしていて盛り上がりに欠ける展開だ。エレン役はリリー=ローズ・デップで、白目を剥いたり、舌をでろんと出したり、オッパイ見せたりまあいろいろやってくれるんだけど、吸血鬼物と言うよりエクソシスト物みたいなところがあって、何か違うんじゃないかと思いっぱなし。トーマス役はニコラス・ホルト。時々締まりのないベネディクト・カンバーバッチに見える。ヴァン・ヘルシングにあたるフォン・フランツ教授がウィレム・デフォー。さすがに彼が出てくると画面も締まるけど、彼意外と背が低いのね。他の連中と並ぶとそればかりが目立つ。オルロック役はビル・スカルスガルド。この映画での彼はほとんどどういう顔をしているのかわからない。途中で若返ったところ見せるとかそういうのもなし。それじゃあ若い人を起用した意味ないじゃん。関係ないけど彼の出た「ザ・クロウ」が公開されるみたいなんだな。「ザ・クロウ」と言えばヴァンサン・ペレーズだけど、そっちじゃなくてブランドン・リーの出た一作目の方のリメイク(リブート?)。フリードリヒ役はアーロン・テイラー=ジョンソン。2014年版の「ゴジラ」に出ていた人ね。アンナ役はエマ・コリン。で、私がこの映画で一番印象に残ったのがフリードリヒの不運。エレンでもオルロックでもないのよ。出てきた時の彼は金持ちで美しい妻とかわいい二人の娘がいて、三人目もできたという幸せの絶頂にいる。ところが親切心から預かったエレンは発作を起こすなどさんざん迷惑をかける。がまんも限界の彼に対し、エレンは愚かだの冷酷だのとなじる。これには呆れた。持ち船は乗組員全員が死ぬし、アンナも二人の娘も死ぬなど不幸のどん底に。結局彼も死んじゃったのかな(よく見えん)。いやホント気の毒で気の毒で。