1. 神様の命令
神様はヤコブに、言いました。『さあ、ベテルに上り、そこに住みなさい。そしてその地に、あなたが兄エサウを避けて逃げて行ったとき、あなたに現れた神のための祭壇を造りなさい。』
この命令は、べテルでヤコブが立てた請願を成就させるためのものでした。
『28:20 ヤコブはまた、誓願を立てて言った。「神がわたしと共におられ、わたしが歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え、28:21 無事に父の家に帰らせてくださり、主がわたしの神となられるなら、28:22 わたしが記念碑として立てたこの石を神の家とし、すべて、あなたがわたしに与えられるものの十分の一をささげます。」』
ヤコブは神様の命令を受けて、家族の者や一緒にいるすべての人々に次のように言います。
『お前たちが身に着けている外国の神々を取り去り、身を清めて衣服を着替えなさい。35:3 さあ、これからベテルに上ろう。わたしはその地に、苦難の時わたしに答え、旅の間わたしと共にいてくださった神のために祭壇を造る。』
ヤコブの家族に、外国の神々を身につけている者たちがいたようです。ヤコブは、アブラハムの神、イサクの神を信じる者でありましたが、家族の者たちは、それぞれ外国の神々を信じていたようです。そう言えば第31章には、ラケルが父ラバンの家から守り神の像を盗んだことが記されています。ヤコブは一族をあげて、神様を礼拝しにベテルに上ろうとしています。その準備として「身に着けている外国の神々を取り去らせた」のです。ヤコブは、家族に、「さあ、これからベテルに上ろう」と呼びかけ、そこに「苦難の時にわたしに答え、旅の間わたしと共にいてくださった神のために祭壇を造る」と明言します。このヤコブの言葉を受けて、人々は、持っていた外国のすべての神々と、着けていた耳飾りをヤコブに渡したので、ヤコブはそれらをシケムの近くにある樫の木の下に埋めました。
これは、ヤコブの一族内の宗教改革と言うことができます。「着けていた耳飾りをヤコブに渡した」とありますが、耳飾りは、ただの飾りではなくて、お守りのような宗教的な意味をもっていたようです。このように強行できたのは、当時は家父長制社会であったからとも言えますが、シケムでの出来事(34章)で周囲の憎まれ者であることから、一族が一致団結していないと滅ぼされるとの危機感があったからだと思われます。このような危機感が一族の中にあったからこそ、ヤコブに答え、神様を礼拝するために、外国の神々を捨て去ったのです。すると、神様は周囲の町々を恐れさせたので、ヤコブが危惧していたような攻撃を受けることはなかったのです。ヤコブはやがて、一族の者すべてと共に、カナン地方のルズ、すなわちベテルに着き、そこに祭壇を築いて、その場所をエル・ベテルと名付けました。「エル・ベテル」とは「ベテルの神」という意味でありますが、このようにして、ベテルの神は、ヤコブの一族の神となったのです。
2.デボラの埋葬
リベカの乳母デボラの死について記されていますが、リベカの乳母でありますから、かなりの高齢であったと思われます。彼女は、リベカの嫁入りの時についてきていますから、そのままヤコブの一族の中にいたと思われます。デボラはヤコブにとっておばあちゃんのような存在だったのかも知れません。
3.イスラエルの名が与えられる
ヤコブが、伯父ラバンが住んでいたパダン・アラムから帰って来たとき、神様は再びヤコブに現れて彼を祝福しました。そして、こう言われたのです。
『あなたの名はヤコブである。しかし、あなたの名はもはやヤコブと呼ばれない。イスラエルがあなたの名となる。』
イスラエルとは、「神は争う」という意味でありますが、神様はヤコブに、イスラエルという新しい名前を与えてくださったのです。そして、このイスラエルという名前が、後に民族の名となるのです。神様は、またヤコブにこう言いました。
『わたしは全能の神である。産めよ、増えよ。あなたから/一つの国民、いや多くの国民の群れが起こり/あなたの腰から王たちが出る。35:12 わたしは、アブラハムとイサクに与えた土地を/あなたに与える。また、あなたに続く子孫にこの土地を与える。』
このことから分かりますのは、アブラハムに与えられた祝福が、イサクへと受け継がれ、さらにはヤコブへと受け継がれているということであります。アブラハムの神、イサクの神は、ヤコブの神となられたということであります。そして一族で神様を礼拝することによって、その場所がベテル、神の家であることが一族の共通の認識となったのです。