2024年 9月 29日 主日礼拝
『神様の栄光のため』
聖書 ヨハネによる福音書11:1-16
今朝のみ言葉は、ヨハネによる福音書から、ベタニア村のマルタ、マリア、そしてラザロの物語です。この三人は姉妹・兄弟であります。ベタニアは、マリアとマルタのいる村です。ラザロはそのマリアの兄弟で病気でした。この記事の三人のなかで最も熱心にイエス様の教えを受けていたのはマリアです。マリアには、姉妹のマルタがいて、この二人とイエス様の関係から、兄弟ラザロがつながっているわけです。この三人で、マルタが一番上の姉でありました。それは、家長として客人を迎え入れている記事（ルカ10：38）からの推測ですが、姉だということは、ほぼ間違いはありません。なぜなら、一般に、家族の名前を挙げる時は、その人にとって重要な人から、またはその家の最上位者から挙げます。ですから、上位者の兄弟姉妹と言うのは、弟か妹のことなのです。マルタの家の最上位者は、マルタです。そして、マルタの家には、妹マリアがいて、その下に弟ラザロがいることになります。
さて、ラザロの記事は、ヨハネによる福音書独自であることと、ラザロが生き返ったことに注目しましょう。ヨハネには、こんな記事があります。
ヨハネ『11:45 マリアのところに来て、イエスのなさったことを目撃したユダヤ人の多くは、イエスを信じた。』
ヨハネ『12:9 イエスがそこにおられるのを知って、ユダヤ人の大群衆がやって来た。それはイエスだけが目当てではなく、イエスが死者の中からよみがえらせたラザロを見るためでもあった。12:10 祭司長たちはラザロをも殺そうと謀った。12:11 多くのユダヤ人がラザロのことで離れて行って、イエスを信じるようになったからである。』
一方で、次女マリアですが、『11:2 このマリアは主に香油を塗り、髪の毛で主の足をぬぐった女である。』と説明がありました。香油は、オリーブオイルに香料を混ぜた物で、このとき使った香油は極めて貴重な物でした。それはヨハネによる福音書12章1節の記事にありますし、他の福音書にも、同様に香油を塗る記事があります。（マタイ26：6、マルコ14：3、ルカ7：36）それぞれの記事は、場所がベタニア村の重い皮膚病のシモンの家（マタイ、マルコ）、エルサレム近辺のファリサイ派の人シモンの家（ルカ）、ベタニア村のマルタの家と それぞれ異なります。また、イエス様に香油を注いだ女が、一人の女（マタイ、マルコ）、一人の罪深い女（ルカ）、マルタの妹マリア（ヨハネ）であります。さらにその時期が、イエス様が伝道を始めたころ（ルカ）であったり、十字架の出来事の直前（マタイ、マルコ、ヨハネ）だったりと、同一の出来事とは考えにくいです。それと、意外な事実があります。ユダヤ教では、死者を葬るときに遺体に香油を塗りますが、どの福音書にもその記事がありません。（たしかに、マルコとルカでは香油を用意したと書かれています。しかし、香油を塗るという葬りの支度は行われないまま、イエス様は復活しました。）実は、イエス様の葬りの準備はすでにおわっていたのです。その葬りの準備の様子は、高価な香油をイエス様に注いだ女性の記事にあります。この場面での香油は、イエス様がメシヤ（救い主）として、油を注がれることを象徴しています。そしてその香油注ぎで同時に、イエス様には、葬りの準備がなされました。その香油を注いだ女性の背景には、「この時を逃せば、葬りの準備をする機会がもうない」、そして、「今このときの最善を捧げよう」との思いがあります。彼女は、イエス様をメシア（救い主）だと信じ、イエス様が予告していた十字架にかかる準備をしたのです。・・・余談でありますが、この女性は、マグダラのマリアだとの「作られた伝承」がありますが、7つの悪霊を追い出してもらったマグダラのマリア（ルカ8：2）と罪深い一人の女が同一人物だとは言えません。同じように、シモンの家は、明らかにマルタの家ではありませんし、重い皮膚病のシモンと、ファリサイ派のシモンが同一人物だとは言えません。香油を注ぐ物語で、４つの福音書が共通に語っているのは、イエス様をメシアだと信じる一人の女性の信仰です。イエス様の十字架の死を前に、彼女の全財産とも言える香油を注いで、葬りの準備をしたとことであります。
ルカ（10：40）によりますと、ベタニアのマリアは、イエス様を先生として仰ぎ、イエス様の話を聞くのに熱心でした。一方で、長女のマルタは親の代わりのような働きをしています。彼女もイエス様のことを尊敬していて、イエス様のために できる限りの奉仕をしました。そんなマルタですが、イエス様につぶやきます。イエス様の話を聞いてばかりのマリアに、接客に忙しいマルタを手伝うよう言ってほしい と。そんな彼女をイエス様が優しくたしなめる。そういった記事がありますように、イエス様とこの姉妹は、先生と弟子の関係ながら、近い存在であったことが伺えます。また、イエス様はエルサレムにきた時、よくこの家に泊まっていたようです。彼女らにとってイエス様は先生であり、家族のような存在でした。そして、そんなイエス様の教えと、イエス様が起こす癒しの業に、この姉妹は誰よりも信頼していました。
マルタとマリアは愛する弟ラザロが病気で死にそうなので、ガリラヤに帰っているイエス様に助けを求めます。当時は民間人が使える郵便システムはありません。旅行者に手紙を託すか、使用人を出すしかないので、相当な時間と費用がかかります。それでも『11:3 姉妹たちはイエスのもとに人をやって、「主よ、あなたの愛しておられる者が病気なのです」と言わせた。』のです。
「ラザロが死にそうであるけれど、イエス様が来ればラザロは助かるだろう」との彼女らの信仰がそうさせた と思われます。ここで注目したいのは、姉妹が言った「あなたの愛しておられる」の愛は、兄弟愛、「それだからの愛」とも呼ばれる愛です。ギリシャ語でフィリアと呼ばれる愛です。これは友情と訳される、見返りを求める愛です。ですから、『11:5 イエスは、マルタとその姉妹とラザロを愛しておられた。』との 無償の愛とは、違う愛です。無償の愛とは、ギリシャ語でアガペーと呼ばれる愛ですが、これは神様の愛です。マルタたちの使った愛は、フィリアの愛でした。それは、イエス様への愛に対して見返りを求めるものです。見返りとは、物質的または精神的に助け合う関係、そして仲間としての共感です。
ところで、そのラザロの病気を知った時、イエス様はすぐにベタニアに行こうとはしませんでした。この時ラザロを愛するイエス様は、一体何を考えたのでしょうか？・・・
たぶん、その時点でラザロは死んでいたのです。イエス様はそのことを知ったうえで、２日間そこにとどまりました。そして「もう一度、ユダヤに行こう。」と言い出します。このころ、イエス様はエルサレムで殺されそうだったので、ガリラヤに逃げ戻っていました。それでも、エルサレムのすぐそばにあるベタニア村に行くことを決断します。もちろん身に危険がおよびます。だから、弟子たちは反対しました。しかし、イエス様はそれを選びました。姉妹とラザロを愛していたからです。
『11:9 イエスはお答えになった。「昼間は十二時間あるではないか。昼のうちに歩けば、つまずくことはない。この世の光を見ているからだ。』
このイエス様の言葉には、解説が必要です。直接書かれている言葉は、「昼間は12時間ある。夜になる前に歩けば、躓くことはない。」です。それは、「夜、すなわち十字架の時はまだ来ない。だから、今はつかまらない」と、イエス様は予告したのです。そして、イエス様は眠っているラザロを起こしに行くと宣言します。弟子たちは、「寝ているだけ・・・」と思ったのですが、イエス様は改めてこう言います。
『11:14 そこでイエスは、はっきりと言われた。「ラザロは死んだのだ。11:15 わたしがその場に居合わせなかったのは、あなたがたにとってよかった。あなたがたが信じるようになるためである。さあ、彼のところへ行こう。」』
このようにイエス様は、「ラザロを生き返らせる」と宣言したのです。
ところが、そのすぐ後に弟子のトマスが、妙なことを言います。
『11:16 すると、ディディモと呼ばれるトマスが、仲間の弟子たちに、「わたしたちも行って、一緒に死のうではないか」と言った。』
この部分は聖書学者の研究によると、後から挿入されたと言われています。トマス（ヘブル語で双子の意。ディディモは、ギリシャ語で双子）が言ったことはは、ベタニアに行っても何事も起こらないと言うイエス様の予告と真逆です。「わたしたちも行って、一緒に死のう」。一方で、「あなたがたが信じるようになるためにラザロを生き返らせる」とのイエス様の宣言に対しては、何も言いません。トマスは、イエス様がラザロを生き返らせるとの宣言を、信じなかったのです。トマスは、復活したイエス様に会うまで、頑なにイエス様の復活を信じなかった弟子です。このあと、トマスは、復活したラザロを見ました。また、十字架の出来事があり、そのすぐ後に、復活したイエス様の話を聞きました。それでも、トマスは「死んだ人の復活」を信じません。そしてようやく、復活したイエス様と会ったとき、トマスはイエス様の復活を信じたのです。このラザロの生き返りの業は、まさに将来、トマスが、そして私たちがイエス様を信じるようになるために、神様が計画したのだと 私は信じます。
そういえば、イエス様がラザロの病気を伝え聞いたとき、こんなことを言ったこと思い出します。
『11:4 イエスは、それを聞いて言われた。「この病気は死で終わるものではない。神の栄光のためである。神の子がそれによって栄光を受けるのである。」』
ラザロの病と死は神様の栄光のためである。つまり、「神の子である救い主がラザロを生き返らせたことを通して、人々に信仰をもたらす。」これは、「神の栄光」のためであると イエス様は言いました。この物語を読み進めますと、ラザロは４日間ほど死んでいましたが、その死んだラザロをイエス様が生き返らせます。この出来事を見た人々は、「イエス様は神の子である」と信じたのです。私たちもイエス・キリストが確かに死を乗り超えた方であることを信じます。このラザロの死と、生き返りは、「イエス様ご自身の十字架と復活という 救いのみわざ」の先駆けでもありました。ラザロのために、イエス様が来てくれた。それだけではありません。イエス様ご自身が十字架上で犠牲になる時。私たちも、その犠牲によって、罪と死から解放され、永遠の命にあずかるのです。この業にこそ、神様の完全な愛があります。「神の栄光」のため、神様の計画によって、私たちは死では終わらない永遠の命に与ったのです。私たちは、永遠の命をいただいて、イエス様と共にある人生を 喜んで歩いてまいりましょう。