1.ヘロデ、子供を皆殺しにする(2:13~15の参考記事)
メシアの誕生に不安を抱いたヘロデは、幼児を虐殺しました。マタイが引用したのは、エレミヤです。
エレミヤ『31:15 主はこう言われる。ラマで声が聞こえる/苦悩に満ちて嘆き、泣く声が。ラケルが息子たちのゆえに泣いている。彼女は慰めを拒む/息子たちはもういないのだから。』
この預言には続きがあります。
エレミヤ『31:16 主はこう言われる。泣きやむがよい。目から涙をぬぐいなさい。あなたの苦しみは報いられる、と主は言われる。息子たちは敵の国から帰って来る。31:17 あなたの未来には希望がある、と主は言われる。息子たちは自分の国に帰って来る。』
エレミヤの預言の前半(31:15)をマタイは引用しました。それは、同時に彼は後半の言葉(31:16-17)を思い起こすように誘導しているものです。エレミヤは語ります「泣きやむがよい。目から涙をぬぐいなさい。あなたの苦しみは報いられる」。ラマはイスラエルの民がバビロンに捕囚された時に、集合させられた場所です。子供たちが捕虜として敵地に連れて行かれる光景を見て、イスラエルの母たちは泣きました。その時、神様は言います「あなたが流したその涙は報われる。あなたの息子たちは帰って来る」。イエスはヘロデの陰謀から逃れましたが、残されたベツレヘムの息子たちは殺され、母親たちは涙を流しました。しかし、「その母親たちの涙は報われる」とマタイは告げているのです。
キリストの苦難はその誕生と共に始まりました。その苦難は十字架で完成されます。神様はイエス様を十字架につけるために、生まれたばかりのイエス様の命を助けた とマタイは語ります。
16節に『ヘロデは占星術の学者たちにだまされたと知って、大いに怒った。』とあります。
ヘロデ王は権力に執着し、後継者を指名しては 権力が移行するのを恐れ、後継者とその支援者を殺しました。つまり、ヘロデは自分がやるような権力闘争を 子供や身内そして家臣たちもやってしまうだろうとの疑心暗鬼から、後継者を殺すような人です。ユダヤ人の王が生まれたと言うならば、必ず殺すことになるでしょう。もちろん東方の学者たちは、ヘロデがそんなひどい人だとは知りません。そんなことは、想像できなかっただろうと思います。
そこで神様は、学者たちに、ヘロデのところへは戻るなと夢の中で告げました。(マタイ2:12)それで学者たちは、ヘロデのところへは戻らなかったのです。(マタイ2:12)イエス様を殺そうと思っていたヘロデは、怒ります。そこでヘロデは、次の手を打ちました。
「学者たちに確かめておいた時期に基づいて」(2:16)とあるように、ヘロデは、学者が星を見た時期を確かめていたし、ベツレヘムで生まれると聞きだしていたので、ベツレヘムとその付近の地方とにいる二歳以下の男の子を、ことごとく殺させました。
2.エジプトに避難する
神様は、ヘロデがしそうなことを予めすべてご存知でした。
神様は、先回りして、ヨセフに天使を遣わしました。天使は、ヨセフが寝ているときに夢によって、
『2:13~起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。』と告げたのです。
ヨセフは目を覚ましました。
『2:14 ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、2:15 ヘロデが死ぬまでそこにいた。』
このヘロデは、ヘロデ大王のこととされていますが、この記事は史実からは確認されていません。また、ほかの福音書にはない記事なので、イエス様が生まれながらのメシアであることをマタイは強調していると言えます。マタイによる福音書ができた当時は、マルコによる福音書しかありません。マルコの記事では、もの足りないと考えていたのでしょう。
マタイが引用したのは、ホセア書です。
ホセア『11:1 まだ幼かったイスラエルをわたしは愛した。エジプトから彼を呼び出し、わが子とした。』
これは、出エジプトの後の預言ですから、神の御子がエジプトから呼び出されるとの預言だと言うことです。出エジプトの以下の記事から、「呼び出したわが子とは、長子である」ことに注目しましょう。マタイは、福音書の中に、「預言が成就した」ことを何度も伝えようとしたと言えます。それは、神様のご計画であったことを主張することになります。
出『4:22 あなたはファラオに言うがよい。主はこう言われた。『イスラエルはわたしの子、わたしの長子である。4:23 わたしの子を去らせてわたしに仕えさせよと命じたのに、お前はそれを断った。それゆえ、わたしはお前の子、お前の長子を殺すであろう』と。」』