1.増えたヤコブの財産
伯父ラバンの息子たちがこんなことを言っているのをヤコブは耳にしました。
『ヤコブは我々の父のものを全部奪ってしまった。父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ』
ヤコブもまた、彼に対するラバンの態度が、以前とは違ってきていることに気がついています。
ヤコブ自身が『31:9 神はあなたたちのお父さんの家畜を取り上げて、わたしにお与えになったのだ。』とラケルとレアに言ったように、ラバンの財産は減って、ヤコブの財産が増えたのは事実の様です。また、その財産は、ヤコブが公正に得たものです。しかし、ヤコブの羊と山羊は増えますが、ラバンのものは減っていきますから、ラバンの息子たちが文句を言うのは当然です。 実際、ラバンがヤコブへの報酬を十回も変えたわけですから、ヤコブは不当に報酬を搾取されていたと言えるでしょう。しかし、ヤコブの策略によって財産が増えた事は確かです。また、神様が省みてくれたからヤコブが栄えたし、ラバンのやり方が姑息なので、神様がラバンを裁いたのです。
『31:7 わたしをだまして、わたしの報酬を十回も変えた。しかし、神はわたしに害を加えることをお許しにならなかった。』
このヤコブの言葉によると、何ら策略は無かったように聞こえます。また、神様はラバンがヤコブを直接害することを禁止しましたが、ラバンが報酬を十回も変えることは許していたわけです。つまり、神様が計画して、ヤコブはその計画を受け入れ、素直に神様に従い、ラバンにも従がっていたわけです。そういう意味で、ヤコブは命を守るための行動をしたのは確かでしょう。そして、神様のヤコブへの省みと、神様のラバンへの裁きが連動したのだと言えます。
『31:8 お父さんが、『ぶちのものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみなぶちのものを産むし、『縞のものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみな縞のものを産んだ。』
そもそも、ラバンが決めたとおりに従順に従っただけであり、その財産の差は神様が決めたことだと、ヤコブは、正論を言います。逆に言うと、この正当な言い分を言わせるために神様は、ヤコブの報酬を十回も変えることを許したのだと言えます。一方で、30章の記事によると、ヤコブにも策がありました。
2.あなたの故郷へ帰りなさい
『31:3 主はヤコブに言われた。 「あなたは、あなたの故郷である先祖の土地に帰りなさい。わたしはあなたと共にいる。」』
この命令を聞いたヤコブは、ラケルとレアに相談します。そして、ヤコブは神様に導かれて、いま故郷へ帰る決心をし、その理由を家族に説明しているわけです。神様の準備した20年は、脱出する理由として十分な期間でありました。
『31:11 そのとき、夢の中で神の御使いが、『ヤコブよ』と言われたので、『はい』と答えると、31:12 こう言われた。『目を上げて見なさい。雌山羊の群れとつがっている雄山羊はみな、縞とぶちとまだらのものだけだ。ラバンのあなたに対する仕打ちは、すべてわたしには分かっている。31:13 わたしはベテルの神である。かつてあなたは、そこに記念碑を立てて油を注ぎ、わたしに誓願を立てたではないか。さあ、今すぐこの土地を出て、あなたの故郷に帰りなさい。』」』
ヤコブは、伯父ラバンのために、泥沼の生活を20年過ごしました。彼をここから引き上げたのは、神様の声でした。ヤコブの20年を振り返ると、べテルで見た夢以来、神様は出てきません。神様は、表に出ずに、背後からヤコブを守っていて、ここにきて、「故郷に帰りなさい」と語ります。その故郷とは、民族の発祥地ではなく、生まれた場所でもなく、「ヤコブが夢をみたべテル(神の家)」のことです。つまり、「生まれた国、先祖の国に帰れ」との命令ではありません。神様の意向は、ヤコブが逃げる途中、神様と出会った「ベテル」であり、「アブラハムに約束した神の国・カナン」のことです。 神様は御自身を、「ベテルの神」と言いました。これは、「ベテルであなたと契約を結んだ神」(28:10~22)、だという意味です。
神様は、べテルで、
『28:15 見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない。」』と、ヤコブに約束しました。それをヤコブに思い出させるために、「ベテルの神」だと言いました。
さらに今、「ヤコブよ、私と交わした契約に立ち返れ」との趣旨で語り掛けます。神様はヤコブに、「神様の、みことばを聞き、応答した(石の柱に油を注いだ)その場所に戻って新しい人生をスタートせよ」と、全ての原点がこのべテルでの契約にあることを、ヤコブに示したのです。