伝承ではエフェソの使徒への手紙は、紀元62年ごろ、ローマで獄中にあった使徒パウロが小アジアのエフェソのキリスト者共同体にあてて書いたものです。
1.エフェソの共同体
第二回伝道旅行の時です。『使徒言行録』(18:19-21)には、パウロが3ヶ月ほどエフェソに滞在したことが書かれてます。パウロがエフェソにつくった共同体はアポロ、アキラ、プリスキラといった人々が引き継ぎました。そして翌年、パウロが第三回伝道旅行で、2度目にエフェソを訪ねたとき、小アジア西部の重要な共同体であると考え、「三年間」滞在しました。パウロはエフェソの共同体を重視し、パウロの仲間たちの熱心な働きによってこの共同体が発展した経緯があります。
2.挨拶
1~2節は、あいさつです。古代の手紙文は、最初に、差出人と受取人が書かれ、そしてあいさつのことばが来て、続いて、祈りのことばが入ります。それはしばしば、受取人の健康を願う祈りです。ここでは、パウロによる神様へのとりなしの祈りが記されています。つまり、そこにパウロの最大の関心事があったと言えます。
3.キリストによって満ち溢れる恵み
パウロは、『1:3~神は、わたしたちをキリストにおいて、天のあらゆる霊的な祝福で満たしてくださいました。』と言っています。
パウロはこの霊的祝福を幾つか紹介している。第一に、「選び」(1:4)です。原語における選びは、祝福を与えるために慎重に選んだとの意味があります。また、他の何かに影響されて選んだということではない、自由な選びであります。私たちが自由に神様を選んだように見えて、実は逆なのです。神様が神様の主権をもって、私たちを選んだということです。それは恵みでしかありません。
いつ選んでくださったかと言えば「天地創造のときから」です。これは遠くの昔からというニュアンスです。つまり、神様がおられたその時から、キリストにおいて選ばれていたのです。選びの目的は、『1:4~御自分の前で聖なる者、汚れのない者にしよう~』ということです。これは、キリストに似た者へと形造られることを意味します。キリストと似た者と変えられること、それが選びの目的だと言えます。また、選びの動機は「愛」です(4節)。私たちは無機質な選びによるのではなく、キリストの愛のうちに選ばれた。この事実を覚えたいです。
霊的祝福の第二は、「神の子」にしようとすること(5節)。これも選びの結果です。神の子という身分は、この世の王子の身分よりもはるかに高く、キリストと同格です。私たちは、自分はこの世の人たちと何ら変わりがないにもかかわらず、キリストと並ぶ高貴な身分を与えられ、神の子とされているのです。
霊的祝福の第三は、「罪の赦し」(7節)です。それはまず、キリストの「血による贖い」であります。「贖い」という言葉は、古代市場の売り買いにルーツがあります。それは代価によって、人を買い戻すという概念なのです。この手紙が執筆された1世紀当時、ローマ帝国は多くの奴隷の労働で支えられていました。奴隷が自由になるためには、代価が支払われなければなりません。キリストは私たちを罪の奴隷である身分から解放するために、代価を払ってくださいました。それは、ご自身の血でした。キリストが十字架で流した血は、ご自身のいのちを捧げたことを意味しています。ご自身を与え尽くしたということです。その「贖い」によって、私たちを罪と滅びから救い出してくださいました。
私たちのために払われたのは、キリストの血の代価。パウロはこの罪の赦しの恵みから、キリストにある救いの計画へと筆を進めます。「秘められた計画」(1:9)とは、昔おおわれていたが今そのベールを脱いだ、キリストによる救いの計画のことです。そこには、「天にあるものも地にあるものもキリストのもとに一つにまとめられる」(1:10)ことも含まれています。これは救いが完成した世界を意味してます。
霊的祝福の第四は、「約束されたものの相続者」(1:11)となることです。私たちはキリストにあって御国を受け継ぐ者とされた。だから、私たちには希望がある。御国の門は私たちに開かれているので、この世の艱難にも、絶望することはありません。
霊的祝福の第五は、「聖霊の証印」(1:13)です。「この聖霊は、わたしたちが御国を受け継ぐための保証であり、こうして、わたしたちは贖われて神のものとなり、神の栄光をたたえることになるのです。」(1:14)とある通りに、福音を信じ、キリストを信じた者には聖霊が与えられています。パウロはここで「御国を受け継ぐことの保証」にしぼって語っています。「保証」ということばは、完全な支払を保証することです。つまり、支払いが完了するまでの手付金。具体的に言えば、解約したら、契約によってかかった費用は手付金で賄われます。言ってみれば、解約費用を前払いしているわけです。そういう、契約上のリスクを負って手付金を払うことで、相手は安心して契約を履行する作業を進められるわけです。聖霊は、何を保証しているといえば、手付金ではなく全額の支払いで、御国の相続を保証しているのです。聖霊ご自身が「御国を受け継ぐ」証印です。「証印」とは、所有権を証明する印です。キリストを信じる者は聖霊の証印が押されているので、御国を受け継ぐことができます。それは聖霊によって保証されています。