9章1節は、明らかに8章の内容の一部です。
マルコ『8:34 それから、群衆を弟子たちと共に呼び寄せて言われた。「わたしの後に従いたい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。8:35 自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのため、また福音のために命を失う者は、それを救うのである。』の続きなのです。
それなのに、9章に入れこまれています。明らかな間違いだとか、以後の物語と関連しているとかの議論はあります。もしかして、ヨハネだけ殉教をしていませんから、そのことかもしれません。
1.証言
『 9:2 六日の後、イエスは、ただペトロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。イエスの姿が彼らの目の前で変わり、』
イエス様は、この3人だけを連れていき、高い山に登ります。山は、平地よりも天に近いわけですから、天を象徴していると言えるでしょう。ここでの景色は、私たちの目では見ることのできない霊的な世界だと思って下さい。そして、イエス様が変わりました。ここで使われている言葉が「メタモルフォゼ」(変態)と同じ意味のメタモルフォー(μεταμορφόω)です。
『9:3 服は真っ白に輝き、この世のどんなさらし職人の腕も及ばぬほど白くなった。9:4 エリヤがモーセと共に現れて、イエスと語り合っていた。』
これは、栄光を表す姿です。見たこともないような光でした。神様には、すべてのエネルギーがあります。すべての力、すべての知恵、知識、すべての正義、いつくしみなど、あらゆるものは神様から始まっています。それが栄光です。イエス様は、この栄光で輝いていたのです。そこに エリヤがモーセとともに現われています。二人とも、神様のみことばを語った人々のなかで、代表的な預言者です。モーセは、律法の代表であり、エリヤは預言者の代表です。(律法とは聖書の中では、モーセ5書のこと。また、預言者とは聖書の中では預言書のことを指します。)みことばは、この律法と預言者によって構成されていて、それが当時の聖書です。そして、この二人がイエス様とともに語り合っている事は、旧約聖書がイエス・キリストを「証」していることを意味します。そんな光景の中で、ペテロはてんぱっています。
『9:5 ペトロが口をはさんでイエスに言った。「先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」9:6 ペトロは、どう言えばよいのか、分からなかった。弟子たちは非常に恐れていたのである。』
イエス様とモーセ、そしてエリヤが語り合っている中に、ペトロは「わたしたち」を持ち出しました。この栄光に与りたいと言うことでしょうか? 栄光のしるしとして「わたしたち」は仮小屋を三つ建てたいとまで言います。つまり、神様の栄光よりも自分たちの存在を強調することしか思いつかなかったのです。
『9:7 すると、雲が現れて彼らを覆い、雲の中から声がした。「これはわたしの愛する子。これに聞け。」9:8 弟子たちは急いで辺りを見回したが、もはやだれも見えず、ただイエスだけが彼らと一緒におられた。』
次に現われたのは、神様ご自身です。そして、イエス様が神様のひとり子であることの宣言、そして、イエス様に従えとの命令です。 彼らが急いであたりを見回すと、自分たちといっしょにいるのはイエス様だけす。そこは、地上の景色に戻ったのです。
2.神の国
このようにイエス様は、神の国を弟子たちに見せました。そして、この出来事をだれにも話してはならないと命じます。
『9:11 そして、イエスに、「なぜ、律法学者は、まずエリヤが来るはずだと言っているのでしょうか」と尋ねた。9:12 イエスは言われた。「確かに、まずエリヤが来て、すべてを元どおりにする。それなら、人の子は苦しみを重ね、辱めを受けると聖書に書いてあるのはなぜか。9:13 しかし、言っておく。エリヤは来たが、彼について聖書に書いてあるように、人々は好きなようにあしらったのである。」』
弟子たちは、神の国を垣間見て、エリヤについて聞きました。そこでイエス様は、マラキ書の最後(3:23)には、主の日が来る前に、エリヤが前ぶれをすると預言されていることを教えます。また、キリストが苦しみを受けることも預言されています。(イザヤ53章)イエス様は、どちらも成就しなければならない と教えます。ここのエリヤは、バプテスマのヨハネのことです。ヨハネは、その容姿やメッセージなどエリヤと似ていました。というのも、ルカの福音書(1:17)によると、彼は、「エリヤの霊と力で主の前ぶれを」していたからです。エリヤ自身は、イエス様が再び来るときに、前ぶれとして来ます。おなじように、ヨハネは、イエス様が初めに来たときに、エリヤと同じ働きをしたのです。そして、ヘロデ・アンティパスによって首をはねられました。