第919回 2025年12月13日
野村芳太郎監督作品、エラリー・クイーン原作、新藤兼人脚本、芥川也寸志音楽、栗原小巻、片岡孝夫主演、松坂慶子、佐分利信、渡瀬恒彦、小川眞由美、竹下景子、神崎愛、蟇目良、乙羽信子共演、131分。
原作のおもしろさに引き込まれる映画である。トリックのある仕掛けを、限られた時間のなかで、どれだけ伝えられるかが見どころとなる。ストーリーを追うことは、映画ではなく文学の話になってしまうかもしれない。
山口県萩の旧家での殺人事件である。銀行家(唐沢光政)のもとに3人の娘がいた。長女(麗子)は父親から勘当され、家を出てスナックを開いている。父親の反対を押し切って結婚をしたが、男から捨てられていた。
次女(紀子)もまた結婚相手(藤村敏行)がいたが、父親が反対をして、気詰まりからか男は蒸発してしまっていた。3年前のことである。次女を主人公にして話は展開していく。
三女(恵子)は姉ふたりの失敗を見ながら、親に従順にしており、父親の眼鏡にかなった相手と結婚するつもりをしている。母親(すみ江)は柔和でワンマンな夫には、逆らわず、上手くかわしながら、娘たちに味方をしていた。
アメリカから親類の青年(ロバート・ボブ・フジクラ)がやってきて、居候として同居しはじめる。日本文化の研究で論文を書こうとしていて、日本語は片言だったが、三女と気があって、その後に起こる事件に、二人して首を突っ込んでいく。
長女から次女に電話がかかり、蒸発した男が戻って、ここに来ているのだという。主人公は会いに行こうとするが、事情を聞きつけると父親は反対する。黙って姿を消した男への不信感は、消えることなく根強いものがあった。
娘は押し切って会いにいき、愛を確かめあって、結婚の決意をして戻ってくる。父親には家出をしてでも結婚をするのだと訴えた。父親は折れて、結婚は許すが条件として、男は頭取をする父親の銀行(長門銀行)に勤め、身近に住むこととした。
盛大な結婚式が開かれ、新婚旅行ではヨーロッパに出かけ、ローマの休日を楽しんでいるという絵はがきも届いていた。平和な生活が始まったように見えた。屋敷の敷地内の新居に運び込んだ、男の書籍が重くて落としたとき、はさんであった3通の手紙が飛び出した。
主人公は中身を読んで驚き、顔が蒼白になった。手伝っていた三女と居候がその姿を見ていて、不信感をいだく。その後、気になって留守を狙って、姉の部屋から手紙を探した。
はさんであった書籍は見つけるが、折ってあったページにはヒ素の毒性についての記載があった。微量のヒ素を使うことで、徐々に死に至り、知られずに殺人が可能となる。
さらに探すと手紙は帽子箱のなかから見つかり、読むと1通目は妻の体調不良を、2通目はさらに悪化を、3通目は妻が死んだという記載があり、ともに妹にあてた手紙だった。日付をみると、もうすぐやってくる8月から9月のことになっていた。
不吉な予感をいだいたが、まさかと思いいたずらだとみなして元に戻した。そして1通目の日付の日がくると、主人公は急に体調を崩して倒れる。当然、夫に疑いがかかっていく。
夫の過去は謎めいていた。結婚式には誰も来なかった。北海道にいたというが、詳しいことは語っていない。妹(藤村智子)がいることはわかっていて、結婚後に訪ねてくる。なぜ結婚式に呼んでくれなかったのだと兄を責めている。
家族は引き留め、しばらく同居することになる。兄は迷惑そうに出ていくよう促すが、言うことを聞かない。自身を卑下しながらも、自分とはちがう生活環境をうらやみ、また楽しんでいる。
居候はカメラを手にまちなかの生活風景を写していた。夫が銀行を抜け出て質屋に入っていくのを見かけて不審に思う。銀行での勤務も評判はよくなく、父親にも伝わっていた。父親は思っていた通りの男だと結論づけることになる。
長女のスナックにも借金を申し出ていて、50万円が必要だという。主人公にも黙って出してくれと頼むことになる。理由を問いただすが明かさない。三女も心配をして、主人公に手紙を見つけたことを打ち明けるが、その内容よりも黙って部屋に入り込んだことを許そうとはしなかった。
2通目の手紙の通り、主人公の体調は悪化していく。ヒ素の混入を疑い、カップや飲料を検査に持ち込むが、検出されなかった。急に口を押さえて苦しみ、部屋に飛び込んだ主人公は内側から鍵をかけてしまう。
夫は驚いて力づくで扉を開くと、驚いたような表情を浮かべて、白い液体の入った小瓶を手にしていた。隠れて飲もうとしていたのか、主治医はそれがヒ素の毒素をなくす薬剤だと判断した。主人公の手にしていた飲料にはヒ素が検出されていた。
三女のフィアンセは公職に就くエリート(峰岸検事)だった。父親は彼に探偵となって、真相の調査を依頼する。この家には不審者などいない。一族から犯罪者を出してはならない。お前もこの家の人間になるのだからと、捜査に配慮を加えるよう暗に伝えた。
探偵が主人公を問い詰めるなかで、主人公は三女が手紙のことを、明かしたのだろうと言ってしまった。探偵は何のことだと追及することで、手紙の存在が知られてしまう。
主人公は夫の妹を怪しんでいた。ドアを急に開いたとき、二人が寄り添っていたことがあった。そのあと二人が抱きあう光景も目にしていた。そして3通目の手紙の日付である9月1日がきて、事件が起こる。
この日、心機一転を図って、父親が娘婿の誕生日を祝うパーティを企画した。大勢が集まるなかで、夫が作ったアルコールを手にした妻のグラスにヒ素が混入していた。酔った妹が割り込んできて、妻のグラスを取り込んで飲み干してしまった。
はじめ口にした妻が倒れるが、あとで飲み干した妹が死亡した。グラスはトレイに5個ほど載っていた。作ったのは夫であり、ほかの誰も手を触れていない。妻が取りやすいように一個だけ離していたという証言を得て、捜査員は夫に厳しい尋問を加えていく。
妹はまちがって飲んで、妻の代わりに死んでしまったというなら、犯人は夫だということになる。夫ははじめ否定していたが、やがて罪を受け入れるようになっていった。そんなとき夫の大学時代の後輩だという女性(大川美穂子)が現れる。
通信記者をしていたが、殺人のできるような人ではないと力説する。探偵となった三女のフィアンセに伝えると、刑務所での面会にも立ち会ってくれた。男はあきらめをつけたように、後輩にはそっけなく対していた。
三女もまた真相を知りたくて、北海道に行こうと居候を誘った。そこで男が女と暮らしていたことを知る。持参していた妹の写真を見せると、この女にまちがいはなかった。
女には母親がいることを聞くと会いにいく。女は男に惚れてまとわりついて、東京までついて行ったのだった。娘が死んだことを老いた母親に伝えるが、悲しむでもなかった。
居候が推理を働かせて、意外なことを言いはじめた。手紙に書かれた妻というのは、北海道でのこと、つまり妹と称していた女のことではなかったのか。まとわりつかれた女を殺害しようとして、北海道にいた頃に書いた手紙ではなかったかと言うのである。
そうすると妹が別にいることになるし、あらためて真犯人は誰かが問われていく。妹はまちがってグラスを飲み干したのではない。妹を憎んでいた者の犯行ではなかったか。
そして主人公が浮上してくる。手紙がすぐに見つかったのも、それを三女に見せようとしていたのかもしれない。手紙があることで、私たちは夫が妻を殺したのだと信じてしまっていた。手紙がなければ殺す理由などなかった。三女は信じたくはなかった。
夫だけではなく、妻もまた自分のグラスに、ヒ素を入れることができた。映像は彼女の首飾りから、そっとグラスにふりかける種明かしをしていた。主人公がヒ素を手に入れていたことも明らかにされた。
主人公は妊娠をしていた。急な変調はつわりを思わせるものでもあり、私たちは混乱してしまうことになる。錯乱状態のなかで出産するが、母体は心身が喪失して命を落とす。
生まれた娘は無事だった。夫に妻の死亡が伝えられ、弔いが許される。手錠をかけたまま、両脇を抱えられていた。妻の罪をかぶって自分が引き受ける覚悟を決めたようだった。
通信記者も車で駆けつけていた。車のエンジンをかけたまま出ていくと、男は随行員を振り切って、手錠のまま車に飛び乗って逃亡を図る。車は山道を登って、崖から海に転落してしまった。
女性記者は逃亡の手助けをしたように見えるが、探偵は彼女はたぶん男の妹なのだろうと言っている。刑務所に立ち会ったときに、兄と妹の無言の対話を感じ取っていたにちがいない、
探偵は真相を知るのは、自分と三女と居候だけであり、次女も夫も死んでしまったからには、真実は自分たちの心にしまっておこうと言う。さらに付け加えて銀行家の父親もまた、すべてを知っていたのではないかとも言った。
探偵は父親の命令に反発して、自分の使命は真実を追及することだと言っていたが、やはり家長の権力に屈したように見える。正義感のある好感の持てる人物であるが、財産家の令嬢との結婚は魅力的だっただろう。三女との関係が気になりながら、映画は終わった。