絵本作家 谷口智則展~いろがうまれるものがたり~

2022年07月09日~09月11日

ふくやま美術館


2022/08/28

 谷口智則の描く絵本世界は、原画展が絵本以上の味わいを伝えるものであることを伝えようとして開始されたようにみえる。原画にほどこされたマチエールがことにいい。動物を主人公にしていても、味わいはそれを取り巻く背後にある。背景を取り巻く空気感がいい。絵筆で描いているだけではなく、ナイフでこすったり、下地を浮き上がらせたり、さまざまな技法を駆使して、絵画としての自立をめざしているようにみえる。

 出発点では印刷にもかかることもない手描きの絵本だっただろうし、それは唯一無二のオリジナリティを誇るものとなっていたはずだ。幸運は金沢美術工芸大学の4年生にして出版の機会を得たことだった。たった一冊の絵本を描き続ける無垢の魂を経験しなかったことは幸いだったが、それも伝統的な日本画に縛られようとしない資質の勝利といえるだろう。

 魅力あるキャラクターを登場させないと絵本にはならない。しかしそれを生かすも殺すも、登場人物を取り巻く空気感にある。地に足がついているかどうかという話だ。季節感の描写がいい。春の桜や冬の雪は、日本画を学んだ日本の伝統的感性に裏打ちされたものだろう。四條畷に生まれ育った大阪人が北陸金沢の地で日本画の素材を前に格闘した成果とみることもできるかもしれない。


by Masaaki Kambara