第10回

I 氏賞受賞作家展

第10回 I 氏賞受賞作家展

2020年11月8日-12月20日

岡山県立美術館


 金孝妍、中原幸治、吉行鮎子、小林正秀の4人の作家のオムニバス展示であるが、場の共有を超えて響き合うインプロビゼーションを期待してしまうのは、「シュプール」という統一テーマが掲げられていたからかも知れない。もちろんすべての美術作品はシュプール(足跡)なのだが、これをインスタン(即席)と語呂合わせにすれば、即興のもたらす絶妙の一瞬が渡来するように見える。

 金孝妍の描いた巨大な満月を中原幸治の指先の陶彫が支えている。場の共有が見事に美術館で一期一会の邂逅を果たしている。その一瞬のあるかなきかの出会いを求めて、命なき美術が息を吹き返し、パフォーマンスと化すのだ。オムニバスとはそういうものだと思う。閉ざされた空間の裂け目を狙い撃ちするように、阿吽の呼吸が聞こえだすと、偶然のセレクションが意味を持ち出してくる。

 25歳でのはじめての海外旅行で、エッフェル塔を指先でもちあげる写真を撮ったことがあるが、それは今も私とエッフェル塔の存在証明になっている。


by Masaaki Kambara