美しい女性のみだしなみ 髪飾りと小道具展

2019年4月19日(金)~8月4日(日)

岡山・吉兆庵美術館


2019/6/27

 表向きは老舗の菓子店、裏は美術館という二重構造に、質素倹約が贅沢の極みを尽くす。江戸小紋がいい。目立たないところに目が向けられ、見過ごしてしまったところに、美の再発見が目指される。かんざしの先が耳かきになっているものがある。見えないところに贅を凝らすのは、裏地で見せる奥ゆかしさの表われでもあるが、実際は法の縛りを逃れるための生活の知恵だった。こうしたプラグマティズムの成果として、無数のかんざし櫛が生み出され、並べられる。江戸の美意識は幕府の締め付けのおかげだという点が面白い。

 かんざしを耳かきだと言い張るだけではない。実際に耳かきとしても機能するというならば、それは生活デザインの範疇に入ることになる。ただの棒切れを「孫の手」と名付けたと同様の豊かな発想に、高度な文化の香りを嗅ぎとることができる。そして裏地の加飾は、裏金の原理とも連動するのなら、腐敗や虚飾と隣り合わせにいることも確かだろう。贅沢を戒めるほどに、腐敗は限りを尽くしてもいたはずだ。そうした裏腹の見せる複雑な冴えを面白く見ることができた。

 常設展示は備前焼の重厚な系譜をたどる。伝統の名門が一堂に会すると、とりわけ出発点に位置する金重陶陽の輝きが一際目立つ。はじまりにして究極の地にまで達してしまったという気がする。土そのものにまで戻ってしまうには、写実を極めるという段階が不可避であったようで、指物のような細工の手業を身につけて、それを磨くのではなくて、断ち切ることによって、抽象の地平が開けたのだと思う。陶芸とは火の気まぐれにいかに付き合うことかという問いかけだったというのが、備前の作陶を見ていてよくわかる。


by Masaaki KAMBARA