中谷ミチコ その小さな宇宙に立つ人
2019年07月6日~09月29日
三重県立美術館 柳原義達記念館
2019/8/6
柳原の彫刻を取り巻くように中谷ミチコの平面作品が、自己主張を強めていく。控えめなのに驚くほどの突出感が際立っている。実際には突出しているわけではなく、陥没しているのだが、奇妙な実在感がある。古代エジプトの彫刻にバ・レリーフ(沈み浮彫)というのがあるが、平らなのに凹凸があって、正面からだけ見ていても、鑑賞にはならない。
壁面展示なので絵画という分類でいいが、柳原記念館でのコラボレーションとしては、競合することはない。柳原の彫刻は、申し訳程度に置かれていると言った方がいいのだが、かなめの位置にあって、敬意を表しているところがいい。これまで見飽きた感のあるブロンズ像に新たな息吹が注がれたようで、いい企画だと思う。メインの展示室には裸婦像と、それを見つめる子犬がいて、壁面を中谷の沈み浮彫が取り巻くという構成だ。広々とした空間に点在しているが、近づいて見ると味わい深く、繰り返される少女の顔立ちも魅力的だ。
奥まった小部屋には2点、彫刻家としての中谷が控えめに自己主張をしている。窓越しの借景に力を借りているところがあり、造形力だけでの対抗を避けたようにも見える。休憩室とも言っていい場所だが、魅力的なスペースだ。これと対照的なのが入口付近の前室で、自然光を避けて人工的な照明によっている。中央には柳原の五羽の「鴉」が歩き、壁面に中谷のカラスが群がる。水墨画とも異なった奇妙な質感をもった黒で、群像と単独像が対をなしている。書を思わせる荒々しい筆跡が効果的で、先のデリケートな少女像とは異なったものだ。この作品はこれまで何度か見た記憶がある。書きなぐりのように見えるが、妙に生々しい印象が残るものだった。生々しさという点では、今回の少女像とも共通している。