見るは触れる 日本の新進作家 vol.19 

2022年09月02日~12月11日

東京都写真美術館


2022/10/28

 新しいスタイルの写真を模索する若い写真家たち5人の仕事が紹介されていた。写真家という通念を大きく逸脱するものであり、映像作家あるいは写真を使った造形作家と呼ぶ方がふさわしいものも少なくない。写真美術館が19世紀美術館にとどまって博物館としての保存業務に徹するのもいいが、写真の枠を超えないとおもしろみは少ない。ヴィジュアル(目に見えるもの)という最低限の制約までも解消してしまう実験も、それが写真を意識したアンチテーゼだという限りは、この美術館のテリトリーとなるだろう。

 とりわけ多和田有希の仕事が目を引いた。波を写した写真が宙に浮いている。しかも波に沿って焼け跡だろうか穴が開けられていて、光が漏れる。その光が床面では木漏れ日となって変貌を遂げている。水が樹木に変容するおもしろさは、自然がもつ普遍性であると同時に、それをアートに応用した作家の力量でもある。紙が宙を舞い、波が浮遊して、海底に木漏れ日をつくるという世界観に、単独の写真展示では味わうことのできない広大な宇宙を感じ取ることができる。風を感じ、光を感じ、音を聞き取りことのできる魅力的な展示だった。海底に広がる光の世界を前にすると、写真はこの世界を演出するぺらぺらのひとつの小道具にすぎなかった。


by Masaaki Kambara