コレクション展1 それは知っている:形が精神になるとき

2023年4月8日(土) - 11月5日(日)

金沢21世紀美術館


2023/5/31

 オムニバスに集められた所蔵品展だが、魅力的なタイトルをつけている。ふつうは精神が形になるのが美術だが、ここでは裏返されている。「それは知っている」ではなくて「それを知っている」がふつうだろうから、これも逆転されている。つまりはへそ曲がりな美術を集めてみたということだ。

 その典型がコンセプチュアルアートの名で知られるジョゼフ・コスースだろうか。ここではネオンの広告表示のように、電光文字で意味不明なことばが浮かび上がっている。これをどう鑑賞すればよいか。わけがわからないので解説文にたよることになる。それを読んでいて気づいたことがある。ガラスに反射してネオンサインが映し出されているのだ。はっとした瞬間だった。作品でもないのに解説文のパネルにガラスを入れる必要はない。反射して読みにくいに決まっている。

 とりあえず写真に撮っておいて、あとでゆっくりと考えてみようと思った(写真参照)。作品と解説パネルをともに撮影した。帰宅後、それらを眺めていて、新たな発見があった。作品のネオン管は文字が書かれていたはずなのに、光り輝いているだけで読めない。何と書いてあったかを思い出そうとするのだが、忘れてしまっていた。解説文を読み直してみたときに、それがわかった。「北極グマとトラは一緒に戦うことはできない」と読めた。この2枚の写真と、その日みたオリジナルの記憶との三者の関係を考えることで、コスースの代表作に思いを馳せることになった。

 「椅子」の作品がある。三つの様態が並んでいる。ひとつは本物の椅子、もうひとつは写真に写された椅子、そして椅子を定義した辞書の切り抜きである。これをはじめて見たのは、画集でだったから、すべては写真なのだが、この三者を並べることで、言わんとすることはわかる。

 コスースのオリジナル体験は、豊田市美術館に行ったときだった。建築の壁面にへばりついているので、壁画といってもいい。壁画に著名人の名前が無秩序に並んでいる。ながらくそれが作品とは思わなかった。何回目かの訪問でキャプションを見つけ、それがコスースの作品だと知った。たぶんコスースという名を知ってからあとのことだ。ここでもなぜこんなことをしているのだという不可解がつきまとっている。

 オリジナルが絶対ではない。それを写真に撮ったものや、ことばで置き換えたものも、それと等価なのだ。オリジナルで読めた文字が写真では読めないというのが衝撃的だった。解説文の保護ガラスに映ったオリジナル作品では、文字がはっきり読めたというのが、もうひとつの衝撃だった。しかし鏡写しなのですぐには読めない。作品はどこにあるのかという問い直しが概念芸術の基本形なのだろうが、オリジナル体験はしっかりとあった。それが展示されていた小さな部屋や、目の高さよりも上であったこと、解説パネルの位置についても空間体験としては定着していた。


by Masaaki Kambara