橿尾正次さんの立体作品

コレクション―現代日本の美意識

2020年01月07日~03月15日

国立国際美術館


2020/1/15

 「現代日本の美意識」と題したコレクション展では大作が並び、日本文化のルーツを占う現代アートの思索が、浮き彫りにされていた。この中で懐かしい作品に出くわした。橿尾正次さんの立体作品である。分類からは彫刻と言ってもよいのだろうが、正確には紙の造形である。小さければ工芸品で、郷土玩具とも言えるだろうが、大きくて壁面をはうように四体が展示されている。

 それぞれにタイトルはもつが、鉄線を骨にして、和紙を張って柿渋を塗ったものである。ともに福井県が郷土の誇りとする素材だ。越前和紙へのこだわりは、今立での和紙を使った現代アートの活動がよく知られている。和紙は平面であり、通常は絵画や版画の支持体だが、上に字や絵を描くよりも素材としてのほうがおもしろいと考えた。もちろん平面のままで、素材のもつ肌ざわりを楽しんでもよいが、現代美術の思考は立体作品になることに気づいたということだ。

 今回並んでいたものは、すべて1964-5年の作品だが、その後たぶん分類に困ったのだろう。美術評論家の中原佑介さんが一連の橿尾作品を「立体紙」と名づけていた。音読みはせずに「たちがたし」と読んで、立つことのできない特徴を、独自性として見つけようともしていたようだ。壁面に沿って生命体が増殖し続けているようにみえる。もちろん地をはってもいいのだが、ともに立つことができない悲哀をともなって、腹ばいになっている点で共通している。

 展示風景を写真撮影できなかったが、目の高さにこだわらず壁に沿って増殖してゆくようで興味深い。四体の中には壁をはうのもいるが、へばりついているのもいる。壁面が生命線である美術館では、ボルダリングになってしまうが、美術館ばかりが美術の居場所ではない。最近刊行された「橿尾正次作品集」を見れば、そのことはよくわかる。そこでは美術館に諂うことをやめて、自然に回帰している。美術館は権力機構でもあって、そこにこだわる中では、自由な造形は誕生しないはずだ。


by Masaaki KAMBARA