第12回恵比寿映像祭 THE IMAGINATION OF TIME 時間を想像する

ベン・リヴァース「いま、ついに!」2019

/シングルチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション

2020年2月7日(金)−2月23日(日・祝)

東京都写真美術館

 展示型の映像は席について身構えて鑑賞するものとは異なる。多くが途中から入って途中で出る。文学ではなくて、美術鑑賞に近いものだとも言える。昔は映画館も入れ替え制ではなかった。やがて文学の楽しみ方を強要することで、苦行を課してきた。さらには日時まで指定して、舞台を見るような拘束力を発揮しはじめた。息を殺してトイレを我慢して、身体の不調のものにとっては、拷問のようなものとなった。

 映像を文学に支配されずに、美術に戻すこと。そのためには一瞬のきらめきにかけること、ストーリーテラーを返上することが必要になってくる。ベン・リヴァース「いま、ついに!」は、そんな映像だった。のちに解説を読むと、初めからだと40分かかるようだが、途中から入って途中で出た限りでは、「ナマケモノ」がずっと木にぶら下がったままだった。

 シングルチャンネルなので、画面としてはシンプルだが、寝そべるように、あちこちにソファが散らばっていて、ゴロンとして足を伸ばして身始める。何が起こるのかと思いながら見続けるが、ほとんど動かない。そのうちによく見ると、丸い目がうとうととしてきていることに気づく。暗い室内でこちらの目もうとうととしているのだが、眠ってしまうと木から落ちてしまうのではと気になり始める。足の爪だけでぶら下がっているので、ひとごとながら木が気ではない。眠りかけたかと思うと目が開く。最後に落ちるまでの映像作品なのかといつまでも立ち去れないまま見続ける。身体は依然として動かない。ナマケモノの生態は知らないが、馬が立ったまま眠るように、ぶら下がったまま眠るのだと結論をつけて立ち上がった。

 以前ビルから身を乗り出してロープを握っている人を写した映像作品があった。やはりずっと立ち去ることのできない映像だった。ドラマはないが見る者が勝手に物語を作っていく。映像のもつ暗示力だと思う。アンディウォーホルの眠りエンパイアステートビルなどの実験映像は、先駆的なものだったということだ。眠る人はいつかは目を覚ますし、高層ビルのネオンも朝になれば消えるはずだ。その一瞬を待ち続ける姿は、決定的瞬間に立ち会おうとしてきた写真術の芸術性を証明するものでもある。24時間の監視カメラがアートになる条件を、もう一度考えてみたいと思った。「時間を想像する」というメインテーマがここにもあった。


by Masaaki Kambara