あそびのじかん

2019年07月20日~10月20日

東京都現代美術館


2019/7/21

 現代アートを取り込んで、どこまで遊べるかという企画展である。子どもを連れたファミリーでの訪問が多く、これまでの観客層を一新した雰囲気が、はっきりとうかがえた。はじめの展示室はタンスを壁一面に天井まで敷き詰め、それをよじ登るという体験アートの企画である。ロッククライミングであるが、それをタンスに置き換えているのが、あっと驚くような視覚を生み出し、現代アートでのインスタレーションとなっている。タンスから何段かを引き出してよじ登り、親から叱られた記憶のある誰もの経験が下敷きにされているようだ。日常ありふれた家具を用いたという点が、現代アートとしてのアプローチとなっている。

 人のマスクで全面を覆いつくした壁も、インパクトのある光景だった。鑑賞者が好きに顔を作り上げていく。ヒゲをつけたり、メガネを描きこんだりして、一つとして同じ顔はない。会期のはじめだからまだ出来上がった顔は少ないが、毎日増殖していくことは確かで、どんな名作が誕生するか気にかかる。目の高さあたりまでが、まずは埋め尽くされるが、やがて手の届かないところまで広がっていくことだろう。無表情のマスクが、鑑賞者の手を借りて、表情豊かな人間社会に発展していくというのが興味深い。

 四面にことばの書かれた積み木を組み合わせて、魔法のことばを作り上げる遊びも面白い。たまたま出来上がった文章は呪文のように響く。私が目にした作者不詳のフレーズは「どんなに残業してもいい」「我慢できる」「終わりはない」と読める。わかったようでわからない謎めいことばは、呪文という名で、これまで命を得てきたものだ。改めてことばのもつパワーに気づくことになる。そしてその組み合わせが、理性を離れる時に、神がかりな超越性を生むのだと知る。ポジティブな意味の語を収集するという制作者の意図に、クリエイティブで前向きな世界観を感じ取る。逆にネガティブなフレーズばかりを持ち込むこともできるだろう。「あきらめない」を「あきらめる」に置き換えるだけで、人生観は逆転してしまうのだ。プレイヤーにとってことばはあらかじめ与えられたものでしかなく、自分で生む出すことはできず、それを選ぶしかないという点に、人間存在の不条理を体験する。

 巣箱めがけて紙飛行機を飛ばして、巣穴に入れようとという単純な遊びがある。ほとんどは巣箱には入らないので、飛行機は山のように積み重なっていく。一人一枚の紙が与えられるので、参加者の数は一目瞭然で、会期末にはうず高く一山を形成するだろう。

 ここでは展示企画中の4点のみを紹介したが、体験型現代アートの模索という実験的課題を、鑑賞者から遊離することなく、完成度を高めていこうとする姿勢は、示唆に富むものだった。公共の「現代美術館」が魅力的な施設になる出発点になればよいと思った。コンピュータゲームに明け暮れる子どもたちに、忘れてはならないアナログ的体感を取り戻させようという試みのようにも見えた。


by Masaaki KAMBARA