ヤコポ・バボーニ・スキリンジ展

2020年01月15日~02月16日

CHANEL NEXUS HALL

 作曲家のようだが、写真家でもある。すべての写真は裸体や顔だが、楽譜が描きこまれている。入れ墨と見ることは可能だが、顔にまで進出しており、これまで見たことのないイメージ世界を生み出していた。

 人体に楽譜を刻み込むという異様な心理は、コンポーザー独特のものかもしれない。紙上の楽譜だけでは満足できない作曲家の強い創作への執念は、身体に刻み込むことで完結するという思いからだろうか。もちろん洗い流せば消え去ってしまうはかない音の記述ではあるのだろうが、入れ墨との連想は、神との交感を思わせるほどに原始的だ。

 サディスティックな響きを伴いながら、身体の奏でる音響に耳を傾けることになる。ヒエロニムス・ボスの描いた音楽地獄には尻の上に楽譜が刻まれている。この「尻上の音楽」とも響き合い、闇の広がりが沈黙の音楽となって通奏低音を形づくっている。重層化した展示構成も魅力的で、鏡写しも加わって、虚構の広がりが、闇の無限を拡散していた。


By Masaaki Kambara