葛西薫展 NOSTALGIA

2023年05月31日~07月30日

京都dddギャラリー


2023/6/9

 ノスタルジアをキーワードにして、ポスターが並んでいる。何のポスターというわけでもないが、懐かしい気分になれるものだ。懐かしい気分になれば、それでポスターの意味はあり、役割ははたせる。あとは適当な余白に広告の主体となる文字を置けばよい。そんなふうに勝手に考えてみた。

 展示室に入ってまず目に入るのが、紙飛行機だが、誰もが折った経験のある形が、高速で風跡を残して突進している。シンプルなのに懐かしい。たいていは思うように飛ばずに、すぐに地に落ちてしまったはずだ。疾走するのは願望だが、願望はノスタルジアにとって最大の目的となるものだ。たいていは挫折に終わるノスタルジアの淡い絶望が、みごとに形をなした。

 ラフに描かれた線描の思い切りのよさがいい。グラフィックなのに染み込むような彩色のぼかしもいい。リズミカルに繰り返される身体運動の軌跡もいい。それぞれは別個の美の範疇に属するものだが、それをバランスよく配置している感覚がいい。その感覚の底流をなすのは「いさぎよさ」だと私は思う。

 たぶん思いっきり禿頭のオヤジをユーモラスに登場させた意表は、目を引くだけではない。こんな光景をみた記憶がよみがえる。それもまたノスタルジアだ。文字がそのまま絵になっている。「ノスタル爺さん」というオヤジの駄洒落が光る。クローバーを手にしている。四葉のクローバーをあしらった三つ葉の電柱がある。幸運にはひとつ足らない。展示室のまんなかに置かれるが、今回のチラシのイメージキャラクターでもあり、指標となるものだ。形がそのまま思いになっている。

 写真を使ったものもある。きっちりとした身なりの正社員ふうの男性が4人、ロンドを踊るようにパターンをなしている。スラブ舞曲に出てきそうな郷愁を誘う4体の姿勢がスナップとなっている。それぞれを結ぶ運動の軌跡は、見るほうの記憶にゆだねられるので、その解釈はさまざまだ。作者の葛西薫さんと私は同世代なので、たぶん同じダンスがイメージされているはずだ。受付の横には懐かしいファイターのシルエットが、大きく浮かび上がっていた。


by Masaaki Kambara