東慶寺特別展

鈴木大拙館

東慶寺特別展

2020年10月1日(木)~12月13日(日)

鈴木大拙館

 瞑想を造形する。谷口吉生の感性が際立っている。小さな空間がどれだけ心の中で豊かな広がりを獲得できるかが問われる。前回訪れたときは、雨の中だった。囲われた四方の雨の情景を前に、内面に向かうしかなかったが、その広がりも悪くはなかった。水面に落ちる雨音を聞きながら、四方からの響きの違いを楽しんだ。今回は晴天であり、池の向こうに広がる小道の情景を思い浮かべては、心を彼方に導いていく。囲まれた外壁に施された、ところどころのほころびが、豊かで神秘的な外からの視線を幽閉している。

 四方を水に囲まれた瞑想空間には、壁がない。耳をすませば雨音も風のそよぎも聞こえてくる。日本建築なら当然あかり障子があるはずで、それが開け放されたままの光景である。今はまだいいが冬はどんなに凍えるだろうかと思うと、永平寺の座禅修行にも似た厳しい自然との共生を思い浮かべる。

 今回は大拙の名を授けた東慶寺の特別展として訪れた。副題にはThe Moon in Waterとある。「水月」と書かれた大拙の軸が展示されている。水に映る月と読むことで、この庭の禅的夜景を思い浮かべることもできるが、仏教的境地からすれば、そんなロマンチックはむしろ廃して、曜日でいえば月と水の間に「火」を欠いていると見るほうが、壮大な宇宙論に宿したプラグマティックな思想にはふさわしい。そしてそれは即「金」に結びつくことを思えば、やがては土に戻り、日輪となって循環をなしてゆくのだ。

 水月観音は何を見ているのだろうか。水と月の間には燃え盛る火が見えたに違いない。 女たちのかなしくもおかしい縁切寺の情景を描いた「東慶寺花だより」という井上ひさしの小説を読んだことがある。


by Masaaki Kambara