開館40周年記念 生誕150年 山元春挙展

2022年07月16日~09月04日

笠岡市立竹喬美術館


2022・08・28

 ブルーとグリーンの中間あたりにある独特の明るい色調は、春挙のトレードマークのようにみえる。瀞峡であったり高千穂峡であったり、神秘を宿した水の色ではあるが、絵画は近寄りがたい神聖にではなくて、手に届きそうな柔らかな自然に包み込まれている。それは手付かずの神秘を手なずけた人智の所産とみることができる。

 山岳風景はこれまでの日本画や水墨画にはないリアリティを感じさせるものだが、この画家が愛した写真術に由来するものだという。それは人の目がとらえた自然という点で、俯瞰させたり神の視点で理想化する山水画の伝統を逸脱している。ときに富士山よりも高い木立も登場する。麓での生活風景がとらえた木立なのだが、これがなければどれほどみごとな富士図だったかと思ってしまう。そこでは横山大観が描こうとした孤高をさえぎる日常性の優位が感じ取れる。

 春挙はもちろんそびえ立つ富士の峰も描いている。近景が富士をさえぎることで、残念なまでのみごとな富士図だったという話である。それは画中画に描かれた古画の模写に驚嘆する、秘められた画力の冴えに似ている。あるいは遠望に置かれた北斎の富嶽三十六景を引き合いに出してもいいが、北斎ほどに作為的ではない。三歳年長の大観が英雄視した富士の勇姿を否定したもののように見える。木立が富士山よりも少し高いという点に注目するべきだろう。これと対応させて富士山のほうが少し高いという別ヴァージョンが会場には並んでいた。


by Masaaki Kambara