マルタ・クロノフスカ 不思議ないきもの

2019年04月27日~09月23日

富山市ガラス美術館


2019/7/18

 柔らかな毛をもつ動物が、色ガラスによって誕生している。中でも犬が多いが、出典は絵画に登場する犬の描写にある。そっくりなポーズで立体表現がなされている。ゴヤの絵の中には、何気なくこうした子犬が挿入されていたのだと、改めて知ることにもなる。ガラスの断片を貼り付けて、よくぞここまで動物の毛の柔らかさが表現できるものだと感心する。

 近づくと色ガラスの断片は、破片というほうがよく、もちろん危険を避けて先端は尖ってはいないが、ガラスのもつ独特の凶暴性を宿してはいる。つまりペットの毛並みとは対極にあるもので、それをあえて素材として用いたところに、キッチュとも言えるこの作家の独自性があるようだ。ふつうに造形すればヤマアラシかハリネズミにしかならないはずだ。

 毛並みが光を受けて柔らかく輝くことがあるのを、私たちは知っている。それは視覚効果であって、映像表現が実現する領域に属する。競走馬は栗毛を輝かせて速度の美を完成させる。猫ばかりを撮り続ける写真家がいる。映像で実現可能なイメージメーキングを、造形に託した場合、磁器のもつ柔らかな素材感を武器にしてきた歴史はある。ここではそれに代わってガラスの先端性を活かせないかという実験があるようだ。

 マイセン磁器のもつ柔らかな動物表現と比較すると、ここでは撫でてみたくなるような毛並みとは異なっている。動物には光を浴びて神々しく光り輝く瞬間があり、馬にしても犬にしても、それは命をみなぎらせて立ち向かう時に見せる一瞬の真実だ。作者はこの生命感を実現しようとしているように見える。それは動物のもつ本能的な獣性と言ってもよく、子犬にさえも隠し持たれているものだ。人間には失われた命の輝きを、ガラスという素材は見事に語りはじめている。入り口で待ち受ける子犬の毛並みは、確かに柔らかく輝いて、キラキラとした表情で、毛並みを逆立てながら私たちの訪れを待ち受けていた。


by Masaaki KAMBARA