しなやかな闘い、ポーランド女性作家と映像

2019年8月14日(水)~10月14日(月・祝)

東京都写真美術館


2019/9/27

 ポーランドの映画や演劇には定評がある。もちろんハリウッド映画とは無縁のものだ。女性作家がどんな映像を作ってきたのかが、今回のテーマとなっている。映像の本質を見極める確かな目は、レジスタンスのやまない国で、必須のアイテムとして映像が武器になることを伝えている。なじみのない作家名が続くのだが、それぞれが毒を含んでいて、ある意味でのカルチャーショックが、これまでの常識を打ちのめしてくれる。ぬるま湯につかる土壌のなかで、芯のある女性兵士の姿を見た思いがした。

 そんなに広くはない展示室だが、映像の見せ方には工夫を凝らしていて、充実したディスプレイにも感心した。チケット売り場で、全部見れば5時間近くかかりますよという脅し文句の案内があった。展覧会の常識的な標準時間を大きく超えているが、それは取り上げられた作家名の多さと、映像という特性から仕方ないものではあるが、企画者の意欲とパワーが、ひしひしと伝わってくる。そしてそれらがまるごとポーランドと女性作家と映像というキーワードを飲み込んでゆく。

 テレビ画面を映し出したフィルムがある。女性の仮面をつけた兵士が、銃を乱射している。屈強な男に挑む女性ボクサーがいる。芋の皮をむき続ける女性がいる。ビルの屋上で髪の毛を引っ張られて今にも落下しそうな女性がいる。ブラウン管テレビには、アイマスクをした女性の叫びが映し出されている。大量の古着がベルトコンベアで運ばれている。足を投げ出して寝そべってみる映像もあれば、立ったまま高い上映位置を見上げる作品もある。美人コンテストに出場する映像作家には、見世物としてのショービジネスを逆手にとって、闘いを仕掛ける腕っ節の強さが、魅惑的な表情の奥には潜んでいる。しなやかな闘いという展覧会名は、まさにその通りだと納得した。

 旅行者でなければ5時間かけたい思いをあとに、充実したワンコインを楽しんだ。刺激的な映像実験の場に立ち会うことができた。旅行計画を立てる時、ついつい入場料で判断してしまいがちだが、本当に良いものは無料の中にあるような気がする。金額に値しないものが随分とあるからだ。今回で言えばバスキア展は、無理やり音声ガイドを含めた金額設定となっていた。見ごたえはあったが、美術鑑賞も二千円台に突入したようである。


by Masaaki KAMBARA