昭和のモダンガール展

2023年03月02日~06月30日

細辻伊兵衛美術館


2023/6/10

 日本手ぬぐいという実用性に支えられて、生き残り続けた絵画が、再生して新しい生命を吹き返す。布の上に乗っかっているという限りでは、油彩画と大差はない。折りたたんでどこにでも持って行ける点では、油彩画よりも優れている。またたくまに図柄は伝播していく。かつて版画がコミュニケーションのツールであったように、手ぬぐいも時代に密着しながら、大衆性を獲得する。しかし浮世絵のように見るためだけのものではなかったために、普及の割にはアートのメディアとみなされることはなかった。そのために見本が保存のために残され、それが今になって日の目を見た。

 手ぬぐいとしての機能は、長い技術の伝承のおかげで、改良され高度に利便性が追求されて、完成されてきた。デザインとしての遊び心が時代のニーズをキャッチして定着する。モガやモボといった当時先端のファッションが取り入れられる一方で浮世絵の立ち姿美人が踏襲される。デザイナーとしては夢二をお手本にして、その様式がアレンジされて広がりをみせる。夢二の店、港屋に並んだハンカチなどを思い浮かべながら、昭和のはじまりからたどってゆける正統派の系図がある。

 しかしここでは横浜などのハイカラな港町よりも、京都に息づいた町衆の感覚が、江戸文化の後続を断ち切ろうとして、優位を主張しているようだ。14代という当主の使命感が伝わってくる。倉の中を探れば山ほどサンプル帳が出てくるような安定感がそこにはある。一代限りの夢二式美人も魅力ではあるが、流行に流されてすたれることのない確実な生活感が、生活感情を高みから客観的にながめて、余裕がある。多様性は縦長構図から横長に移されても、モチーフは人物でも風景でも違和感なく組み込まれて、絵画にはないワイド画面を形成している点では、より現代的でもある。抽象絵画の世界にも対応するが、具体的なイメージよりも抽象化された文様が、染色工芸の王道だろう。雨露をアレンジした手ぬぐいがいい。雨粒なのだろうが、そう見立てなくてもいい。ここでの展示では瓦屋根の紋様になった手ぬぐいとのインスタレーションを見せていたが、6月の梅雨空と対応して効果的な見せものとなっている。


by Masaaki Kambara