シシー三部作

第121回 2023年3月7日

プリンセスシシー1955

 シシーの愛称で呼ばれるオーストリアのエリザベートのことが知りたいのと、若き日のロミーシュナイダーに会いたくてみた映画であるが、物語ではなく史実だという点で、フィクションをこえる充実感を味わうことができた。王子に愛された少女は童話の世界では、いつの日か現れる白馬の騎士を夢みて絵になるが、美男美女であることを前提に神話化されていくものだ。

 長女のネネーと妹のシシーという対比があるが、ともに美女、母は姉を、父は妹を溺愛している。エリザベートといえば史実だが、シシーというと童話になる。父と母も対比をなす。母は権力志向で姉をオーストリア皇后にしようと画策している。父は権力には無関心で子どもたちを自然人として育てている。母が姉妹を連れて晩餐会に出向き、そこで姉を皇帝陛下に引き合わせ婚約者にとたくらんで、姉である大公母には話をつけていた。これまで母親のいいなりになってきた陛下だが、結婚相手は自分で決めると考えている。妹はセレモニーを嫌って部屋から逃げ出て、魚釣りを楽しんでいた。投げ込もうとした釣り針が、通りかかった陛下に引っかかってしまった。一目惚れをした若き陛下が尋ねた。何か釣れましたか。いいえ何にも、でもあなたが。

 晩餐会が始まり、この娘が母から薦められた婚約者の妹であることを知り驚く。親戚だから幼い頃の記憶はあったはずだ。娘は姉のことを思うと、身を引こうとするが、果たせなかった。姉とはしばらくはわだかまりが続いたが、姉にも結婚相手が見つかると、またもとの仲良しの姉妹にもどった。


第122回 2023年3月8日

若き皇后シシー1956

 オーストリア皇后になってからのエリザベートが、その後領土を拡大し、あわせてハンガリー皇后にもなるまでの栄光の日々をつづる。オーストリアに嫁いでからも、義理の母親との仲はしっくりいかない。ことに子どもが生まれてからの、育てかたをめぐる考え方のちがいは、どこの家庭にもあるトラブルに見舞われる。しきたりや格式を重んじる皇室ならなおさらのことで、父親のもとバイエルンの自然のふところで育った郷愁が去ることはない。嫁いだふたりの姉妹の下に今も弟と妹が6人もいて、父のもとでのびのびと快活に育っている。ウィーンの宮廷からみると、実家の父親は田舎者だとみくびられている。

 オーストリアにも都会だけでなく自然にもめぐまれ、夫とチロルに旅立つことで、いくぶんか気持ちはほぐれるが、姑と顔を突き合わせると、またもや憂うつになる。ハンガリー使節団の対応をめぐり対立が激化するが、ハンガリーの人々にエリザベートの信頼は絶大なものがあり、義母も折れざるを得なかった。母と嫁の間に立って、皇帝の姿は痛々しくもあった。母親のもとで尻に敷かれて小さくなっていた義理の父は、耳が遠くて聞こえないふりをして、いつも部外者でいたが、ときおりエリザベートに声をかけ、よき理解者となった。

第123回 2023年3月9日

シシー ある皇后の運命の歳月1957

 舞台はハンガリーから、さらにイタリアへと移動する。ハンガリーに長期滞在をして、ウィーンの宮廷にいる皇帝と大公母をやきもきさせるのも、都会の喧騒を嫌った素朴な自然主義からきたことだった。ハンガリーの若い伯爵との噂を立てられ、伯爵から告白もされ、いたたまれずにウィーンに戻る。

 夫の皇帝は優しく受け入れるが、病いを得ており、結核と判明。転地療養となりポルトガルからギリシャへと場を移す。シシーをみかぎり、姉が結婚に至らず独り身であったことから、あとの画策もされていた。ギリシャの自然に触れて、シシーは奇跡的に回復する。皇帝が迎えに出向き、イタリアを経由してオーストリアまで戻る計画が立てられる。イタリアでのオーストリアへの反発を回避しようとする思惑があった。皇帝夫妻は歓迎されることはなく、ミラノでもヴェネツィアでも不快な思いを募らせたが、シシーは謙虚に対応し、オーストリア帝国には反発しても、皇后万歳の声も聞こえることになった。オペラを鑑賞する場面が出てくるが、イタリアとオーストリアの一騎打ちにもみえてクラシックファンにはおもしろく目に映った。皇后は晩年イタリア人のアナキストにより暗殺されるが、映画ではそこまでは追わず、栄光の内に幕を閉じた。

 シシーの弟のひとりが女優と結婚するというので、一騒ぎとなるが、皇室が芸能界と近しいのは今も昔も変わらないようだ。グレースケリーやローマの休日が重なって見えてきた。ロミーシュナイダーも皇室から見染められてもよかったのだろうが、その前にアランドロンにつかまってしまった。「太陽が知っている」で魅力的な人妻を演じたが、43歳で没。皇室に入っていたなら、美化され神話化されて語られていたことだろう。