第535回 2024年8月5日
フランコ・ゼフィレッリ監督作品、ウィリアム・シェイクスピア原作、イギリス・イタリア合作映画、原題はRomeo and Juliet、レナード・ホワイティング、オリビア・ハッセー主演、ニーノ・ロータ音楽、アカデミー賞撮影賞・衣装デザイン賞受賞。イタリアのベローナを舞台として、いがみ合う二つの家族の若い男女が、愛しあったことから起こる悲劇。さすがにシェイクスピアだという、じつにうまくつくられた話なのに感心する。イタリア人なのに英語をしゃべっているのに違和感がないのは、シェイクスピアを原作とするからだろう。
ロミオはモンタギュー家のひとり息子、ジュリエットはキャピュレット家のひとり娘である。はじまりは町の中心にある広場で、両家の若者たちがぶつかり合うところからである。ジュリエットを妹のように愛している従兄(ティボルト)をリーダーとしたグループと、ロミオの兄貴格(マキューシオ)にあたる数人が争い合う。収拾がつかなくなると大公の警備兵がやってきて仲裁に入るが、これまでに何度も続く抗争にうんざりしている。
ロミオは争いを嫌いその場にはいなかった。もの思いに耽っていて、恋人ができないという、世間離れのした悩みを仲間に打ち明けていた。抗争で傷ついた仲間を見ながら、顔を歪ませている。ひとり娘のジュリエットはまだ14歳だが、両親は早めに結婚をさせようと思っている。伯爵(パリス)からの申し出があり、生まれたときからそばにいて、信頼感を得ている乳母を通じて、娘をその気にさせようと思いを巡らせていた。
ジュリエットの両親が主催をして舞踏会を開催すると、ロミオが仲間たちと変装して参加する。仮面をつけていたが、ふたりは引かれあい、たがいが誰であるかも知らないまま運命の出会いをはたす。従兄はそれを目にとめて敵が混じっていることを忠言するが、主催者は会が台無しになるのを恐れて、めくじらを立てないように言い聞かせた。娘は乳母に出会った男の名を聞くように頼むが、誰も知らず従兄が敵の息子だと言いその名を教えた。ロミオもこの家のひとり娘だと知ることで運命のいたずらだと覚悟した。
仲間は引き上げたが、ロミオは残り、屋敷のバルコニーに娘がもの思いにふけっているのを目にとめる。ひとりごとのように繰り返しつふやいていたのは、覚えたばかりの自分の名前だった。「ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」という問いかけには、愛してはならない男と出会ってしまった悲劇を予感させるものがある。名乗りを上げると、娘は聞かれてしまったという恥じらいと驚きが、喜びに変わった。
見つかれば殺されるかもしれない危機感を抱きながらかけのぼると、二人の情熱は高まった。遠くからは娘を呼ぶ声も聞こえる。去ろうとしては呼び止められて、繰り返し昇り降りをする姿があった。次の日の時間を指定して約束するが、性急にも教会での結婚まで持ちだしてくる。ふたりの結婚が、両家のいがみ合いを解消させるものとなるかもしれないという、淡い希望もあっただろう。
思うようにはことは運ばなかった。娘の使いとして乳母が訪れたときには、ロメオの仲間たちが、その容姿をあざけり、もの笑いにしている。広場での衝突が再発すると、剣を抜いて決闘に至る。ロミオにとっては信頼のおける仲間と愛する娘の従兄だった。ロミオが間に入って止めたとき、その一瞬を突いて剣が突き刺されていた。親友は強がりを示していたが絶命すると、ロミオは怒りを爆発させ、追いかけて決闘をいどむ。勢いが勝ってロミオは勝利するが、殺人者となってしまった。捕まれば処刑されることから、逃亡せざるを得ない。大公の恩情は証言を聞き分けて、死罪は命じず追放の処分を言い渡していた。ロミオはジュリエットと離れるなら、いっそここで殺してくれとさえ願った。
ジュリエットは兄のような存在であった従兄を失い、愛する男は殺人者として追われた。両親は早めに嫁がせようと、伯爵の申し出を受けて、2日後の木曜日に結婚をさせようと急いだ。味方をしてくれていた乳母までも、伯爵と結婚するよううながした。娘はかたくなに拒み、教会に向かい神父(ロレンス)に相談する。理解を示し、秘密裏にふたりを結婚に導いてくれた恩人だった。そこには親の勧める結婚相手も式の打ち合わせに訪れていて顔を合わす。神父はこの重婚のすべてを飲み込んていたが、男は事情を知らずに木曜日にはと言いおいて去っていった。
神父が思案して解決法として持ちだしたのは、42時間の仮死状態が続くという薬草だった。今日は火曜日なので寝る前にこれを飲むと、水曜日には死の状態にあり、木曜日の結婚が避けられるというものだった。目覚めたときに追放された地に逃げる手はずで、神父はロミオに事情を知らせる手紙を書いた。水曜日の朝、死体が確認され、葬列を見届けると、主人に知らせに馬を走らせる若者がいた。ジュリエットの動きを逐一知らせるように命じられていた下僕だった。ロバでゆっくりと歩いて手紙を届ける使者を、追い越して知らせると、ロミオはその足で馬を走らせた。そのときにもロバとすれちがっていた。
一族の埋葬された霊廟にたどり着くと、下僕に暇を言い渡した。ジュリエットは死んでいた。隣には従兄も横たえられていた。ロミオは絶望して、隣の死者にも詫びを入れて、持参した毒薬を飲み干した。時間にあわせて神父がくると、ロミオの下僕が呆然としていて、不吉な予感を読み取った。見るとロミオの死体があった。カメラは手を大写しにすると、かすかに動きまだ息があるのかと思わせたが、それはジュリエットの指だった。目覚めるとかたわらでロミオが死んでいた。神父はことの次第に恐怖し、娘を連れて逃げようとするが、拒まれひとりで立ち去った。
ジュリエットがひとりで生き延びることはできなかった。瓶を口にするが毒薬は残っていなかった。ロミオの口から直接毒を吸い取ろうともした。それも果たせずロミオの携帯していた短剣を見つけ、自身の胸を刺して愛する男に寄り添った。二人の死がいがみ合ってきた両家を和解させ、二人の葬列が一つのものとなって行われている。両家はともに直系の血筋を絶やしてしまった。大公も両家を前に、自身の力のなさを嘆いていた。
みずみずしくさわやかな主演のふたりの演技が光る。一瞬ではあるが、盛り上がりのあるロミオの尻とジュリエットの胸があからさまに、映し出されたときは驚いた。ともにまだ10代半ばだったことから、当時は論議を呼んだものだったが、今となればイタリア作曲家の抒情的な主旋律とともに、目に焼き付く美しくもはかない肢体だった。
最初で最後の一夜のちぎりを描くのに不可欠な演出だったのだろう。とどまれば捕まって処刑、眠っていたのは女の寝室だった。乳母は気づいていて、防波堤になっていたはずだ。ベッドで朝の訪れを聞きながら、まどろみは鳥の声がヒバリかナイチンゲールかわからない。睡魔が性欲以上に若者の特権だったことを思わせる。愛しあっていても人はいつのまにか眠ってしまうものなのだ。