桃源郷通行許可証

2022年10月22日(土)~2023年1月29日(日)

埼玉県立近代美術館


2022/10/29

 庭園美術館での旅をテーマにした展覧会とともに、何を見せてくれるのかが興味深い企画だった。館蔵品と現代作家の抱き合わせで見せようという近年の流行をさらに絞って、テーマに「桃源郷」を掲げた。中国の山水画をはじめ、西洋では楽園を夢想するイメージの系譜があり、汎用性のあるものだろう。現代作家の新しい仕事を知るよい機会であり、それらが美術の伝統にうまくフィットして、美術史の系譜をつづれるかが問われる。

 選ばれたなかでは、松井智惠の試みがこの企画に最もフィットしていたように思う。ポスターにも使われた小鳥は、桃源郷へのまなざしを伝えるようで、どんな鳥であっても顔をあげて鳴くのは、実ははるか彼方のユートピアに向けてのメッセージではなかったかとさえ思えた。油彩画ではあるが東洋風のメルヘンを語るもので、ここでは橋本関雪の軸をはさみ込んで、展示されている。床には崑崙山か須弥山を思わせる高山が大海原に浮かんでいる。

 小鳥が空を見上げるとき、獲物をしとめようとしているようには見えない。自分よりも大きな存在に畏怖するか、あるいははるかかなたにある楽園を夢見ているかだろう。それは人のしぐさにも似て、存在の孤独と生命の喜びを伝えるものだ。ただの何気ない一瞬にすぎないが、それをとどめようとした画家の力量を感じる。それは古今の花鳥画がめざしてきたものだっただろう。


by Masaaki Kambara