特集 初期伊万里の粋—染付から初期色絵まで

2023年5月16日(火) ~ 8月20日(日)

東京国立博物館


2023/06/27

 特別展も開催されていたが、今日は常設展示を楽しんだ。いつも特別展にあわせて来るので、素通りするのが常だったが、今回はしゃぶりつくしたという感じである。日本を代表するミュージアムなので、外国人もまずはじめに訪れるところだ。はじめてルーヴル美術館やウフィツィ美術館を訪れたときの感動がよみがえる。国が威信をかけているものだから、それなりのものはある。本館を見るだけで精一杯で、東洋館も、法隆寺や黒田清輝もみそこねてしまった。

 特集展示では古伊万里の味わいを楽しんだ。佐賀にいたときに飽きるほど見ていたが、久しぶりに対面すると懐かしいだけではなく、ツチモノを見慣れてしまった日本のワビサビの精神には、新鮮に目に映る美意識である。旅行者としてばたばたと見てまわる、これまでのスタイルを捨てて、じっくりと対面してみたい気になっている。それでも旅行者には違いはないので、何でも見てやろうというあさましさが先に立ってしまう。茶碗の味わいなどは、こんな見方では何もわからないはずだ。

 心を落ち着かせてお茶をただ飲むのではなく、味わうようにして対面すること。光悦や乾山やといってわかったようになっている前に、すべてを捨てて、無になってモノと接する。一体化するといってもいいか。大蔵ざらえのような国宝展を、昨年は見落とした。そんな鳴り物入りの話題ではなくて、日常のたたずまいに沈潜することを、常設展示は教えてくれる。コロナ禍で気づいた自己回帰は、各地で広がりをみせているようだ。それは私のなかでも起こっていたということだろう。充実した常設展示を見つけだす喜びに、美術鑑賞のはじまりではそうだったように、再び立ち返った気がした。


by Masaaki Kambara