胡蝶之夢 マツオヒロミ展

2019年07月26日~09月16日

新見美術館


2019/8/30

 もちろん大正ロマンの時代など、私も知らないのだが、この雰囲気は誰もが世代を超えて共有できるものに違いない。赤色エレジーという昭和レトロな歌謡曲が流行ったことがあった。そんなものを知っているのは、今はすでに高齢者なのだが、その頃でも古き良き時代の郷愁と受け止められていた。まだ巷で女性の和服が大勢を占めていた頃まで遡らないと、当事者には出会えないはずだ。マツオヒロミの世界では、女性はみごとに和服を着こなしている。しかし顔立ちはすべて平成生まれの娘である。違和感を伴いながらも、この豊穣なイメージ世界が、世代間の断絶を是正できるアイテムになるように思う。

 「百貨店ワルツ」というヒット作を支えたのは、杉浦非水の三越のポスターだろう。百貨店が毎年のように消えていく現在、その郷愁だけは健在である。休みの日に百貨店に行く華やいだ日常生活の平和を、私たちの世代は、幼心に記憶している。それは最上階の大食堂でもいいし、屋上の遊園地でもいい。子どもはおもちゃ売り場に置き去りにされて、母親は婦人服売り場に向かっている。ルーチン化したお決まりのパターンだが、そんな日々がずっと続けばいいと思っていた。たいていはいつのまにか親については行かなくなってしまうのだが、引き戻せない年齢になってみると、懐かしくも思うのである。


by Masaaki KAMBARA