第878回 2025年10月23日 
 佐藤純彌監督作品、森村誠一原作、高倉健主演、夏木勲、中野良子、薬師丸ひろ子共演、143分。
 自衛隊の機密をまことしやかに、暴露するような内容にまず驚く。フィクションと思いながらも、実際にありうる話として、興味深く鑑賞した。陸上自衛隊の知られざる組織である、特殊工作隊の紹介からスタートする。実際にあったとしても、ないものとして記録にも歴史にも登場しない。
 大使家族を人質にとって、総理大臣との交渉を要求する過激派を壊滅しようと、立ちこもった山荘に、隊員が送り込まれる。瞬く間に犯人を狙撃して、事件はマスコミにも知られないまま解決した。
 隊員の訓練は過酷だった。東北地方(北上山地)に広がる原生林に、ヘリコプターからパラシュートで降下して、決められた目的地まで、自力で到達するというものだった。
 ひと月以上かかる行程でも、食糧は3日分だけ、民間人とは接触してはならないという、ルールが決められていた。耐えきれず発狂した者もいたし、帰って来なかった者もいた。
 隊員の中でも特に優秀だった主人公(味沢岳史)が、民間人と接触したルール違反から、自衛隊を退職することになる。そしてこの退職の理由をめぐって、話は展開していく。
 訓練と同じ日時に、残虐な大量殺人が起こった。13人のうち一人を残して、全員が手斧によって殺害された。ちょうどその場に居合わせた、主人公が怪しまれる。
 主人公は極限状態にあったのを、山道を歩いていたハイカーの娘(越智美佐子)に助けられた。娘は救助を求めに引き返したが、その時に事件に巻き込まれ、斧で殺害された。
 一人だけ生き残ったのは少女(長井頼子)だったが、目の前で起こった衝撃から、心身を喪失していた。事件後、納屋に閉じこもっておびえていたのを助け出される。父親(長井孫一)が頭を斧で割られるのを見覚えていて、それが主人公だと思い出すことになる。
 事件の真相を探ろうと、地元の刑事(北野隆正)が立ち上がる。生き残った少女に近づいて、目撃したことを思い出さそうとする。主人公を犯人だと確信すると、追跡を深めていく。もと自衛隊員であるということも知ると興味をもった。
 主人公はこの町(羽代市)に住み着いて、保険の仕事をしていた。娘と二人で暮らしていたが、刑事はその娘が生き残った少女であることを知って驚く。ほんとうの親子ではないことも知ると、罪滅ぼしから少女を育てているのだと判断した。
 殺害されたハイカーには、そっくりな妹(越智朋子)がいた。この町の新聞社に勤務する記者だった。暴走族に暴行された時に、主人公に助けられて、知り合いになる。殴られても反撃もせずに、何度も起き直していて、きみ悪がって去っていった。傷ついた主人公を、病院にも見舞うことになり、記者は好意をいだくようになった。
 記者仲間が車を崖から落下させ死んでいた。助手席には女が乗っていて、ヤクザの情婦だった。女の死体は見つからず、女性記者は偽装されたのではと疑っている。
 町には勢力を誇るヤクザ組織があり、ボス(大場一成)は建設業を営み、政界とも結びつき、自衛隊の上層部ともつきあいを広げていた。記者は癒着と汚職を探っていて、自殺に見せかけて殺害されたものと見ている。
 情婦に掛けていた保険金をヤクザが請求してくる。この件を担当していたのが主人公だった。遺体が見つからないと、保険金は出せないと答えるが、ヤクザはボスの力を借りてねじ込んでくる。
 ボスには一人息子(成明)がいて、溺愛している。会社でも重要なポストを任せているが、暴走族のボスとして暴れていた。女性記者が探りを入れていることを知ると、仲間を連れて襲いにゆく。
 力余って殺害してしまい、父親に泣きつく。息子の失敗に激怒するが、トップに立つ者は自分で手を下してはならないことを教えた。主人公は記者の死を知ると、暴走族全員を相手に立ち向かい、持っていた斧を投げて、リーダーを殺してしまった。先には手を出さずにいたのとは真逆な、凶暴な資質が読み取れる。
 父親が息子の死の報告を受けたのは、自衛隊の演習を上空から視察しているときだった。資金援助をして自衛隊の幹部たちも同乗していた。そのなかには主人公の退職に立ち会った上官も混じっていた。
 特殊工作隊の存在を隠し通す必要から、主人公の退職時期を遡って、工作隊に入る前の勤務地でのことにするよう命じていた。金力を用いて自衛隊をも動かせるボスは、警察や新聞社の良心と正義を歪めていた。刑事は主人公を尾行するなかで、主人公が悪人なのかという疑問を感じ出す。
 社長の息子を殺害したのは事実だったが、大量殺人ははたして彼の単独犯だったのか。映像として映し出されたのは、父親が突如狂気に襲われ、次々と隣人や家人を斧で殺害する姿だった。
 主人公はそれに出くわして、父親が娘に向かって斧を振り上げたときに分け入って、取り上げた斧で父親の頭に一撃を加えていた。娘はそれによって救われたわけだが、目撃したのは主人公が父親を殺害する瞬間だった。
 主人公が娘の実の父親を殺害したことは確かだった。娘はその衝撃的なイメージだけを脳裏に定着させ、それ以外の記憶を喪失してしまったのか。娘はその後、予知能力を身につけていく。
 学校教師は彼女が試験問題を予知したといい、主人公を襲ってトラックが突っ込んでくるのを予知していた。さらに娘はそのトラックに轢かれればよいと思ったということも打ち明けた。
 娘を引き取り親子として呼び合う間柄になっていながらも、娘はこの父親を憎んでいたのだと、彼女を気づかう刑事は解釈している。主人公と刑事と娘は、行動を共にすることになるが、特殊工作隊が送り込んだ監視員(渡会)に捕らえられてしまう。
 3人とも知りすぎた人として、抹殺されようと、さらに本隊がヘリコプターで追いかけてくる。ヘリコプターは二機だったことから、敵は22人だと言って、主人公は生き延びるには彼らを倒さなければならないと決断した。
 演習中の一般の自衛隊員と混じりながら、工作隊との見分けがつかなくなってもいる。戦車に追われて砲弾にさらされる。行き詰まりとなったとき、刑事は二人を残して、逃げてきたトラックに一人乗って戦車に突撃して、自爆してしまった。
 二人はトロッコに隠れたが、ヘリコプターから狙い撃ちをされる。トンネルに入ったとき、娘に言い聞かせ、ヘリの音が止んだときに、トロッコを動かして生き延びるようにと言う。ライフルを手にトンネルを出るとヘリからの機関銃が響き渡った。
 娘が走ってきて、おとうさんと呼びかける。父親はこの人なのだと確信した、最後のことばだった。ヘリには昔仲間がいて発砲していたが、操縦を誤って崖に激突した。娘が撃たれて死に絶えると、肩に担いで平原に並ぶ戦車に向かって進んでいった。生存者はおらず、事件はおそらく闇に葬られることになるのだろう。