第318回 2023年11月1日
イングマール・ベルイマン監督作品、スウェーデン映画、原題はScener ur ett äktenskap 。
第1話、タイトルは「無邪気さとパニック」。夫婦がインタビューを受けている。夫(ユーハン)は心理学の助教授、妻(マリアン)は弁護士、二人の娘がいる。経済的に問題はなく、車庫も2台分ある。35歳で三人目を妊娠したが、中絶をして悔やんでいる。理想的なカップルとして紹介されるが、本音はそうでもない。ひとりが席をはずすと、「実は」からはじまる話に変わる。インタビュアーは学生時代の妻との同窓生だった。
親友夫婦がやってきて、インタビュー記事をネタに談笑している。話を聞いていると二人の仲がギクシャクしているのがわかる。妻は夫を毛嫌いしていて、おもな原因は浮気相手に去られて、落ち込んでいることによる。いらいらが夫にぶつけられる。夫は妻の浮気を知っている。離婚を口にするが、ふたりは仕事上のパートナーなので、別れると生活が成り立たない。会社の経営者だが、夫は商品開発、妻はデザインを担当している。妻同士、夫同士がそれぞれの話を聞いてやっている。弁護士の妻は、離婚調停は得意な分野だった。
他人のふり見てわが身を振り返ると、大差なく自分たちも危機にあった。ベッドで並んで読書をしているとき、妻が妊娠を告げる。夫の反応は鈍い。生みたければ生んだらいいという態度から、いさかいがはじまる。やっと落ち着いて前向きな方向にいくのだと、見ている私たちは思った。次の場面では妻が病室で寝ている。夫が車でやってきて、ふたりの会話からあす退院なのだとわかる。次に中絶という語が聞こえてきて驚く。そういう結論になっていたのだ。夫は仕事の合間をぬってやってきたのだった。退院をしたら二人で旅行しようと約束をして、病院を去った。残された妻は中絶を悔いて泣き崩れた。
第2話、タイトルは「じゅうたんの下を掃除する方法」。今回はふたりの親との関係が描かれる。具体的な姿も声も出てこないが、電話での受け応えを通じて、娘や息子との関係がわかってくるのがおもしろい。離れて暮らしていると、親はいろんな心配をするものだというのがよくわかる。夫の職場と妻の職場も写し出される。夫が心理学の実験をしていると、同僚の女性が訪ねてくる。閉鎖空間での二人だけの対話から、不倫の関係かと思わせるが、そうでもないようだ。夫は詩を書いていて妻には内緒だが、この同僚には読んでもらって意見を求めている。出版社に持ち込むようなものではないと酷評を放っている。
妻の弁護士事務所では、離婚をしたいという老婦人が訪れて、話を聞いている。何の不満もないのが不満で、愛とは何かを問いかけている。愛する力はあるはずだが、使われないまま閉じ込められていると言い、どんどんと感覚が鈍くなってきていると訴えている。聞くほうもそれを実感して、ハッとした。よくわかると答えていた。
妻は海外旅行の計画を話し、フィレンツェがいいが、アフリカや日本もいいという。夫はいなかでゆっくりしたいと言っている。ふたりでイプセンの観劇をしたあと、夫は女性の自立を不満げに論評している。セックスの話にもなるが、妻は抱いてもいいのよということばに、夫はありがたいが疲れているのでと答えた。結婚10年目にしての一般的な会話なのだろう。言ったほうも、聞いたほうも、ほっとしたように「おやすみ」を言い交わしていた。
第3話、タイトルは「ポーラ」。いきなり深刻な話になった。妻が饒舌にしゃべっているが、夫は憂うつな顔をしているところから話はスタートする。マリアンとユーハンのあいだに、ポーラという女性が登場した。夫の浮気相手だった。浮気が本気になっているようで、深刻な二人劇に終始した。ポーラがどんな人物かを知りたくて妻は写真を見せてくれと夫にせまる。写真を見ながら、スタイルはいいし胸も豊かだと印象を語るが、私たちにはわからないままだ。夫は口は重く、語りたがらないが、妻が繰り返して問うと、体の相性まで得意げに話出している。夫が妻を振り切って去ったあと、親友に電話をして、思い直すよう説得してもらおうとするが、友人は知っていた。知らないのは自分だけだったのだと、打ちのめされた。ここでも友人の声は聞こえず、一人芝居である。舞台劇の醍醐味を味あわせる戯曲と演出だった。
第4話、タイトルは「涙の谷」。揺れ動く心と言ったらよいか。夫が戻ってくるのを愛人が迎えているのだと思ったが、半年ぶりに妻のもとに帰ってきたようだった。妻は若返っていた。愛人もできていたようで、夫は冷静に受け止めている。夫のほうはうまくいってないらしい。妻のもとに帰りたがっているようにもみえるが、ときおり愛人のことを話はじめると妻の顔はくもる。ここでも妻と夫の二人劇で、ほとんどが会話だけで話は進展する。電話が効果的に挿入されるのは、毎回同じ。今回は妻の愛人からだった。夫が来ているのを知っていて嫉妬をしている。帰ってもらうので1時間後に電話するよう言った。夫を追い返すが、振り向いて顔を見合わすと、感極まって抱き合い、今夜は泊まるという。妻は決意して、愛人からの電話を夫の前で、聞こえるように別離を宣言した。妻は泣きながら夫にすがりついた。ふたりはもとの鞘に戻ったように眠りについた。夜中の1時前に夫が寝つかれず、ここにはいられないといって起き出し、やはり帰ると言い出す。妻は夫の愛人から手紙をもらっていて読むように手渡している。引きとめる効果はなく、夫が去ったのを、放心状態で妻はカメラを見つめていた。
第5話、タイトルは「無知な者たち」。離婚のサインをもらいに夫の研究室でのふたりのやりとり。これで最後だというので、肉体関係をもとうとした。夫は警備員が回ってくるかもしれないと心配したが、妻はまだ夫婦なのだから問題はないと言い放った。心は行ったり来たりの繰り返しで、最後は夫が暴力をふるうに至り、互いにあきらめをつけたようにサインをする姿で、はてしない堂々巡りは終わった。
第6話、タイトルは「夜中のサマーハウスで」。離婚をして10年後の話である。ふたりで友人のサマーハウスを借りて、結婚20周年を祝っている。妻が母親を久しぶりに訪ねて、亡くなった父との愛情を確かめている。母親がはじめて登場した。孫娘がボーイフレンドを連れてやってきたと言っているところから、年月のたったのを知らせている。娘が離婚したことを両親が立腹したことや、今は再婚をしていることも、母娘の会話からわかる。
夫もまた再婚している。以前の愛人とはすでに別れていた。研究所の同僚ともしばらくは関係をもったようだが、今はさらに新しい愛人ができたようで、同僚は探りを入れている。出入りの多い研究室から人目を避けて、電話で待ち合わせの約束をしている。車で帰宅中に、女性が乗り込む姿を、遠くから写し出していた。カメラがアップにされると、別れた元妻だった。再会して浮気を楽しんでいたのである。いっしょに暮らしていたときには忘れてしまっていた新鮮さがあった。かつて二人が住んだ家に行き、懐かしんだあと、さらには友人のサマーハウスを借りて二人だけの時間を過ごした。何も離婚する必要もなかったのにと、笑えることになるならば、無駄な人生を楽しむ人間喜劇ということになるだろう。