富野由悠季の世界

2019年10月12日~12月22日

兵庫県立美術館


2019/10/20

 群がる男たちの異様な視線に、従来の美術館の常識的秩序が崩れ去った思いがした。以前、福岡市美術館でゴジラ展を見た時の光景を思い出す。汗くさい熱気は美術館とは対極にあるものだが、その時は年配の男たちの姿が目立った。ここでは20歳代から50歳代の男、中でも40歳前後のガンダム世代が中心か。女性はきわめて少ない。いかにもという肥満型の観客が目についたが、日頃は美術館とは縁遠そうな客層を目にして、美術館文化の広がりを感じた。

 アニメを美術館でどうとらえるか。働き盛りに入ったガンダム世代の学芸員が仕掛けたのだと予想できる。誘いかけに対して作家ははじめその企画をことわったという。動画は美術館ではなじまないが、これを美術展として実現したということは、結果としてこの分野が美術史に組み込まれてしまったということでもある。絵コンテと原画とクリップ映像が中心だが、創作メモや企画書の展示を見ながら、先行する高畑勲展との同質性を感じた。美術展は私の場合、平均一時間の鑑賞時間ですむ。今回は文字情報を読み出すと、とても時間が足りない。展示品だけでなく、解説キャプションも含めると、文字数は大量で、資料的意味が強く、美術鑑賞を通じて芸術的評価をくだすには、まだ時間がかかりそうだ。

 リアルタイムでガンダムに接した同世代だけでなく、共有するものがあってこそ、郷愁から脱した美術館での評価に通じるのだと思う。かたくなに美術に組み込まれることを拒絶する立ち位置もあるだろう。美術史は漫画やアニメを抱き込んで勢力を拡大していこうとしている。アートだけでは立ち行かなくなった美術館が、観客動員を目指せば、自然と大衆の支持を得たエンタメへと向かうのは必定だ。作者よりもガンダムの方が、圧倒的に有名で、作者を離れて一人歩きしている。デパートでの展覧会なら、ガンダム展となっただろうが、公立の美術館を巡回する限りでは、作者の全体像と評価へと向かうことになる。


by Masaaki KAMBARA