美術館の悪ものたち

2023年6月27日(火)〜9月3日(日)

国立西洋美術館 新館 版画素描展示室


2023/06/27

 特別展のはざまで、久しぶりに常設展を楽しんだ。ヨーロッパの国立美術館とついつい比較してしまう。半世紀前にはじめてきたときに比べると、ずいぶんと充実したように思う。松方コレクションをベースにしているので、出発点では古画などひとつもなかったはずだ。今ではヨーロッパの美術館めぐりをしているような気にもなるぐらいにまで、点数が増えてきている。

 西洋美術史の輪郭を中世からルネサンス、バロック、ロココと続く絵画によって、たどることができる。様式の変遷は充分に読み取れるだけの多様性を示している。ビッグネームでいえば、レンブラントがないとか、プッサンははずせないのではという疑問は残るが、無いものねだりをすればきりがない。そんなものはいくら購入したくても、市場に出ないのだからどうしようもない。むやみに価格をつりあげてきた美術品売買の姿勢が問われる。国の文化のステータスを示すもので、レンブラントを何とか一点は手に入れたいとなると、さらに価額が釣り上がってしまうのだ。これらは美術館の悪ものたちである。

 今回、小企画展として版画素描室で「美術館の悪ものたち」が開かれていた。悪魔や怪物など魔的存在がイメージ化されてきた系譜をたどろうとしている。主題を追っているので、ビッグネームをそろえる必要はないのだが、やはりデューラーが輝きをはなつ。それはイマジネーションの豊かさばかりではなく、技法の確かさに由来するものだ。目を凝らして見つめてみたくなってくる。細部に神が宿っている。版画といえども薄っぺらな印刷物のようなものも多いが、デューラーには深さがあるような気がする。作品の表面をなぞって見るのではなくて、奥に向かってほりさげて見ているという感じなのだ。このコーナーは常設展示としていつも並んでいるものではないだけに、素通りはできないような、価値ある時間をすごせることになった。


by Masaaki Kambara