NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)

2019年6月28-29日 愛知県芸術劇場 大ホール

2019年7月5-6日 神奈川県民ホール大ホール


2019/6/29

 バラエティに満ちた4演目から構成された公演だった。メインになるのは、最後の「Shoot the Moon」と最初の「Singulière Odyssée」で、振付はともに、ソル・レオン&ポール・ライトフットである。閉鎖された部屋を使った夢想が、テンポの良いリズムに合わせて展開する。男女のデュオはミステリアスにドラマチックに展開する。抽象舞踊ではなく、具体的なシチュエーションが想定されるが、謎に満ちていて奥深い。フレッドアステアのトリッキーなダンスやリプチンスキーの人間アニメを思わせて興味深い演出だった。映像を使った視線の交錯に加えて、謎めいた空間の多次元化が、興味をそそる。

 もちろんダンサーの鍛え抜かれた技術に支えられてはいるが、舞台装置と空間演出の見事な仕上がりに目が向かう。窓のある私室や人の行き交う駅の閉ざされた待合室というシチュエーションは、オランダにあっては日常生活の定型であって、17世紀のオランダ風俗画以来、都市に根づいた男女のプライベートな情事の風説が伝えられる。抽象的なバレエやモダンダンスとは一線を画した具体的なドラマ仕立ての性格は、一枚の静止画を用いた広報用展示物からもうかがえる。

 日本人ダンサーも欧米の舞踊団には数多いが、今回は刈谷円香の武道の型を思わせるようなポーズの決めが際立っていた。脳裏には留まるが、流れるように続くので、どこをとっても完璧であるのを知るには、ビデオ映像の静止画で確認する以外にはない。しかし流れながらも留まっていて、それはたぶん日本人の感性の中にある型だと思う。プロテスタントの根づいたプラグマティズムのオランダと見事にフィットしているように見えた。

 舞台公演には美術展と違ってさまざまな制約がある。以前台風のせいで横浜でのモダンダンスを身損ねたことがあったが、今回も台風騒動で落ち着けなかった。それだけにかえって、記憶に残る鑑賞となった。日本ではこのあと横浜公演が続くようだ。それにしてももう少しチケット代が安くならないかと思ってしまう。数多いからよいというわけではないが、展覧会なら10本も見えるのだから。もちろんそれ以上にかかる交通費は棚上げしてのことだから、言ってもはじまらないことではある。


by Masaaki KAMBARA