北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック —モダン・パリのエレガンス

2019年04月27日~09月23日

富山市ガラス美術館


2019/7/18

 アール・デコがアール・ヌーヴォーとはどう違うのかは、ルネ・ラリックのガラス作品を見ているとよくわかる。もちろん対比はエミール・ガレにあるが、ガレのうねるような曲線の多様を見飽きると、ラリックのシンプルな直線に惹かれてゆく。シンプル・イズ・ベストという心情は、自然のもつ形の輝きを伝えるもので、氷の結晶に魅せられた中谷宇吉郎の想いに通じるものだ。色を排したラリックの透明ガラスは、氷の結晶のように見える。中に半透明な部分が混じると、神秘のヴェールにおおわれて、独特のエレガンスを際立たせる。

 香水瓶も随分と手がけているが、その潔癖なまでの冷たさが美女を引き立たせる条件となる。情念のうねりのようなアール・ヌーヴォーが、炎のように熱い輝きを見せたとすれば、ここでは太陽に対する月のように、冷たく輝いてみせる。炎は同じように揺らめくが、熱くはないのだ。世紀末のファムファタールが男にやけどをさせる火のイメージだとすれば、こちらはどうもカルメンではなさそうだ。痛みも伴わないで一瞬のもとに切り裂かれる氷の刃と言えようか。

 このクールな鋭い切心地が車のヘッドのデザインにも採用されていく。ラリックのカーマスコットは以前トヨタ博物館で、多数見た記憶がある。その後も何度か出くわし、風を受けて疾走する姿に、直線的なベクトルをもった新時代の予感を感じ取った。これはレーシングカーがサモトラケのニケよりも美しいと言った未来派の宣言と対応するものであり、直線的に上昇する摩天楼のイメージとも連鎖するものだろう。パリからニューヨークに大きく文化の移動が行われるなか、ラリックのファッションの位置づけは重要だ。アメリカ人ティファニーと対比しながら、そのガラスの味わいを見ていく必要があるだろう。

 ガレやティファニーと並んで、日本でも人気のガラス作家で、個人美術館も複数存在している。北澤美術館もガラスのコレクションではよく知られており、ガラスのもつ表現の多様性に気づかせてくれる重要なポイントとなっている。


by Masaaki KAMBARA