特集展示—生誕100年 網谷義郎 / 新収蔵品を核に 東西作家のコンチェルト 

2023年04月25日~07月17日

BBプラザ美術館


2023/5/9

 著名な西洋画家を下敷きにして、日本の画家の仕事を重ね合わせていく。いわば名品展の体裁を取るが、前座のように入り口に網谷義郎(あみたによしろう1923-82)のコーナーをつくっている。生誕100年記念ということだが、58歳で没している。一点だけでは見落としていたかも知れないが、まとまってみることで見えてきたものがある。味わいのある人物であったり、味わいのある風景であったりと、目立って派手なパフォーマンスをしてはいないのに、心に染み込んでくるものがあるのだ。人間観察を下敷きにしているが、肖像画ではない。どこの誰というのではない。人間存在そのものへと目は向いているようだ。波瀾万丈の英雄像でもない。ただそこにたたずんでいるだけでいい。それだけで人間っていいものだと思えてくるような、そんな絵を描きたかったのだということがよくわかる。

 かつてはそれはサーカスのピエロであったかもしれない。ピカソやルオーと共有するものがある。宗教性と呼んでもよいものだ。個を描くのではない、類を描くことで、顔をもたない無名性が、人間の何たるかを語りはじめていく。少年が立っている。少女かもしれないが、それはどうでもいい。ここでは「立つ」ということを通して、人間が描かれている。頼りなげに立っているのだ。それは人類が二足歩行をはじめることで、ヒトとなったという意味だけではない。それを超えて、立つことの喜びと不安が、顔の無表情にさえ表情を与えていくのである。


by Masaaki Kambara