風景の科学展 芸術と科学の融合

2019年9月10日(火)~12月1日(日)

国立科学博物館


2019/11/30

 世界の自然を写した上田義彦の写真に、科学者たちが解説をつける。プロデュースは佐藤卓、グラフィックデザイナーである。美術臭のない解説は、的外れのことも多いが、新鮮かつプラグマティックだ。これを読んでいると、これまで美術評論家や学芸員の書いてきた解説のほうが、的外れではないのかと思ってくる。岩山が写されれば、岩石の話になるし、地球の地質の話に持ち込もうとする。つまり美という曖昧模糊とした抽象語を排斥して、数値化できる科学的記述のみを伝える。

 風景画ではなくて、風景写真だという点が、芸術と科学を近づける。画家の描いた岩山の石の名を正確に言い当てられないからといって、画家や鑑賞者失格というわけではない。そのかわり絵の具の名は、言い当てることができるかもしれない。つまりはどこに目が向くかという話である。写真の場合はまるごと自然そのものを写し込んでいて、科学者は科学の目で、芸術家は芸術の目で対象をとらえている。画家は得てして絵の具の話にしようとするが、それもまた近視眼的な見方だ。

 植物や地質の研究部名で書かれた科学者たちの解説があまりに面白かったので、目を凝らすが、文字が小さすぎて読めない。デザイナーのポリシーとしては、キャプションはできるだけ小さくしたがるものだ。学芸員をしていた若い頃、私もまたそうだった。高齢者のファンが圧倒的多数を占める現況の美術館では、せめて同レベルで写真と解説文を並べてほしかった。芸術と科学の協調の名においてもである。展覧会名に反して上田義彦写真展となってしまっていたように思った。それはデザイナーのアーティストに対する遠慮からだっただろうか。


by Masaaki KAMBARA