横尾忠則展 満満腹腹満腹

2023年01月28日~05月07日

横尾忠則現代美術館


2023/4/28

 開館10周年記念、これまでの企画展の復習である。ダイジェスト版であるが、見ごたえはあった。壁面展示が主なので、パフォーマンス性が豊かだった個々の臨場感は望めないが、横尾ワールドが内包しているテーマの多様性には驚いてしまう。私がおもしろがって見続けたのは限られた期間だったが、それでもなつかしく思い出された。それぞれは企画者の学芸員名が明記されていて、横尾作品を使いながら自在に遊ぶ姿を想像し、楽しそうな職場をうらやましく思った。若い学芸員が自由に企画を立て、予算的裏づけがあって、実現できることは現在ではまれなことだろう。私設の美術館なら収入のことがまず問題になって、採算の取れない企画では提案をしても相手にされない。企画が萎縮してしまっているのである。

 コロナ禍が始まった頃に「横尾救急病院という企画展があったのをタイムリーだと思ったのを思い出した。今回はそれに先立って企画だおれとなった展覧会の紹介もされ、舞台裏がみえて興味を増した。それにしても展覧会だけではない。舞台公演もすべてストップした、まるで戦時下の文化状況だったのだと改めて思い返した。

 何年か前に東京で大規模な横尾忠則展が開かれたことがあった。1000点も並んだのだったか、横尾館からも200点を出品したようだ。個人的には、毎回ここに来て楽しんでいたので、わざわざ東京までは行かなかった。そのときの穴埋めの大騒ぎのようすが学芸員の悲哀を全面に出して企画化した「学芸員危機一髪」も、舞台裏を通して展覧会を活性化させようとするおもしろい発想だった。

 見ていなかったものも多いが、そのなかではY字路に焦点をあてた企画が興味深い。インパクトのあるY字路に立てられた建築は、これまで何度も目にして、記憶に定着しているが、ここに並ぶのは真っ黒の画面である。ぼんやりとした闇に目をこらすとY字路に立つ家屋が見え出してくる。亡霊のようなと言ってもいい。家がスポットライトで浮かびあがり、背景が闇というのが定番だとすると、これらはそれを逸脱している。Y字は迷いの象徴だが、路は一見すると、単純に左右に分かれていても、先ではひとつになる場合も現実世界では多い。つまり一筋縄ではいかないのだ。

 動物ばかりを集めた企画のあとは、肖像を集めた企画が続く。安直な内容だが、素朴ななかで繰り返される執念を感じさせる。写実主義の画家ではないが、生命体の個性を的確に把握し、描き分ける本性が輝きを放っている。滝の絵はがき涅槃像を山ほど集めるという、異様なまでの執着にも通じるものだろう。


by Masaaki Kambara