ニーノ・カルーソ展

記憶と空間の造形 イタリア現代陶芸の巨匠

2020年01月04日~02月16日

京都国立近代美術館


2020/1/26

 陶芸という領域が、どれだけ建築空間に浸透できるかという課題。今まで考えたこともない思考だっただけに、新鮮な響きを感じさせる展覧会だった。パーツを組み合わせて高さと広がりを生み出す。高さは柱を、広がりは壁面を構成し、ともに建築との一体化を実現する。テラコッタの素焼きの感覚は、生身の素木の感触をなぞっている。

 格調の高さを獲得できたのは、古代ギリシアのスタイルを取り込んだからだろう。神話世界のイマジネーションの豊かさは、神殿を支える女人柱やアトラスとの連想からもうかがえる。そこでは身体をなぞるリアリティが、重力の実在を見せてくれる。それは重力に逆らって自立する建築物の悲哀とも言ってよいが、ニーノ・カルーソの場合、多くは柱の形状を残している。そこではギリシアに点在する列柱のように、支えるべき屋根がない。

 抽象的フォルムが古代をおぼろげになぞりながら、ゆったりとしたドレープが、神殿に捧げられた神秘のヴェールを開きはじめる。柱だけではない、門がなかなかいい。いわばフレームだけのことだが、陶芸が工芸を脱して、建築空間を支えている。陶芸の歴史は古いが、たいていは建築内におさまり、建築を覆い尽くそうというものなどは、これまでなかった。


by Masaaki KAMBARA