メスキータ

2019年06月29日~08月18日

東京ステーションギャラリー


2019/7/18

 イスラム建築の展覧会かと思ったが、そうではなかった。エッシャーの師の版画家で、日本では初めての紹介である。エッシャーの一群の作品と類似するものがあるが、資質的には全く異なったものだろう。ユダヤ人でナチの犠牲になるが、それを象徴的に示すのが、怯えているような表情で特徴的な肖像画のシリーズである。肖像画は版画家の領分ではないはずだ。誰か特定の顔を刷り増しするのは、犯罪者であるかヒーローであるかだろうが、それが自画像だとするとそこには肖像を越えたメッセージを聞き止めることになる。

 そしてそれは小鳥や花のシリーズとも連動して毒々しいまでの悲劇を予感させている。木版画によるモノクロの花鳥図だが、原色の花を想起させるという点で、田中一村の奄美の花に似た孤独感が漂っている。メイプルソープや荒木経惟や蜷川実花の写真の花を思い浮かべてもいい。それぞれが死の予感を伝える点で共通している。あるいはウォーホルの花弁を加えれば、さらに説得力を増すだろう。死の不安はさまざまな形で訪れる。戦火の恐怖のこともあるだろうし、不治の病の場合もあるだろう。しかし、いずれにしても不条理に訪れる得体の知れない闇であることは確かで、現代人なら誰もが抱えている共通認識に違いない。そこに共鳴する部分があって、それほど派手やかなものとは思われないのに、忘れがたい印象を残している。


by Masaaki KAMBARA