石阪春生と新制作の神戸

2023年01月04日~04月16日

神戸市立小磯記念美術館


2023/3/14

 シリーズ化した「女のいる風景」の大作が15点並んでいて、見ごたえのある展示風景になっていた。横顔の女性と正面向きの人形が対比をなす。ときおり両者は逆転するが、ともに絵画であるのだから、ともに人形だといってもよい。視線の先に何があるのかは不明のままだが、多くは画面の外側に目を向けている。額縁がしばしば絵画に登場する。そこに絵が描かれている場合と、実景が描かれている場合があるが、ともに絵であるのだから、ともに実景ではありえない。このトリッキーな構造は、細密描写にこだわりを示すときに、効果的に立ち現れてくる。

 崩れた家屋や朽ちた家具と同一平面上に、埋もれるように瞳を輝かせる少女がいる。フランス人形のような衣装が、壁に広がる枯れ葉と同化している。少女の顔が大人びて見えるとすれば、波打つようにカールする髪に由来するものだろう。謎めいた顔だちはフジタに似ているが、フジタが範としたレオナルドの描く天使、ことに真横を向いた受胎告知の天使から来るものかもしれない。

 自然にひそむ神秘思想は、油彩画というメディアと相性がよく、自然をいつも人間のかたちを取るものとして、再構成している。壁のような重厚な油彩画のマチエールは、抽象絵画にも実現していて、壁の抽象を突き破って、突如として少女像が浮かび上がってきたようにみえる。それは幻影であって、このとき実在は人形のほうだということがわかる。師の小磯良平も好んで描いたフランス人形が、そこにはある。幻影のほうは目をそらせて、壁をすり抜け、あらぬ方向へと向かっている。それがレオナルドの描いた夢見る天使のまなざしだとすれば、確かに幻影でもあるのだろう。


by Masaaki Kambara