138億光年 宇宙の旅

—驚異の美しさで迫る宇宙観測のフロンティア

2019年12月21日~2020年02月02日

明石市立文化博物館


2020/2/2

 地球からはじまり火星、木星、土星、太陽、銀河系へと続く壮大な写真展である。芸術写真ではないのだが、それ以上のアーティスティックな仕上がりに感動する。これがきっかけで宇宙に夢をはばたかせる子どもたちが誕生してくる。

 大人は誰も一度は天文学者になりたいと思ったことがあるはずだ。天体望遠鏡を生涯見続ける職業につければ、どんなにいいだろうと、私も夢をみた。宇宙の彼方には何があるのだろうという単純な疑問は、やがては成長とともに消え去ってしまう。その段階で空を見ることもなくなっている。

 悲しい時に空を見上げるか、うつむくかで、職業の選択肢は変わってくるだろう。空を見上げる者は天文学者になっただろうし、地に目を向けた者は考古学者になっただろう。いまさら何になりたいという年齢ではなくなったが、宇宙へのロマンは健在だ。前回はここで古墳に出会い、考古学のロマンを満喫したが、今回は天文学である。明石は文化博物館なので、美術品を並べる義務はない。

 切り取られたフレームは、さまざまな思いを伝える。写真がおもしろいのは、サイズが宙ぶらりんのまま、脳裏を行き来する点だろう。宇宙のはての映像なのに、躍動感あふれる生命感の表現のようにも見える。血管の浮き上がるようにも、内視鏡で体内を巡っているカメラのようにも見えたりする。そして信じられないほど画面は明るい。モノが目に見えるのは光があるからだが、宇宙にはこんなにも光源があることに驚いてしまう。そして光があるということは、それらが写真に撮れるということでもある。

 地球にいると自力で光るのは太陽しかないが、宇宙にある無数の光源を目にして、めまいに似た感覚をおぼえる。星の数ほどという形容が、真に迫ってくる。間近にある太陽が燃え盛っている。まるでゴッホだ。そんな中で、土星だけが沈静した無表情を浮かべて、不気味でもあるが、究極の幾何学的な美の結晶となっていた。CGで合成したとしか思えない形式美を誇っている。太陽とは異なったこの神秘の姿は、自身では光を発しないという「うつしみ」の美学に発するものだろう。月ではまだ明るすぎるという思いが加速して、土星へと至る。確かにそれはメランコリーと結びつく心情を、まだ天体望遠鏡もない中世の占星術は感知していたように見える。


by Masaaki KAMBARA